ケープタウンで働く

〜2年間の体験記〜

by

鳥居紗衣(アフリカ地域専攻、2014年入学)

こんにちは。Hello. Molweni. (注1) 東京外国語大学国際社会学部アフリカ地域専攻2014年入学の鳥居紗衣(とりい さえ)と申します。今回はこの場をお借りして、私が休学して南アフリカのケープタウンで過ごした2年間についてお話ししたいと思います。写真を数枚掲載させていただきますが、「これは本当にアフリカか?」と思われる方もいるかもしれません。アフリカの幅広さを知っていただければ幸いです。

*注1: コサ語で「こんにちは」の意味。

① 派遣員について

アフリカ地域専攻には、様々な機会を得てアフリカ各地域へ飛び立つ学生たちがいますが、私の場合は「在外公館派遣員」という立場で南アフリカのケープタウン(地図1)にて勤務することになりました。在外公館派遣員制度は一般社団法人国際交流サービス協会の嘱託職員として雇用され、日本政府の各在外公館(大使館や領事館)に原則2年間派遣される制度です。語学力と運転免許があれば、誰でも試験を受験できます。私はこの制度を利用し、大学3年次終了後に2年間休学をして、南アフリカ共和国にある在ケープタウン領事事務所で勤務しました。

地図: ケープタウンの位置。

そもそもなぜ私が派遣員になったかというと、きっかけが2つあり、最初のきっかけは大学2年の時に受けた授業でした。当時私が受講していた授業の講師の先生が、本学出身で在学中派遣員をしていたという話を聞き、初めて本制度について知りました。2番目のきっかけは就活です。3年夏にインターンを申し込みましたが、面接が通らずやる気を失くしていました。そのタイミングで同期の何人かが留学に行き、私も海外、できれば大学で勉強してきたアフリカへ行きたいと思いました。しかし、単なる留学ではなく何か違うことがしたいなぁと考えていたところ、授業で派遣員について知ったことを思い出し、ちょうど募集が始まる時期でもあったので受験することにしました。派遣員は出願する際に希望地を選べますが、私は選択肢にあったアフリカにある英語圏の公館をすべて希望地に書きました。そして、運良くケープタウン事務所に派遣されることになりました。

② ケープタウンという都市について

上記でも述べましたが、ケープタウンは南アフリカ共和国にある一都市です。南アフリカの首都はプレトリアにあり、司法はブルームフォンテインという都市が担っていますが、ケープタウンは立法都市で国会議事堂があります。また、ケープタウンは文化の都市としても有名です。歴史は、高校の歴史で必ず習うポルトガル人航海者たちのアフリカ大陸周遊から始まります。その後オランダ人が入植を開始し、フランスの宗教革命の影響で本国から逃げてきたユグノーの人々もやってきました。最終的にはイギリスの植民地体制下となり、1961年に独立しています。海を渡って南アフリカの地にやって来た入植者たちは、ケープタウンの港から入港したため、ケープタウンは様々な文化が混じり合う文化的都市へと発展しました。多くの劇場や画廊などが立ち並ぶとともに若いアーティストも取り込んでいます。

また国内では観光都市としても有名です。喜望峰やテーブルマウンテン、ケープペンギンが見られるビーチは観光客が必ず訪れる地となっています(写真1、2)。ワインの産地としても有名で、多くのワイナリーがレストランを併設しているとともに、敷地からは雄大な自然の景色を望むことができ、人気の観光スポットのひとつです(写真3)。生物も多様で、特に植物はフィンボスというケープタウン周辺の特殊な植生があります。

写真1: テーブルマウンテン。世界7不思議の一つに指定されている。下からみると平たいが、登ってみると上は岩でゴツゴツしている。ハイキングコースが多数あるが、一番手っ取り早いのはケーブルカー。5分ほどで頂上に着く。

写真2: ケープペンギンのいるボルダーズビーチ。一年中野生(保護されているので、私は半野生と言うべきだと思うが)のペンギンを見ることができる。任期中何度も足を運んだが、この写真の時が最も数が多かった。

写真3:好きなワイナリーの一つ、スターク・コンデにて。オーナーはご夫婦だが、奥様が日本人の方。景色が素晴らしく綺麗。南アは安くて美味しいワインがたくさん手に入る。ワイナリーは数百件以上。食文化はワイン抜きでは語れないと言っても過言ではない。最近はクラフトジンのバーなども若者の間で流行っている。

③ 2年間の生活

平日は毎日仕事をし、週末はたまに仕事が入りますが基本休みという生活を送っていました。仕事柄日本人の方々との交流が多かったので、週末は在留邦人の方々と出かけたりなどすることが多かったです。インフラはヨーロッパ並に整っているので、生活に不自由することは特にありませんでした。都心部に住んでいましたが、家からは海が見え、車で少し行けば山の景色も広がっていて、便利さと自然がちょうどよくミックスされている都市だと感じます。

