AFRICA UNITED

The Journey to Africa United


by Marina MORI

2018年11月23日16:00より上演されたアフリカ地域専攻語劇”AFRICA UNITED”にお越し下さった皆様、様々な形で応援してくださった皆様、ありがとうございました。脚本兼監督兼演出を務めた3人のうちの1人、アフリカ地域専攻2年の森 麻里永と申します。

The Journey to Africa Unitedと題しまして、この記事では、私たちの語劇の舞台裏を書きたいと思います。以下のように章立てしましたので、少しだけでも拾い読みしていただけますと幸いです。

【目次】

1. 演目が決定するまで

2. 劇ができるまで

3. モヤモヤとの戦い

4. 語劇をつくるということ

5. 語劇を終えて

1. 演目が決定するまで

5月頃に、語劇を行うということを投票で決定したのち、役職決めと作品候補募集をし、当初はHatari!という映画作品を原作として進めていくことに仮決定していました。しかし、皆できちんとその映画を観てみようということで7月にその上映会を行った(写真1)結果、作品を決め直すことになりました(Hatari! について気になる方はコチラ)。主な理由としては、物語そのものと演出の問題でした。Hatari! は違う大陸から来た主人公たちが、動物園やサーカスに売るために壮大な自然でひたすら野生動物を追いかけ回すという冒険アクション映画でしたが、私たちがやりたい語劇は一般の人々のアフリカ大陸に対するイメージを裏切るような、そしてメッセージ性のある物語でした。また、野生動物と雄大な自然が重要な役割を果たすものを劇で再現しようとしても迫力や臨場感を出すのに限界があるだろうという意見が出ました。物語を作り直して劇にするのも腕の見せ所だし良いのではという声もありましたが、とりあえず他の作品も検討しようということになりました。そこで新しい候補の一つとして挙がったのが、昨冬にTUFS Cinema(世界諸地域の社会・歴史・文化などの理解を深めることを目的に本学が開催する一般公開で無料の映画上映会・トークセッション)で上映されていたAFRICA UNITED(2010年10月22日公開 / 製作国:イギリス・南アフリカ・ルワンダ / 90分 / 監督:デブス・ガードナー・パターソン / 実はYoutubeでフルバージョン視聴できます)でした。本作品は、ルワンダの子どもたちがW杯開催地・南アフリカを目指して徒歩やトラック、船などで5千キロを旅する物語です。上映会と話し合いを設け、明るい面と暗い面がバランスよく描かれており、メッセージ性もある、起承転結も分かりやすい、そして演出も何とかなるだろうということで7月の終わりにAFRICA UNITEDに最終決定しました。

写真1:Hatari!上映会の様子です。

2. 劇ができるまで

ここでは作品決定後から本番までの動きを記したいと思います(写真2)。まず、8月の頭に主な役者を決定しました。今年は名古屋外大からの国内留学生2人と教員1人も役者に加わり、加えて先輩2人にも音響・照明をお願いすることになりました(写真3, 4)。

写真2: スプレッドシートの語劇カレンダー。

写真3:上演直前の写真です。音響の最終チェックをしています。

写真4:こちらも上演直前の照明の様子です。

役者が決まると早速脚本を書き始めました。3人の脚本・監督・演出担当で単純に原作を時間で三等分し、(平等に)じゃんけんで担当を決めました。アフリカン・イングリッシュに苦しみながら映画の音声を拾い(原作映画には、オランダ語字幕はありますが英語字幕はないため)演出や時間の関係で適宜削りながらスプレッドシートに書いては直して…という作業をしていました。短期留学や部活の大会、泊まり込みアルバイトなどとバラバラでそれぞれ忙しい3人だったので一通り書き終えてこの部分はどう演出しようか、全体を通して話が通じるかなどと調整しているうちに8月の終わり頃になってようやく完成しました。脚本と並行して、広報担当が原作の著作権交渉を進めており、著作権を有するPathé Productionから「ぜひこの作品で劇を作って欲しい」とのありがたい許可を頂きました。

9月の中旬以降、大集会室練習やホール練習が始まり、同時に字幕作成、機材講習会や大道具ワークショップ、音響照明ワークショップ、装飾(写真5, 6)など各担当が本格的に動き始めました。10月に入ってから担当者に迷惑をかけながら遅れて照明や音響の調整が始まり、衣装の募集・確定やチラシ(写真7)の完成もこの頃に迎え、そうこうしているうちに11月初めのリハーサルを迎えました。本来この頃までには大体の完成を見たかったところですが、私たちはやっと通せるようになった状態でした。ここから大詰めが始まり、演技やセリフの言い方、発声、人と大道具・小道具の出入りのタイミング等を詰めるため、この時期は毎日のように1限や6限を使って練習をしていました(写真8, 9)。外語祭が始まってからも、皆が集まれる時間帯を探して練習をしていました。

写真5:完成した垂れ幕。Kick Off at 4 pm!

