「ヨハネスブルグの街角で構築したネットワークが世界中と繋がる」

三原尚人(アフリカ地域専攻、2015年度入学)

1. はじめに

はじめまして。アフリカ地域専攻2015年度入学で4回生の三原尚人です。

すでに高山咲希さんがプレトリア大学の生活や学業に関しては詳細に書いてくれているので、本稿は南アフリカ、ヨハネスブルグのカルチャーとネットワークについてお話ししたいと思います。留学を通して、多種多様な文化や生活、そこで暮らす人の人生に交わることは新しい生き方のシナリオを学ぶことだと感じました(図1)。また改めて、人的ネットワークを構築することの重要性を学ぶことができたと感じます。

図1: ソウェトタウンシップでサングラスを売るスタイリッシュなおじさん。

2. ファッションカルチャーとネットワーク

本項では、私が南アフリカのヨハネスブルグで形成したネットワークが世界中の人と繋がるきっかけとなり、世界的に注目されるドキュメンタリー(動画)に繋がるまでの経緯を記述し、そこに至るまでの節目節目に得た学びについてお話しいたします。

動画The Fashion Culture in South Africa by The Unknown Vlogs

(引用元URL: https://www.youtube.com/watch?v=gYGoxIyh7T0

私は、ヨハネスブルグの街角で、写真、ダンス、ファッション、BMX(モトクロスバイク)を代表とするストリートカルチャーをバックボーンに様々な人びととネットワークを構築しました。その構築方法は、ストリートを歩いて構築しました。犯罪に会う確率を下げるには現地人と歩くか、歩くこと自体を避けるべきかと思います。ヨハネスブルグの若者はファッション感度が高く、ストリートなカルチャーをバックボーンにすることが「かっこいい」という風潮があり、またすごくフランクなので、歩いているだけですぐに呼び止められます。

「いいスタイルだね」や「写真撮って」等の小さい会話から始まり、どんどんファッションに興味のある若者と繋がっていきました。南アフリカのファッションを愛する若者から、私がまず学んだことは創造するというマインドセットです。私や、日本人の多く、とりわけ私たちの世代は可愛いものやかっこいいものはお金を払って手に入れるというのが当たり前かと思います。

しかし、彼らが、私が着ている服を見て感じるファースト・インプレッションは「どうやって作ったんだ?」や「どこで生地を買った?」というものでした。私にとって、「創造」と「購入」は等号では結ばれていなかったので、新たな気づきでありました。ヨハネスブルグの若者はエルメス(Hermès of Paris: フランスの高級ファッションブランド)のバーキンを生地から購入して作成してやろうというマインドを持っていました。

3. 発信ツール

南アフリカのファッションカルチャーやネットワークで良い点は、すごくコンパクトに密集している点です。それゆえ、交友関係は波及的に広がり、南アで有名な多くのデザイナーや写真家、アーティストの方々と繋がることができました。

交友関係を構築するハブとなったのは、私が日本から輸入した衣服を卸販売していた「Court Order」というConsignment Store(注1)でした。そこには、様々なバックボーンの人が集まり、コーヒーを飲みながら共通項として持つファッションやスニーカーの話題を通じて交流しました(図2)。Court OrderのBossであるインド系南アフリカ人のAkooとは、家で夕食を共にする関係へとなりました(図3; 図4)。

注1)Court Orderは、Consignment Storeと呼ばれる受託販売店でヨハネスブルグ、ケープタウンにひとつずつ店舗をもつ。ファッション関連の商品を扱っているが、コーヒースタンドが併設されているコミュニティストアでもある。InstagramのURL: https://www.instagram.com/courtorderza/

図2: Pessimistic のデザイナーで友人のSteve (動画内3:56から出演)

図3: Court Orderのオーナーで友人のAkoo

図4: Court Orderと私

Court Orderで出会った友人の中で学びが大きかったのは、イラストレーションを通じて、カラードや黒人が抱える苦悩や野心を表現するカラードの青年でした。彼の名前はSeth (aka African Ginger) で、南アの色素が色濃く残った社会構造から生まれる若者の苦悩や熱量を、Artをツールに発信することに、大きな学びを得ることができたと感じます(図5; 図6)。

多くの東京外大生が抱える苦悩は、悲惨な状況や困難な苦境にいる人々の存在は知っているものの、それに対してどうアクションすれば良いのかがわからないことかと推測します。行動の方法は無数にあります。何が自身に合うかを探すことが重要かと思います。

図5: イラストレーターのSeth aka African Ginger氏

図6: Seth による作品のひとつ。以下のInstagramページから鑑賞できる。 URL: https://www.instagram.com/african_ginger/

