#14 クイッキーはおおいそがし

時間を惜しむのもほどほどに、という今回ばかりはスピード狂のドッキーもいつになく落ち着いて見える気がする。普段クイッキーは見事なまでにアニキとしか関わりがないので、今回は彼個人にスポットライトが当たる貴重な機会。

なんですけど、ずっと見ていたらなんとなく、もしかしたらクイッキーは本当に最初からアニキありきの存在だったんじゃないかなーという気もしてきてしまった。だって、そうでなければあえてあの師弟コンビを一人二役にキャスティングしなくないですか……? 当時は何も知らずに見ていたので、ドッキーとクイッキーが同じ声って知ったときは階段転げ落ちるくらいびっくりしたんですよ……。


第14話「クイッキーはおおいそがし」

(脚本:山野辺一記、絵コンテ:奥山潔)


休み時間が始まる0時50分の鐘。午前0時始業で最初の授業が終わったところでしょうか。ようやくピンクトードクラスの日常が見られるぞ。

視線でクイッキーを追いかけて身を乗り出すロッソがかわいい。オンプーを突き飛ばしてアニキの元へと急ぐクイッキーに、ノイジーが首を伸ばして「オンプーに謝りなさいよ!」と叫ぶと、

「時間がもったいないだぎゃー! トロトロしてるやつが悪いんだぎゃ!」

今回はこんなふうにノイジーが「女子」枠扱いですけど、ピンクトード女子組がペアで扱われるのも珍しいよね。

階段の手すりをすべるドッキーは「イヤッホウ!」と絶好調。着地するやいなや、休む間もなく再び階段の上へと急かすクイッキー。


ルーアの隣に座っているのは学校の時計の番人、ネジマキツムリです。校舎の時計の異変を察知して立ち上がるネジマキツムリに声をかけるルーア、この2人は良いデコボココンビ。

「どしたの?」

「ハァ……」

「急いでっからまた後でだって?……急いでるねえ……」

ネジマキツムリ、動作が、めちゃくちゃ、遅い。足下に気付かず駆け下りてくるいつもの4人+ORに蹴飛ばされたりして、全然進めません。ネジマキツムリはカンテラとか帽子とか小道具がオシャレでかわいいんだ。声ははっきり分かりませんが、サラマン先生かなあ……?


2回目の鐘は深夜1時55分。50分授業の15分休憩? クイッキーはまた急いで教室を出ようとするが、今度はペギナンド先生に足止めを食らう。

時計から落ちていく歯車。歩みを遅くする秒針。合わせてスローモーになっていく先生のセリフ……異変に気づいたときには、動いているのはクイッキーただ一人になっていた。オンプーも音符ごと止まっている。一人でハエをはべらせて難しい顔をしているヤムヤム、ビンセントに話しかけるエントン、ジーニーに何か尋ねているノイジー、全員止まっている。

教室の外でも、ドッキーが手すりの上空でフリーズ……どうでもいいんですが、さっき鐘が鳴ったばかりでもう一滑り終えるところって、いくらスピードスターとはいえ移動が速くありません……? ともかく例によって身軽なスピモンだったり、人喰い花に水やりしているチャップスだったり、背景でしかないところにもストーリーが感じられるのが良い。

校舎の時計が止まったせいで、学校中の時間が止まってしまったのだ。クイッキーは自分自身が時を刻む時計だから、校舎の時計の不調にも左右されないのかしら。「調子がいいと時間を操れる」とは公式設定ですが、今回は別にクイッキーが時間をどうこうしたわけじゃない……よね。静寂の中で頭のネジだけがくるくる回っている画が、孤独な時間の流れを感じさせてすごく良い。

「おいらにとって時間が止まっている方が楽しいかもしれないだぎゃ。なんせこれでトロトロしてるやつに合わせなくてすむんだから!……1時55分。休み時間だぎゃ! ということは、おいらの休み時間は永遠に続くだぎゃ!」


ミッドナイトホラースクールでは深夜2時がランチタイムなんでしょうか。コーヒーをいれるエックス、転んで食事ぶちまける寸前のインキー、アンプーたちは3人仲良く席について食事中。ブルースパイダーはすっかりお昼(?)休みのようなので、やっぱりクラスによって休み時間のタイミングはけっこうてきとうっぽいな。

もうクイッキーはやりたい放題食べ放題です。一人だからって机の上に座ってお盆に顔付けて食べるってどんなお行儀ですか! 食べカスを口に塗りつけて「食べたのはマグネロだぎゃ」。それに飽き足らず先生の顔に落書きしてみたり、極悪トリオも真っ青な悪ガキっぷり。タガが外れてここまでやる子だとは思わなかったよ。

「イヤッホ~~~だ・ぎゃ!」

クイッキー自身が手すりをすべるのってこの回くらいじゃないですか? しかも腹で!

