#5 花咲かジュノ

前回頼れる姉御肌というキャラクターをばっちり印象づけておいてからのメイン回という怒濤のジュノ推しシリーズ第2弾。この回とにかく空気感が良くて、いつ見ても泣いてしまう……。


第5話「花咲かジュノ」

(脚本:荒島晃宏、絵コンテ:奥山潔)


「怖くない、怖くない……」「風の音よ。落ち着いて……」

深夜のホラースクールの生徒が暗闇を怖がったりガーゴイルにビビったりしていていいのか?と言いたいところだが、チャップスはそこがかわいいので、許す。ウソップの霧+シーツを被っただけのオバケで七不思議間違いなし!とまで自信満々に言っちゃうヤムヤムもかわいいものですが、返却機さんはまだキャラクターが固まっていないのか、オバケの踏み台になってあげたりなんかしちゃっている。

むしろそこをつんざくチュービーの悲鳴が一番怖い。踊り場で明かりの操作(どうやって…?)をする係だったおかげで、真っ先に人喰い花の標的になってしまったのだ。

「弱い者いじめはゆるさないわよ!」

「もうやぶれかぶれだズラーッ!」

こういうときチュービーはやぶれかぶれでも逃げずに戦おうとするからかっこいいんですが、その渾身の絵の具の一撃がペチッと叩き落とされるときの音、めっちゃ軽くて面白すぎる。お花に一蹴されて3階まで吹っ飛ばされたチュービーは、そのまま気絶して目を覚まさず、ウソップに抱えられて退場する羽目に……。通りがかったエントンとジーニーの上を飛び越えて、捨て台詞とともに走り去る極悪トリオ。手すりの上に立って野次馬するカボ。

ヒッキーたちいつもの4人組は今回何かとチャップスと仲が良い。チャップスはみんなで使うふしぎ作文の参考書を取りに来ていたのだった。一連の様子を保護者顔で眺めていたジュノのところへ、早速飛んできたのはノイジーのカメラ。

「それでは、またもヤムヤムたちをやっつけたジュノにインタビューしてみましょう!」

途端にジュノは表情を険しくする。葉っぱで前髪のように目元が隠れるキャラクターデザインが、このシーンですごく効果的。結局、ノイジーに返した答えは人喰い花の唸り声だけ。

「……のど渇いてんだ、あたい」

ぶっきらぼうに答えると、ジュノはさっさと階段を下りて行ってしまうのだった。

リディーの「あの子頼りになるけどちょっと苦手」というキツすぎるコメントが全てを語っていて、キツい。助けてもらう分には頼もしいけど、友達として付き合うには苦手だなあこういう子……というね。それも「あの子」っていう言葉の選び方ですよ。「あの人」ほどよそよそしくもなく、「あいつ」と言えるほど見下したわけでもなく、かといって名前で呼ぶほど近しくはない、友達になり得る距離感ではあるけれどまだ友達というほどじゃない呼び方、「あの子」。今回、執拗なほどにリディーがあえてジュノの心をえぐるようなセリフを担当しているのはなんなんだろうか……。


ジュノに助けられたチャップスもためらいがちで、現段階ではまだあまり親密じゃないのかな……という感じがあります。ジュノさんが唯一心を開けるのは、そう、ロッソの前ですね。

水を浴びにきたジュノの頭上から、「さっきのお礼!」とチャップスもジョウロを傾ける。これがまた、階段の手すり越しという距離を保ったまま。

J「この花が怖くないの」

C「怖いけど……、怖くない!」

R「ふふっ、ヘンなの」

すると突然、人喰い花の口の中に大きな実が! 花の成長に飛び上がって喜ぶジュノは純粋に心底嬉しそうで、見ててこっちも幸せになっちゃう。ここで手すりをまたいで降りてきたチャップス、ジョウロを落っことして頭にぶつけてしまうのがまたかわいいポイント。

「ねえねえなんなの? 楽しいこと? おしえて~!」

「教えない。恥ずかしいから」

本心や願い事をぺらぺら話すのは恥ずかしいけれど、恥ずかしいと思っているということは照れずに真っ向から口に出せるという、ジュノらしい答え方だ。このへんのウエットな部分と割り切ったドライなところ、両面があるからジュノは魅力的なのよね。


