#32 風のささやき

やっと27人目の姿がはっきり映ったよ! 冒頭ピンクトードクラス左後ろの席、透明な「?」の姿がチラッと確認できます。初めて気づいたときの興奮が忘れられない……。

なお今回だけなぜかオンプーとビンセントの机の位置が入れ替わっている。オンプーを窓際に置きたかったとかヤムヤムと前後ろにしたかったとか「?」が映らないようにしたかったとか理由は想像されますが、突然ここだけの席替えなので気になって仕方ない。


第32話「風のささやき」

(脚本:シャノン・ミューア/ケビン・ポール・ショー・プロデン、絵コンテ:なかの★陽)


「今聞こえたのが、嘆きの妖精バンシーの不思議です。バンシーも本校の卒業生よ。バンシーの嘆きは、風に乗って不幸なことを予告するのです」

今思えば、このとき予告された不幸というのが今回の騒動のことだったのかね。

「(悲しい音が風に乗ると不幸なことが起こるのか……てことは、楽しい音を風に乗せれば良いことが起こるかも! そうだ、それを私のフシギにしよう!)」

オンプーが教室を見渡すと、寝息を立てるロッソ、落書きに励むクイッキー(ストップウォッチを持っている自分と、GOAL!と着地するアニキの絵)、鼻ちょうちんを作っているエントン……ヤムヤムも大口開けてあくびしてました。


真面目なオンプーはだらけた空気に活を入れようと、ちょっと灯の落ちた教室でひとり念を込める。

「みんながもっと勉強しますように、やる気が増えますように。どうかどうか、やる気の増える音よ、力を貸して……」

ボンと出てきたのはキラキラ光る透明な八分音符。やる気の増える音は「勉強って楽しい。やる気倍増」といい声でささやきながら、校内を飛んでいく。


「テスト 時間45分」と書かれたイエローリザードクラス。シャキッとしない生徒たちのところに音が流れてきた途端、みんな表情を変えて猛烈な勢いで答案を書き始める……空席のチュービーを除いては。ピラニンのこんな凛々しい顔、滅多に見られるもんじゃないよ!

ピンクトードでもみんな分厚い本を広げて先生の話にウンウンうなずいています。頭の動きに合わせて景気良く吐き出されるエントンの煙。「?」ちゃんも熱心にやってますね。黒板にあるのは三日月の光を浴びたユルマキ草から波線が出ている図で、理科の植物の話っぽい感じ。目にも留まらぬ速さでノートをとる生徒たちを見て「本校始まって以来だわ」とペギナンド先生も上機嫌。

「(みんなが優秀になって、それが私のフシギのおかげだって分かったら、先生たち驚くわあ。そうなれば私の卒業は間違いなしね!)」

ニヤニヤするオンプーですが、後ろの机のロウソクは火がついていない。ヤムヤムが欠席でも「ま、いつものことね」って先生、エントンのときもそうだったけど、けっこう割り切ってるとこあるよな……。


オンプーがカフェテリアに駆けつけてみると、サボりの極悪トリオはタガが外れたようにバカ笑いしている。ケーキを食い散らしポップコーンを口に投げ入れ、「俺たちは友情を深めてるのだ」「そーそ。授業より大切ズラ」……ベンダーマシンまでジーニーみたいな眼鏡に学帽かぶって「勉強楽しいなー」と読書に勤しんでいるというのに。オンプーは白けきった視線を抑えきれてません。

歯の形のマグカップは初めて見る気がするな。ヤムヤム、バカ笑いしすぎて椅子から転げ落ちた。

「あなたたちは、やる気は増えてないの?」

「ゲヘヘヘ、増えるも何も……」

「やる気なんてもともと持ち合わせてなーいズラ!」

やる気の増える音が効かなかった悔しさに、オンプーは燃え上がる。叫ぶ声の迫力にルーアも転げ落ちた。

「もっともっと強烈な音を作ってやるからー!!」


その足で音楽室に向かうと、さっきよりも力んだ調子で

「もっともっとみんな勉強するのよ……今のままじゃまだまだ……」

今回オンプー、妙に舌足らずでかわいくないですか。今度出てきたのは薄汚れた空気をまとい、ゆがんだ形の音符。手を離すと、音符は「もっと勉強、さらに勉強、いっぱい勉強…」と切羽詰まった声をあげながらぎくしゃくと飛んでいく。

教室に音が届いた途端、みんな真剣に眺めていた教科書(もしかして表紙の色、クラスによって違う?)を落っことし、気が抜けたように授業を放棄してぞろぞろ出て行ってしまった。ピラニンは腰痛そうにしてて、リディーは調子が下がるとおさげをいじるのが癖っぽいな。

ピンクトードでは相変わらずヤムヤムが欠席なので、オンプーはそわそわ落ち着かない。まだまだやる気にあふれている生徒たちは、先生の質問にも一斉に挙手。当てられたロッソが「えっとねえ」と答えようしたそのとき、さっきの音が流れてくる……「やっぱりぼくわかんない……」。

今度の音符はやる気の減る音になってしまったのだ。ジーニーまで「勉強なんてかったるくてやってられませんよ……」なんて言い出すもんだから、先生は天井から落ちてしまいました。ところでこの音、モニター越しだからなのか先生方には効果ないんだな。


今やカフェテリアはやる気を失った生徒の巣窟です。机に前のめりでストローくわえてるヒッキーの顔よ! ピラニンはいつも以上に具合悪そうだし、ボロッカはいつもとあまり変わらないようですが、ベンダーマシンも横たわったりぐだぐだしたりしている。クイッキーなど豪華なパフェを前にしながら針が完全に垂れ下がって、もうほとんどヒゲ。隣のドッキーは湯気のたったマグカップを前に腕を組んでうつむいて、やる気がなくてもこのカッコよさだというのに。