「タイムは0秒だぎゃ! アニキより速い。これは新記録だぎゃ!」

なんか、クイッキーはそもそも正確な時間を計測することに生き甲斐を感じていて、中でも何より計りがいのあるアニキのスピードが好き……ということなのかなあ、とか思う。

「あーでも……なんか全然楽しくないだぎゃ……アニキぃ、動いてくれだぎゃ……」

クイッキーの叫びに、誰も答えないはずの校舎からくしゃみが返ってくる。ネジマキツムリだぎゃ! こちらも時計をコントロールできる存在だから止まった時間でも動ける、というところですかね。ネジマキツムリのペースを無視してひたすらまくし立てるクイッキーと、そのクイッキーの慌ただしさもどこ吹く風でマイペースを貫くネジマキツムリは、対照的なようでいて実は似た者同士。

ネジマキツムリの目線に合わせて腹這いになるクイッキー、「学校の時計が壊れた」とジェスチャーを読み取ると、早速2階の時計部屋に飛んで行こうとする。一度倒れると起き上がれないネジマキツムリは殻に収まっていると小動物的なかわいさがあるわね。

「おいらが時計部屋まで運んであげるだぎゃ!」

運ぶはいいが、このネジマキツムリ、やたら重い。なんとか踊り場まで上ったところで、また時計がおかしな動きをし始める。今度は学校の時間が逆回転し始めた。このときどう見ても夜が明けて昼間の小学校に戻るくらいは時計回ってるんですが、まあそれは演出ということで。クイッキーは手すりを滑り上る(?)アニキに後ろから追突され、また階段下まで落ちてしまう。


ようやく2階にたどり着くころには「たぶん53分45秒くらいかかってしまっただぎゃ……」。せっかちなだけでなく時間にも細かいクイッキー。運ぶ体勢が背負う→抱きかかえると変わっているのが地味にリアル。釈然としないネジマキツムリの態度にだんだんイライラが募る。

時計部屋は2階の吹き抜けの奥にひっそり鎮座している。ネジマキツムリが重いのは時計の部品を山ほど殻の中に溜め込んでいたからだった。ゼンマイを巻くのにノコギリを持ち出すのはよく分かりませんが、ネジマキツムリに対して妙に大きく見える工具のアンバランスさがなんか良い。

時計を修理して、学校の時間は1時55分から再スタート。いっぺん逆戻りしたはずなのにその後のクイッキーのいたずらを反映して時間が進むのか、とか詰めていくとやっぱり整合性がいまいちナニなので、深く考えるのはやめにしました。

でどうなったかっていうと、カフェテリアで改めて転び直すインキーとか(一瞬目玉が目から浮いている)、持っていたはずのお盆がなくなってキョトンとするフォントンとか、不憫枠が定着しつつあるマグネロとかね。

「アンモナイトランチがない!」

「僕のもないプー……!」

「え、顔に何かついてるマグか?」

「「マグネロ!!」」


頬杖をついてホッとしているネジマキツムリに、クイッキーがトンカチで脅しをかける。

「もっと巻くんだぎゃ。二度と時間が遅れないように巻くんだぎゃ。トロトロ動かれたら邪魔くさいんだぎゃ……どくんだぎゃーーー!」

超高速時計をセッティングしてご満悦のクイッキーの目に入ってきたのは、電光石火の速さで水飲み場に向かうエントン……の、残像。もはやそこは残像しか見えない、全てが超スピードの世界。

「みんなもっとゆっくりするだぎゃ……急いでも何の得にもならないだぎゃ……! あーもう、セカセカしてるやつは嫌いだぎゃ……」

ここへきてようやくクイッキー、ちょっと反省。ネジマキツムリが時計を正常に直してくれたところで、ちょうどドッキーが通りかかる。

「クイッキーを探してるんだけど、見かけなかったか?」

「クイッキーならここにいるよ?」

名前を呼んだり声を掛けもせずに話し始めるDHのツーカー感にいきなりやられました。それにしてもクイッキーはなんでこんなに鼻ちょうちんが似合う顔してるんだろう。

「ああ、ネジマキツムリ。クイッキーがなんで寝てるか知ってるか」

「ハ~オ……」

ドッキーのやれやれの顔も妙にさわやかである。

「なあ、階段手すりすべりのタイムを計ってくれよ。今日はいいタイムを出せそうな気がするんだ」

「もうそんな時間なんだぎゃ!? アニキのタイムを計るのはオイラしかいないだぎゃー!」

「頼りにしてるぜ、クイッキー!」

ああ、クイッキーの方がアニキにベッタリなだけかと思ったけど、ドッキーもクイッキーのことちゃんと必要としてるんだ。それが分かっただけでなんかちょっと安心しました……。


結局、校舎の時計が学校内の時間の流れを制御しているということなんだろうか……それが分かったらフシギじゃないか。


ふしぎコレクション「時の番人ネジマキツムリ」

今夜のふしぎはネジマキツムリじゃ!

ここで校長先生にまで止まられたらDVDが壊れたかと思ってヒヤヒヤするよ……。


次回予告

「おいらクイッキーだぎゃ! 腐ったバナナのヤムヤムが急に綺麗好きになって学校中を黄色にしようとしてるだぎゃ。一体どうしちゃったんだぎゃ?」

ヤムヤムに対する言い方がちょっとイヤミっぽくてよいです。


<まえつぎ>