派遣員の仕事は主に日本から政府の要人が来る際の配車や空港での対応、宿舎の留保などですが、私の勤務していた事務所は要人の受け入れが極端にすくなかったので、私は広報文化という日本文化を現地に紹介する事業の担当をすることが多かったです(写真4)。具体的にはイベントを開催する際の企画・運営(企画したイベントの例:ジャパンデー)や、留学プログラムの紹介などでした(写真5)。また秘書的業務などもあり、人数が少ない事務所だったからこそ、色々な業務をすることになりました(写真6)。また、任期中2回ほど出張もあり、要人訪問の準備なども行いました。

休暇には国外旅行にも行くことができました。アフリカ地域専攻の同期とルワンダやウガンダを旅行したり、他専攻の友人とロンドンを訪ねたり、南アにいる友人と南ア国内旅行をしたりと、かなり色々な場所をまわることができました。

写真4: 事務所を訪れた子供達に日本文化を紹介しているところ。

写真5:留学説明会にて。外大の宣伝もしました。JETプログラムという日本にALTを派遣する事業があり、その宣伝なども担当していた。

写真6: 一年に一回行うレセプションにて。

④ ケープタウン派遣員生活を終えて

在学中に文字通り「働く」という選択をしたことは、私の人生の中で大きな転換点となったと思います。私はケープタウンに行くまで、親元から離れて一人暮らしをしたこともなかったし、生活に必須である車の運転もままならない状態で、「自活する」ということがどういうことなのかあまり理解していませんでんした。加えて仕事も指導されないまま自分でしなければならないことがたくさんあり、とまどうことだらけでした。

そんな中の2年間の生活でしたが、最も大切で重要だと思ったのは、「人との出会い」です。ありきたりですが、やはりどんな経験もこのことに尽きると思います。生活立ち上げで大変だった時は同僚が助けてくれましたし、仕事では上司に教わることがたくさんありました。落ち込んだ時は現地の友達も日本にいる友達も親身になってくれました。また、仕事をしていたからこそ繋がった人たちもたくさんいます(写真7)。海外、そして南アフリカという遠く離れた場所だったからこそ、また2年間という長期間だったからこそできた人脈がたくさんあります。その小さな出会いひとつひとつがあったから、2年間の出来事を振り返った時、充実していたと感じることができるのだと強く感じます。

写真7: 事務所員とその家族。毎年行うクリスマス会にて。

⑤ アフリカに挑戦する人に向けて

きっとこのページを見ている方々の多くは「アフリカに行きたい!」と思っている人だと思います。理由や志はそれぞれだと思いますが、私の経験から心に留めておいた方がよいと思うことを数点挙げるとすると、

1.安全管理・健康管理をしっかりとすること:私は一度も事件や事故、大きな病気をすることなく2年間過ごしました。私が危ない目に遭わなかったのは、治安のよいところと悪いところのはっきりしているケープタウンという土地柄もあるかもしれません。しかし、どこに行っても気をつけることは変わらないと思います。危険だと言われている場所に行かないこと、身の回りの貴重品には十分注意しておくこと、ここは、自分は大丈夫だと油断しないこと、地域の犯罪等の情報を頭に入れておくこと。自分の身はある程度自分で守る予防をしなければ、痛い目を見るのは自分だということを忘れないで欲しいです。

2.現状を把握すること:その土地の人はどういう背景を持っていて、自分はどう見られているのか、ということを把握して会話することが重要なことのひとつだと思います。「空気を読む」のは日本社会の特徴だと思いますが、どんな人と会話する時もある程度空気を読むことは大切です。

3.日本を知っておくこと:海外に行くと度々思うのは、いかに自分が日本を知らないかということです。仕事上日本文化を紹介する仕事をしていましたが、ある程度自国について語ることができる知識を持っておくことも海外に出る上で重要なことだと強く感じました。インターネットが普及して久しい現代、アフリカという地においても様々な情報が手に入りますが、日本のイメージといえば「スシ」や「アニメ」に留まっていると感じます。それ以外の日本の特徴について語ることができる人は現地でのコミュニケーションの幅がかなり広がると思います。

これからアフリカに挑戦する人たちには是非、人との出会いを大切に、先入観を持たずに飛び込んで欲しいと思います(写真8)。機会は至る所に転がっています。一度行けば、自分の知らない、考えたこともない新しいことが絶対にひとつは見つかるはずです。

写真8:任期中たくさんお世話になったウォーターフロントにて。モール、レストラン、ホテルなどの商業施設がかたまって位置している。ケープタウンはアフリカ大陸内の他過酷な地域で頑張る人の一時の休息場所としても人気。不便な生活に疲れたら、是非ケープタウンへ!

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

最終更新:2019年5月9日