#31 シギヲスイトルフ
☆第31話「シギヲスイトルフ」
(脚本:須田泰成、絵コンテ:酉澤安施)
「我が校の墓場にはとても恐ろしいゴーストたちが眠っています。中でも恐ろしいのは、ボロゾ・ジーキ伯爵のゴースト!」
とサラマン先生は黒板に凶悪なゴーストの顔を描く。チョークの粉を払う手の動きがハマってます。
何やら恐ろしい力を持つというジーキ伯爵は、重い墓石の下で深い眠りについているのだそうだ。とそこまではよいのだが、言っちゃいけない呪文をわざわざ教えちゃあかんでしょ、ジーキ伯爵を目覚めさせる呪文なんて、知らなきゃ誰も唱えないのに……シギヲスイトル、フ、しぎを吸い取るふ、なんて。
堂々と居眠りしていたゾビーは「今言ったところは明日のテストに絶対出します」と言い渡され、さあ困った。
まあクラスの違うAMはともかく、ピラニンスピモンよりはヒッキーとリディーの方が頼りになりそうだもんな。テストのことを教えてもらおうと、2人を追いかけるゾビー。こういうとこゾビーは積極性あるんだよね。玄関からちょっと走っただけで息切れするくらいだから、体力はなさそうだが。
「授業中に居眠りしてるから悪いのよ!」
「ごめんなさいもう居眠りはしないゾビ……」
「かわいそうだから教えてあげようよ」
ヒッキーの温情でテスト対策も無事に済み、ゾビーは安心して寝床に入る。手で掘り起こした土の中に横たわって眠る前に、よりによって例の呪文を、よりによって例のお墓のこんな近くでおさらいしてしまう……
SINCE
19??-19??
Boroso Jieck
年号の下2桁は石が欠けていてはっきり読めませんが、没年は1965かなあ。見た目の割に最近だと思ったら、そうか、電化製品だから20世紀なのか。
クモの巣まみれの墓石がひとりでに倒れ、先生が黒板に描いたあのゴーストがお墓の中から出てくる。ゴーストは低い声で笑いながら、寝息を立てるゾビーの口の中へ……今回『ミラーヤムヤム』に続きゾビーが不穏な感じですが、もしかして脚本の好みもあるのかしら、と思ったり。
イエローリザードの試験用紙はサラマン先生の顔のマーク入り。困ったようにペン先を見つめるチュービーの後ろで、ゾビーは目を黄色く光らせ、口元には牙、何やら青白いオーラをまとっている。これで「ゾビーが変ですねえ」と気付いておきながらスルーしちゃう先生……。
「ボロゾ・ジーキ伯爵について? へへっ、こんなの簡単だ……」
オルガンのデタラメな伴奏に合わせていつもの曲を歌っているオンプーとリディーの背後を、ゾビーがのたのたと通り過ぎる。「あたしのおかげでテストばっちりだったでしょ」というリディーの声も全く耳に入らない様子で、
「みすぼらしい体だが仕方あるまい。まあ何とか役に立つだろう」
こんなゾビーに声をかけるオンプー、相手を選ばなさすぎる……
「一緒にフシギな歌歌わない?」
「なに、フシギ!? チュウーーー!!」
ゾビーは口を細長く伸ばして何かを吸い取ると、そのまま立ち去ってしまった。2人は改めて歌を歌い始めるが。
「オルガンが鳴らないわ!」
「音符が出ない!」
DQはフシギの鍛錬も踊り場でやるほど階段が好きなんだな……
「行くぜ、俺のフシギ!」
「アニキーかっこいいだぎゃー!」
ここでもゾビーが通り過ぎた直後に異変が起こる。かっこいいセリフとポーズを決めても肝心のつむじ風が出ない。失敗なんて初めてだぎゃ!
空を飛ぶフシギを楽しんでいたボロッカは、突然浮遊能力を失って墜落してしまった。「あれ、雨雲が出ないボロ…」って本人もいつも雨降るの分かって泣いてるんだな……。
ボロッカの次に狙われたのは、一人で頭を揺らして遊んでいるカボ。ここ、スロット扉の目がクラゲプリンになってるw お腹がボコボコとカボチャの形に浮き上がるのはちょっぴり不気味。
「あいつのフシギは何なのだ? まあいい、もらっておこう」
生徒たちのフシギはゾビーに吸い取られてしまったのだ。本性を現したゾビー=ジーキ伯爵は、「ボロローン!」と頭を傘の形にして席から飛び上がると、口からゾビー色の音符を吐いて攻撃。そのまま窓ガラスを突き破って外に飛び去ってしまう。
追いかけて墓場までやって来た一同が見たものは、墓石の倒れたジーキ伯爵のお墓だった。チュービーはいつの間にか顔が潰れて絵の具が枯れている。
墓標の上に立つジーキ伯爵、テカテカした質感のマントは吸血鬼のイメージか。ドッキーはつむじ風を出そうとするが、当然、空振り。逆にジーキ伯爵のつむじ風フォーエバーに吹き飛ばされてしまう。
「自分のフシギでやられる気持ちはどんなものかな……」
サラマン先生、子供たちのフシギは子供たちにとって何って言おうとしたのかしら……伯爵は手から投げ縄絵の具を出して「少し黙っていてもらうズラ!」ってフシギを奪うと語尾までうつるらしい。
「もうすぐこの学校のフシギは全て私のものとなる。ハハハハハハハ!」
調べ物をする先生のモニターにはグラフや地図や古い書物、それに
「MHS(R) HORROR 20XX (C)Copyright Midnight Horror 20XX-20XX.」
などと表示されています。が、学校のデータを全部探してもジーキ伯爵の弱点は見つからない。
さっき壊された窓の穴から風が吹き込み(ちゃんと消える教卓のロウソクの火!)、昨日のテスト用紙が教卓から飛ばされていった。おそらく1問目は「シギヲスイトルフ」の呪文を答える問題、2問目はジーキ伯爵について知っていることの自由記述?、3問目はジーキ伯爵の顔を描く、という内容のようですが、スピモンは一度描いた絵をぐちゃぐちゃに消してしまっているし、ピラニンは1・2問目の解答欄に「?」しか書いていないし、リディの問2の答えは「すごくこわい。」……ゾビーに対してあの自信で自分はその出来映えなのか、お前。そのゾビーはというと、「珍しく」答えをびっしり書き込んでいる……
『完璧な私にもカワイ子ちゃんに頼まれると嫌とは言えない弱点がある』
じ、ジーキ伯爵、自分の弱点を素直につらつらテストに書いてたのか……しかもあんなカッコつかない弱点を……!!