オンプーが「教室へ行こうよ!」と必死で呼びかけても、スピモンには寝転がったままそっぽを向かれてしまうし、

「歌? なんで歌わなくっちゃいけないのー」

「絵なんて何の役にも立たないよ」

ヒッキーやリディーまでこれじゃオンプーじゃなくても泣きたくなってくるよ。


一方ヤムヤムは遅刻して悪びれもせずに教室に向かっていた。

「ヤムヤム!!」

「げ、ごめんなさい!」

「よく来てくれました。さあ、席について」

今までとはあべこべにヤムヤム以外全員欠席になってしまったのだ。このときはもうOとVの席の位置、元に戻ってるんだよなあー。さらに空席だらけの教室でテストを受けていたチュービーも、

「難しかったズラ。1問しかできなかったズラ」

「1問! チュービー偉いぞ!」

何しろチュービー以外みんな白紙という有様なのです。なぜかゾビーとボロッカだけチャイムが鳴るまで机に向かってるんですけど、サボって出て行く気力すらなかったのかね……。


そんなわけで、突然優秀扱いされるようになった極悪トリオは「初めてテストで一番だったズラ!」などとすっかりいい気になっています。カフェテリアでぐだぐだしているモブは今回もおなじみのAWM。

オンプーは学校中(男子トイレまで)やる気を減らす音を探し回っていたが、透明な音符は見つけることもままならない。と、教室から聞こえてくる職員会議の声。

「今やチュービーさえ真面目に見えますよ」

「うちのクラスでもウソップだけですよ、授業に出てくれるのは」


増えるやる気もなければ減るやる気もなかった極悪トリオに、オンプーは相談を持ちかける。チュービーの蹴ったボールが空中で分解してハエになる謎の間はなんなんだろう。

骨山の中で事情を聞かされた3人は、そろって偉そうに腰に手を当てて、

「みんながサボってふしぎを作らなくなったら、どうなっちゃうと思うの?」

「「「俺様たちの天下だ(ズラ)!」」」

「バカねえ、消えちゃうのよ!? 私たちが忘れ去られたら、学校がなくなるのよ! そしたら、あんたたちの居場所だって、なくなっちゃうんだから!」

そうなんですよね、彼ら、不思議であり続ける努力をしなければ存在すらできないんですよね。だって物としては実質もう死んでいるのだから。不思議として人々の記憶の中に存在場所を確立しない限り、彼らの存在できる場所はこの学校の中にしかないのだ……。

「このパラダイスがなくなるのは惜しいけどなあ」

「学校自体がなくなっちまったら元も子もねえ。仕方ねえ、協力するぜ」


極悪トリオはこうやって他の子と手を組む話が定期的にあるのが良い。今回もハエ軍団が有能さ加減を発揮してます。

「こうして網を張っておけば、いくら姿が見えなくても捕まえることができるのだ」

「さっすが親分、あったまいいー!」

これこれ、こういうヤムヤムとウソップが見たかったんだよ私は!!

網にかかった音符にウソップが色をつけ、チュービーが投げ縄絵の具でキャッチ。見つけた音符の情報はリーダーバエが伝えにくる。こうやって、それぞれの得意技を使ってパズルがはまるように解決していく流れ、登場人物の多い作品の醍醐味だよね!

すっかり協力的なヤムヤムは、やる気の減る音の方だけ壊せば「またみんな勉強を始めるんじゃないのか!?」なんて言い出すが、オンプーは首を横に振る。

「このふしぎはまだ中途半端だもん」「あたしこそまだまだ勉強が必要ね……」

2つの音符を吸い込むと、カフェテリアのみんなもようやく正気を取り戻した。

「体がなまってるなあ。いっちょ階段手すり滑りでもやるか!」


ちゃんとみんなを集めて事情を説明するところまでやるあたり、オンプーはほんと真面目なんだなあと思います。ここ、頭の後ろで手を組んで骨山に寄りかかってるヤムヤムの仕草が良いのよ。

「今日の騒ぎは私の責任なんです。ごめんなさい」

「だがオンプー、なかなかいいセンいってたぞ」

校長いわく、2度目が失敗したのは「頑張れ、やる気を出せとあんまり言われすぎると逆に嫌になってしまう」から。あー、分かるわ……この作品面白いから見て見て!ってあんまり推されると、かえって絶対見るもんかって思っちゃうあの感じでしょ……?

「そういえば私、ヤムヤムたちに勉強させることしか考えてなかった」に「ムリムリ!」って言ったのはヒッキーか!? 校長にまで「もし本当にヤムヤムたちに勉強させることができたら、それは世界最大級の七不思議になれるじゃろう」と言われ、がっくりして滑り落ちるヤムヤム。このラストシーン、本当に極悪トリオの表情が良いのよ。チュービーはまたオイラって言ってる!

「俺たち手伝ってやったのにな!」

「こんなことなら戻さなきゃよかった」

「おいらたちヒーローのはずズラ!」


ふしぎコレクション「ふしぎな音」

今夜のふしぎはオンプーじゃ!

ヤムヤム、今度は肘ついて居眠りしてる。

「ハーイ! 授業はおしまい。みんなで外で遊びましょ!」

テンション高いペギナンド先生かわいい…はしゃぐ校長もかわいい……音で人をここまで操れたらオンプー強すぎない……?


次回予告

「シシシシシ、ウソップさまだー! インキーのやつがティーチャーズデイのアシスタントをやることになったんだ。どーせうまくできっこないと思うけどな!」


エンドカード

カボチャの山の上のカボを見上げるビンセントとジーニー。ちゃんと小道具の『カボチャ図鑑』の本があるのが良いっすね。


<まえつぎ>