ふしぎ作文はみんないつもの鉛筆は使わず、ちょっとかしこまってインクと羽根ペン(骨ペン?)で書いている。いわゆる国語の課題、というよりは進路の授業の一環か。骨で枠取られた作文用紙もかわいい。フォントンのうーん…→ハッ!みたいな表情の変化が芸コマです。

「何度も言うが、難しいことを書く必要はないぞ。自分の作りたいフシギを素直に書けばいいんだ。絶対秘密にするから安心しろ! 書けた者は遊びに行ってもいいぞ」

ブルースパイダークラス担任のティゲール先生は、サラマン先生とはガラッと違って若々しくパワフルなタイプ。

「取られたら取り返せ!!」「ガッツが足りんぞ! 書けるまで居残り!!」

と初登場から飛ばしてます。キビシイ。


ハエ軍団を使ってジュノの作文用紙を奪ったのは、もちろん例の3人組でした。

「ふしぎ作文が手に入りゃジュノの弱点が分かったかもしれないのに……」

なぜか不穏なライトアップのカフェテリアで、作戦会議というか妄想を繰り広げる極悪トリオ。怪しい化学実験に高笑いするマッドサイエンティストだったり、校舎を襲う巨大人喰い花だったり、テレビの見過ぎみたいな想像をしては「強すぎるズラ…!」と勝手におびえているのだった。


一人教室に残って作文を書き直していたジュノ。居残りというくらいだから夜も終わりに近いのでしょうか、空の白み始める中、校庭ではみんなが仲良く遊んでいる。

「友達か……」

ああー!! やっぱり気にしてたんだあああ、ジュノ、実際に強いし、気丈に振る舞ってもいるけれど、きっと友達が少ないことで内心ものすごく自己肯定感の低い部分があったのだろうなあ~。

ただ先生が入ってきた途端、しっかりした口調で用紙を提出する切り替えの早さ、そういう気丈さの方がジュノの本質なんだろうなとも思うんですよね。実はかよわきロマンチストなのが本当のジュノ、ということではなくて、強い子でも誰だって当たり前に傷つく心を持っている、ってことなんだよね。

画面に映った作文用紙の文字は全部ひらがなで、笑顔のお花に囲まれたジュノの手書きイラストもあって、あっこの子小学生だった……!と一瞬我に返る視聴者(私)。ここで作文の内容が見えるのですが、極悪トリオの妄想のように力だけを追い求める凶暴なジュノの姿なんて周りの思い込みでしかないのだと気付かされるのが、そしてそれをティゲール先生だけは分かっているというのが、切なくも心強い。

先生お得意の「できなかったら校庭10周してもらうところだったぞ」でちょっと緊張が和む。こう、頼もしくて厳しくて突き放すようでいて、他人を見守る観察眼やロマンを愛する繊細な心を持っているあたり、ティゲール先生とジュノは似たところがある気がするんだよね。先生が作文を読んでいる間、神妙な顔で座っていたジュノだったが、その優しいコメントを聞くと喜びを抑え切れない様子で話し始める。

「初めて実をつけたんです、もう嬉しくって!」

「うまくいくようにガッツとファイトで頑張れ!」

朝焼けに照らされる2人のシルエットが美しい。MHSでこんな温かい空の色を見るの、本当に珍しいことじゃないですか……。


噴水ではしゃぐHLSPC、木の下でヒソヒソ話中のIF、読書するG、枝にぶら下がっているB、エディの前で追いかけっこするAWKとその上でたそがれているD。

ジュノがお花の種を飛ばす瞬間にシンクロする音楽、明るい空を飛んでいく綿毛、見上げる小さな生徒たち……このシーンはほんと、演出が良い……。上を見ようとして倒れちゃうカボとか、この話でほぼ唯一のセリフ「フッ」って言うためだけに出てくるドッキーとか、いやドッキーはマジでなんなんだよ、でも雰囲気があって良いんだよほんとに……。

「頑張れ、未来のフシギたちよ! うおおおおおああああああああああ!!!!!」


そして翌朝、じゃなくて翌晩。ジョウロを持って喜ぶチャップスの頭の上には……

「みてみて、ジュノみたいでしょ?」

昨日まいた種が、なんともう花を咲かせていたのだ。しかも人喰い花が生えてきたのはチャップスだけではなく、平べったいフォントンの花、発光しているワットの花、磁力のあるマグネロの花……それになんといってもミスターXの決めポーズ!