というわけで伯爵をおびき寄せるエサに選ばれたのは、
「ああ~~~怖いマグ……なんで僕がこんな目に……」
早口で震えているマグネロなんですが、マジでなんでマグネロなのか。そんなに不憫キャラで推したかったのか。
「またフシギのご馳走がやってきたぞ」と空中に現れるジーキ伯爵。こいつボロッカのフシギがなくても空飛べるのかよ! 金属を吸い付けるフシギっていうか、それは普通に磁石の性質だと思うんですが。それはともかく、玄関から語りかけるカワイ子ちゃん……リディーを見ているヒッキーの視線のシラケっぷりがやばい。
「ねえジーキ伯爵ぅ、あなたはフシギをたくさん吸い取っているんでしょう?」
「ハハハハハハ、いかにも。それがどうしたのか」
「そのフシギを見せてもらえないかしらぁ」
リディーも馴れたもので、凶悪なゴーストを微塵も恐れるそぶりのない見事な媚びっぷり。
「だってぇ、フシギを操っているときのジーキ伯爵ってかっこいいんだもーん……」
ウインクであっさりオチた伯爵は、頼まれるがままにボロッカのフシギを実演してみせる。雨雲を呼び出し、泣いて雨を降らせてびしょ濡れになるなんて、なんてかっこいいんだ……うん……。その横でさりげなくマグネロが校舎に生還していてちょっと安心しました。
とにかくダメージを与えられそうなフシギをどんどんリクエストしていきます。お次はつむじ風フォーエバー、それもドッキー一押しの「つむじ風フォーエバーゴールデンデラックスαがいーい!」。自分で出した竜巻に吹き飛ばされるジーキ伯爵を見て「フッ、バカめ。俺もまだ制御できねえフシギなのさ」とキメるドッキー。デラックス(第3話)だけでもけっこう大変でしたものね。
オンプーも黄色い声に加わって、よろよろのジーキ伯爵は「そ、そんなにかっこいいか?」とますます調子に乗っていく。今度はカボの耳打ちで、リディーがお願いしたのは……
「カボのフシギ、カボチャパニック!……ってなんだオイ!?」
空から降ってくるカボチャ、カボチャ、カボチャ! 逃げ惑う生徒を見て「なかなかすごいフシギじゃないか。気に入ったぞ」とご満悦のジーキ伯爵ですが、その頭上にも大きな影が……。
「カボのフシギってこんなにすごかったんだ……」
巨大カボチャに押しつぶされ、「お、恐るべしカボチャパニック……ぐえー」と断末魔を残してジーキ伯爵のゴーストは消えてしまった。吸い取られたフシギが元に戻り、チュービーも垂れた絵の具をいとおしくなでています。
後に残った古臭い掃除機を見て、サラマン先生は言う。
「データを調べていて分かったのですが、ジーキ伯爵は昼間の学校で使われていた掃除機だったんです。まだ使えるのに捨てられてしまって……吸い取ったフシギの力を使って、自分を粗末に扱った人間たちに復讐しようとしたのです」
やはりMHSの校内のお墓って、物にとっての墓場=昼間の学校のゴミ捨て場、という感じなんだろうか。人間に見捨てられた物が、人間に復讐してやる!という方向に行ってしまうのは分からなくもないんですよね。でも生徒たちは伯爵に同情こそすれ共感はしない、だって悲しい復讐なんかよりフシギを作って使っている方が楽しいわけですから。なればこそ、ジーキ伯爵のやり方は真っ向から否定されるしかないアンチテーゼだったのだ。
何より一人に一つ自分のフシギを重んじるMHSなので、他人のフシギを奪うこと、ましてそれで人に仇なそうとするなんてことは一番の重罪だったんですよね。最終的にそのフシギを逆に利用して、個々の特技を組み合わせて解決するという展開に結び付くのが小気味いい。
それにしても掃除機なのに爵位持ってるボロソージキ…ボロゾ・ジーキ氏、一体何者なんだよ。まあフタを開けてみれば色ボケのぽんこつ凶悪ゴーストだったわけですが、あんな立派なお墓まで用意して伝承されていたわけだし、前にも深夜の学校で同じような騒ぎを起こして封印されていたのかもしれないな……当のゾビーはカボチャの下敷きで「泥の中は気持ちいいゾビ……」と幸せそうに寝息を立てているのでありました。
ふしぎコレクション「ふしぎを吸うゾビー」
今夜のふしぎはゾビーじゃ!
ゾビーっていうかジーキ伯爵じゃ。掃除機VSミスターエックスの紙袋、吸い取ったゴミはこまめに捨てること……って紙袋はゴミ呼ばわりかいっ。
アイキャッチ:P
この一瞬でも転びそうになる安定のピラニン。
結局ピラニンの正体は「半魚人を目指すピラニア」という認識でいいのだろうか。