写真6:劇に欠かせないサッカーボールは手作り。日々腕を上げるサッカーボール職人。

写真7:完成したチラシ

写真8:大集会室、ホール以外での練習は、アゴラ・グローバル1階でやります。一番広いため他団体との静かな奪い合いです。

写真9:奪い合いに敗れた時はアゴラ・グローバル2階で練習

3. モヤモヤとの戦い

脚本執筆からセリフ・演技指導、字幕完成までをする上で欠かせないのがまず原作研究ですが、原作の中で少し考えても分からない謎というものが、大きいものから小さいものまで数え切れないほどありました。中には原作の映画を何度も見ても分からず本番数日前まで苦しんだ手強いものもありました。

映画の理解には、舞台となる国やテーマに関わる知識---歴史的な出来事や舞台になっている年代の社会の様子、地理など(今回で言えば、W杯南アフリカ大会やサッカー、ルワンダから南アフリカまでの主人公たちの旅の経路、ハイパーインフレーション発生後のジンバブエドルの廃止、タンガニーカ湖周辺の地理 etc.)---を知ることが求められます。

広大すぎるアフリカ地域について学び始めて2年目の私たちに一本のアフリカ映画を丸々理解するというのが不可能なのは当然のことと思いますが、やはり劇にして観客にお見せするのにはつくる側の理解が中途半端のままではいけないという責任感が伴います。そういう訳で、一監督として語劇本番までの期間は、もちろん役者である語科の仲間たちとの練習と改善の日々でしたが、同時に原作との奮闘の日々でもあったように思います。

脚本執筆や字幕の校閲の初期段階ではストーリー全体の展開を整理して節目をハイライトさせたり、一つ一つの場面の意味づけを確認したり、大事そうだけれどどうしても聞き取れないセリフのオランダ語字幕を英訳してみたり(笑)と全体に関わる基本的・初歩的な疑問を潰していきました。

その後のセリフの解釈や演技指導の段階では細部の謎が続出し、「脈絡もなく突然出てきているように見えるこのセリフはどういうことなのか?」「この意味深なセリフは何だろうか?」「このジョークっぽいものはそもそもジョークなのか何なのか!?」などと、とにかくモヤモヤが尽きませんでした。映画のそのシーンだけ繰り返し観たり、前後に出てくる固有名詞を片端から検索してみたりして、何かヒットすると、「こういうことだったのか!」と新しい知識や気づきを得て小さな感動を覚えていましたが、調べてもヒットせず考えてもちっとも分からないものには大変頭を悩ませていました。

ちなみに最後まで最も苦しんだ疑問はモハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの歴史的試合であるthe Rumble in the Jungle、日本名「キンシャサの奇跡」と、登場人物ジョージの過去の関わりです。劇の中で、ジョージを追い詰めたが脚を撃たれて退散せざるを得なくなった兵士が、去り際にジョージに向かってこう言います。

”Hey George...have you told them about what you did to the village in Bakundu?(途中省略)The little one trapped cried “Help me, help me!”...Remember them, Foreman George? The Rumble in the Jungle...Muhammad Ali versus, George Foreman... You caused a different kind of rumble, didn’t you George?”

日本語字幕:「おいジョージ…こいつらに、お前がバクンドゥの村でやったことを言ったか?捕らえられた幼い子どもは『助けて!助けて!』と泣き叫んだ…。覚えているか、ジョージ・フォアマン?ジャングルの奇跡と呼ばれた闘い…そこで対戦したボクサー、モハメドアリとジョージ・フォアマンを…。お前はまた違った闘いをやってのけたな、そうだろ?ジョージ…」

このシーンですが、第一の問題として、理解の鍵となる”rumble in the jungle” 「ジャングルの闘い」を長い間なんとRambo in the jungle” 「ジャングルのランボー」と聞き間違えており(皆ボクシングにあまり詳しくなくその試合の存在を知りませんでした)、ジャングル戦のベトナム戦争を主題にした有名な映画の主人公ランボーにジョージをたとえているのかと考えていました。また、モハメド・アリは、英語読みするとムハンマド・アリーであり、世界史で登場するムハンマド・アリー朝の「ムハンマド・アリー」のことなのだろうかと読み間違え、さらにこの文脈ではジョージ・フォアマンはボクサーの方を指しますが、登場人物のジョージも同一の名前であるためそちらのジョージの方を指しているのだと解釈するなど、無駄に想像力を働かせ多大な誤解が発生していました。しかし、それでは説明のつかない部分が残っていました。先述したようにthe Rumble in the Jungle、つまり「キンシャサの奇跡」の存在を知ったことでこの誤解は解けました。