「うわあ、花畑みたい!」

これがジュノの願っていた「楽しいこと」だったのだ。念願叶って浮き立つジュノだったが、一同の反応は芳しくない。

A「これ育てるの?」

I「勝手に決めるなよー」「やだよー気持ち悪いよー」

W「えー面倒くさい……」

肩を落として立ち去るジュノ。他の場所を覗いてみても、勝手に落書きするヒッキーの花、ハウリングするスピモンの花、ヤムヤムの溶岩コーヒーを勝手に飲むバナナ花(こいつだけ茎とがくが黄色だ)とどこへ行っても迷惑がられてばかり。ヒッキーの頭に花ってなんか既視感あると思ったら前回ロッソの特訓でやってたアレだ……個人的にポイントなのは、花も帽子をかぶっているアニキとその隣でさりげなくイエローリザードに遊びに来ているクイッキーです。チュービーウソップの花はそれぞれ服のボーダーと同じ色で、悪趣味なまでにド派手。

「こんな花大嫌い!」

「ジュノの花のせいで学校中大混乱です!」

「こんなオバケ花要らないズラ!」

つ、つらい……みんなでちょっと楽しくなれると思ってしたことなのに、楽しいのは全部自分だけだったと気付いたときのこの感じ。ただみんなを喜ばせたいだけだったのに、誰も喜ばないどころか喜ばせたいという気持ちまでも無下にされて、虚しさとか羞恥心とか後悔とか絶望がまとめて押しつぶしにくるこの感じ。

水をやらないと一日で枯れて抜けちゃうということは、裏返せばジュノがこれまでどれだけ丁寧に育ててきたのかという証だよね。つまり、みんながみんな自身の花を大切にしないというだけではなくて、ジュノにとって大切なものまでみんなに否定されているということなんだ……しかもそれで怒るでもなく、ジュノはただ全校に向けて謝罪の言葉を流す。

「迷惑かけて、ほんと、ごめんね……」

うなだれてお墓へ向かうジュノの頭からお花が抜けて地に落ちる。きょとんと元の飼い主(?)の方を向くお花に、覆いかぶさる極悪トリオの影……。


夜空に浮かぶ三日月が雰囲気に合いすぎて、ミッドナイトホラースクールのミッドナイトたる本領発揮である。とにかくこの回は空の景色が雄弁だ……

「ジュノ、お花はどうしたの!?」

「なくてもいいの、もう……」

ジュノが要らないと思ったから、お花はいなくなってしまったのだ……お得意のなぜなぜ攻撃もせず、黙って隣に座るチャップス。いつもの明るい調子で足をパタパタさせながら、正面を向いたまま話し続ける。

「あたし、このお花好き。ねえ、ジュノの作りたいふしぎ、このお花?」

返事はない。いや、頬を伝って溢れる涙がその答えなんだ。泣き顔を隠す葉っぱの前髪……だめだ、このシーン何回見ても絶対泣いちゃう……平静を装って答えようとするジュノを、チャップスがとっさに遮る。

「実はね……」

「言わないで。あたしが当てる。えーとえーと……お花を育てると、お願いが叶うの!」

くっと答えを飲み込むジュノ。次に顔を上げたときにはもう、

「……当たり?」

「まあ、そんなとこかな」

涙を溜めたまま、笑顔。本当にこのシーン、良い……。

……それを打ち破る、非道なるかな極悪トリオよ。

「持ち主の思い通りに動くなんてほんとに不思議な花だぜ」

育てている人の気持ちを読み取ることができるという人喰い花だから、あの黄色いお花はやっぱりジュノが大切に育ててきたおかげで持ち主の言うことを聞く頼れる子になったのだろうなあ。さっきの今なのにもう「下ろさないと承知しないよ!」って言おうとするジュノさん、強気さは口癖みたいなものなんでしょうね……ウソップの「たっぷり昨日の借りを返すぜ」がやらしくて良い。