4. ケープタウンのファッションカルチャー

南アフリカのファッションカルチャーにより深く入り込めたのは、ヨハネスブルグのネットワークがケープタウンのネットワークに結びついたことが大きかったかと思います。

ケープタウンにあるOrpahn Street Clothing Store (OSCS)の Bossと同い年でストアで働くRegan、またReganの友達でルーフトップバーを経営するイタリア人のFrancehsco、Levis South Africa で働くSeeraj、Baseline Skate coのAlex達と出会えたことにより、爆発的にネットワークが広がりました(図7; 店については注2参照)。

注2)Levis はアメリカ合衆国で生まれたジーンズブランド。世界中に店舗をもち、seerajはLevis South Africa本社(ケープタウン)でプレスとして働く。Baseline Skate co. はケープタウンを代表とするスケートボードストアでそこの店員であるAlexとは、私の彼女がケープタウンに来た時も共に遊ぶほどの仲だった。

図7: Orphan Street Clothing Store (OSCS)にて。右にいるのが筆者で、左がRegan Paulsen。

とりわけ、Franchescoのネットワークは国内外に広がっており、New YorkからきたPro SkaterやPhotorapherとBraai(南アフリカでさかんなBBQの集まり) を通して繋げて貰いました。Franchescoほど、Social Communication能力に長けた人間を初めて見たので、マインドセットや振る舞い方について学べる点が大きかったです(図8)。

図8: Franchesco と 私。FranchescoのInstagramページ URL: https://www.instagram.com/francheezee/

私の彼女がケープタウンに来た時にはFranchescoの家で、私たちは彼に日本食を振る舞い、Franchescoは私たちにイタリア料理を振舞ってくれました。(Franchescoのおかげで)ヨハネスブルグとケープタウンで少しばかり名が知れたことで、いくつかの現地ブランドからinstagramを通して撮影依頼を受けるようになり、ますます南アフリカのファッションカルチャーに浸かっていきました。

5. ネットワークは新たなネットワークと繋がる

そんな中、またInstagramを通じてあるカメラマン・フィルムメーカーのイギリス人から急に連絡を受けました。内容は「南アフリカのファッションカルチャーに関してドキュメンタリーを製作したいんだが、紹介できるデザイナーはいるか? 君は南アフリカのファッションシーンに詳しいと聞いたんだが」といったものでした。

誰から自分の名前を聞いたのと聞くと、Court OrderのBossのAkooからでした。イギリス人の彼はTobyといって、世界的に有名なFashion アイコンであるIcy Kof の専属カメラマン・フィルムメーカーでした(注3)。

私はヨハネスブルグから一人、ケープタウンから一人、友人であり国際的にも戦えるクオリティのブランドを手掛けるPessimisticのSteve(動画内3:56)と、Hypebeast等の雑誌にも特集が組まれるYoung and LazyのAnees(動画内8:47)という2人のデザイナーを紹介しました。南アフリカの街角で作ったネットワークがイギリスのネットワークと繋がる瞬間でした。現在、南アフリカで構築したネットワークを灼熱の東京にも結びつけようと尽力しています。

注3)Icy KofのInstagramのURL: https://www.instagram.com/icykof/

6. 自己定義

南アフリカの若者は他国より自分自身を自ら定義し、評価しなければいけない割合が高いと感じました。1つの理由として、2019年の失業率は29%に昇り、慢性的に職がありません。3人に1人は定義上、職を持っていません。しかしながら、彼らは自分自身を定義し自己評価する能力を持っていると感じました。

誰も用意してくれていないので、自身で自らを定義し、その分野、領域にネットワークを構築していき、仕事をもらってくる。全ての職種において有用なこのハングリー精神を留学生活の中で実体験として学べたことは重要だと感じました。

7. 自己像

どんな領域であろうと、人的ネットワークを構築することは重要だと感じます。人的ネットワークの多様性が増すことは、自身のありうる自己像を多様化することにもつながります。自分という存在の境界を押し広げ、特定の文化に依拠する固定観念から脱却し、他者の行動を深く観察できるようになると思います。

他者の観察を通し、自身の価値観と物事の優先順位を決定すること、自身の役割やアイデンティティを定義することにおいて貢献すると感じました。若い頃に、多種多様なアイデンティティ、人生のシナリオに接触することは重要かと思います。皆さんも快適な空間(コンフォートゾーン)から出てみることをお勧め致します(図9)。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

図9 : Johannesburg CBDにて夕方、友人たちとスケートボード。

最終更新:2019年8月20日