それでもなお、”You caused a different kind of rumble, didn’t you George?”(字幕では「お前はまた違った闘いをやってのけたな、そうだろ?ジョージ・・」)とは何のことなのか、どういう意味なのかという謎が残りました。物語中の伏線やキューによって多少手が込んでいましたが、ジョージ役の思索の深い右高君の解釈を中心にして解くことができました。それは、“You caused a different kind of rumble” は、コンゴの難民キャンプからこの決闘シーンまでのジョージの脱出劇のことを言っていて、この言葉は兵士の負け惜しみが込められているのではないか、という推論です。

その根拠としては、

・The Rumble in the Jungleの試合の舞台は旧ザイール、現在のコンゴだが、ジョージの脱出劇が始まったのもコンゴ(の難民キャンプ)であり、重なること

・The Rumble in the Jungleは日本語では「キンシャサの奇跡」と意訳されているが、直訳は「ジャングルでの闘い」。”rumble”は「闘い」の意。ジョージの脱出劇は、ジョージ対ジョージを追ってきた兵士の「闘い」と言うことができ、ここも重なること

・この兵士からすると、血が繋がっており、今まで同じ世界(恐らくは軍隊)で悪事を犯しつつ生き抜いてきたジョージが、自分を置いてその世界から脱出してしまったら悔しいし負け惜しみを言いたいのは想像に難くないこと(ボクサーのフォアマンジョージは最後アリに逆転負けする。兵士としては、脱出を遂げたジョージを、勝つと思われたが最終的には負けることになったボクサーのフォアマンに例えたい。今回は脚を撃たれて退かざるを得ないが、またいつか追い詰めて負かしてやるからなと)

が挙げられます。もし他によい解釈をお持ちの方がおられたら、ぜひ教えていただけたらうれしいです。

4. 語劇をつくるということ

このような原作との向き合いを通して、思いがけず映画や劇の奥の深さー掘れば掘るだけ色んなものが出てくる感覚ーを知り、映画や劇においてセリフや演技は表層の膜のようなものに過ぎないのではないかと考えるようになりました。観る側の人間は、その膜の内側に渦巻く色んなものー「時代背景」「地域事情」「意味」などという言葉では余りに足りないーを、膜を通してしか覗くことができません。頭を働かせ注意力をもって追っていないと内部に渦巻くものに気づくことができません。

語劇をつくるにあたって、そのような作品の内側に隠されたものを観客にどこまで見せるか、どこからをベールに包みながらも透かせて見せ観客自身に考えてもらうかを考えるようになりました。そして、それこそが一つの語劇をつくることなのだろうかと思いました。私が原作の映画作品に対してそうであったように、観客の皆さんからすれば私たちの語劇はその表面、表現として現れている部分しか見えません。しかも、映画は繰り返し観ることができますが、劇は一回きりです。また、アフリカ地域に既に縁があって知識も持ち合わせている方とそうでない方では理解の度合いが変わってくることになります。観客に、物語の展開の理解に最低限必要なものを分かってもらうことや、少しでも楽しんで観てもらいたい気持ちをもちつつ、セリフ・演技・字幕に説明させてしまうところと提示だけして解釈を任せるところを、役者や各担当と相談して決めていきました。ご覧いただいた皆様に少しでも何か感じていただけていたら、幸いです。

5. 語劇を終えて

本番(写真10)は、沢山の方々にお越しいただきました。舞台上から想像以上に埋まっている客席が見えて緊張が高まってしまったほどです。割れるような拍手と嬉しいご感想をいただくことができ、本当に嬉しい気持ちと感謝でいっぱいです(写真11)。

私たちは、教員、先輩、国内留学生の助けを借りても総勢20名に満たない小語科であるため、一人一人や特定の担当の負担が予想以上に大きくなってしまった点は一監督として猛反省しています。しかし、互いの弱みや強みが大体分かってきた2年目ということもあり、皆それを認め補い合うように動くことができ、仲間割れや無駄な諍いなく終えることができたことは本当に美しいことで誇りに思っています。その上で、私たちのベストの語劇を皆様にお届けすることができました。一緒に語劇に夢中になった仲間たち、アフリカ地域専攻の大石先生と坂井先生、ご家族の皆様、そして当日お越しいただいた皆様、様々な形でサポート下さった皆様に、心より感謝いたします(写真12)。ありがとうございました。

写真10:本番の朝は快晴、練習をしていた講義棟8階バルコニーから富士山がくっきり。

写真11: 上演終了後のカーテンコール

写真12: 終了後の集合写真

最終更新:2019年1月7日