ここでヒッキーたちが助けに駆けつけるのは、まあ、主人公特権でしょうか。「まずい、リディーちゃんに嫌われる」って、ヤムヤムの行動原理は本当にブレない。

「ジュノをいじめちゃ、ダメーーー!!」

この一連の流れ、冒頭の鏡写しなんですよね。いじめられるジュノをお花で助けるチャップス。しかもその助け方が、こちょこちょこちょこちょこちょ! 極悪トリオは正統派のワルなので、チャップスの無邪気さには弱い節があります。

「もういじめない!?」

「おれ……さまは……まけねえ……!」

笑いすぎて中身が飛び出た親分を回収し、捨て台詞を吐いて逃げていくウソップたち。気張って疲れてしまったチャップスに、今度はジュノがジョウロで水をあげるのだった。

「ありがとう、チャップス」

「お花のおかげ!」

MHSのいいところは、どんな小さなわだかまりでも一話の中で絶対ちゃんと和解すること。今回もヒッキーがみんなを代表して、花を枯らしてしまったことを謝ってくれました。

ジュノの正義感の強さに助けられたチャップスが今度はジュノを助けてくれて、お花を通じてジュノには友達ができて。お花を育てるとお願いが叶うの……いやほんと神がかってんなこの回……。

たちまちみんな「花を育てたい」「種が欲しい」とか言い出して、あっという間にチャップスのお花に実がなるという、10分アニメのテンポの良さもまた良いものです。


おそらく全てを理解して黙っていたのであろうティゲール先生の頭にも、牙付きの小さなお花が……見守り導くサラマン先生に対して生徒の自立心に一切を任せるティゲール先生ですが、ジュノにはそれが合ってるんだろうなあ。ぐっと親指を立てる先生に、ジュノもクスッと笑顔で返す。

チャップスのお花が飛ばした綿毛が舞う中で、ハエ軍団に奪われてそのまま飛んでいったのであろう作文用紙が、枝に引っかかってたなびいている。


あたいの作りたいふしぎは、頭の花を世界中に増やすことです。

この花はとっても不思議な花で、育てている人の気持ちを読み取ることができるんです。だからきっと、あたいの花の種には、あたいの気持ちがたくさん詰まっていると思います。どうかこの種をみんなが育ててくれて、この花と友達になってくれますように。

だってあたいは、世界中のみんなが大好きだから……。


綿毛集めてるカボは露骨にかわいい。よく見ると校門の外は丘というか山が連なっていて、どこともつかない風景が神秘的な雰囲気をかき立てる。最後にはリディーが(あのリディーが)みんなのところへジュノの手を引いていってくれますが、これ以降の回、ジュノとリディーは普通に仲良くやってるんですよね……。


とにかくジュノがこれでもかというほど魅力的でぼくはもう大ファンになってしまいましたよ。メンタルフィジカル共に強いんだけど、強いが故に孤高の姉御肌というポジションに固まってしまって、なんとなくそれ以上の歩み寄りができない、友達ができない……という葛藤がどこまでも等身大で共感を誘う。

極端に明るく設定された空や綿毛の舞う美しい画作りも印象的で、個人的に序盤きってのお気に入り回。特に、今回を踏まえて終盤の「エディのホームシック」などを見ると人間関係の成熟っぷりに感涙を禁じ得ない……。


ふしぎコレクション「人の考えを見抜く植物」

今夜のふしぎはジュノじゃ!

……これはジュノがっていうよりお花がしゃべってるよね!?

校長先生の正体は生徒のみんなも気になるところのようで、特典映像では本編より積極的に探りに行ってる感じです。いいぞー!


アイキャッチ:C

まんまるい飴玉、見た目はかわいいけど多分、溶けかけてベトベト。


<まえつぎ>