まず、言葉をはっきりさせておきたい。幕内上位というのは、上位16人圏内、幕内下位というのは、幕内上位以外である。取組を割ともいう。
星数が最も上の者を最優秀成績者としたい。複数いる場合もある。
幕内下位の優秀成績の力士は、昭和46年6月から上位と対戦が組まれるようになった。その理由は明らかだろう。幕内下位の力士と幕内上位の力士とでは対戦相手の強さが違う。それにもかかわらず、白星は同じ一勝として数えるから、幕内下位が上位の星数を上回って優勝したとしても、納得感がないのである。相撲ファンはその程度は星の中身も見るということだろう。
幕内下位力士の優勝を制限するということを裏からいえば、この制度は、本来は幕内上位の最優秀力士が優勝すべきであるという価値判断のもと、そのような力士の利益を目的とする制度ということができる。
さて、この対戦相手の強さが違うという問題については、取組編成を上位下位にかかわらずランダムに組むという方法を採らない限り、解決することはない。
しかしランダムな取組編成をせよ、という主張も見かけない。そこは変えるべきではない、と思われているのだろう。かくして、対戦相手の不公平は完全に解決することはなく、どの程度の不公平まで許容するか、どの程度の処置で満足するか、という議論となる。明快な答えが無いという点で、これも面白い人には面白い話題なのだと思う。
このように、対戦相手の強さが違うので単純な星数の比較で優勝を決定することが不公正であるという価値判断の下、それを是正する制度に関連する問題を、「取組編成における平幕優勝問題」、あるいは「平幕優勝問題」としたい。
話の出発点として、現在の取組編成を概観したい。
同部屋親族は原則として対戦がない。という細かい話を無視すれば、幕内の人数は上位16人下位26人である。n日目終了後にn+2日目の割を決めることができる。
横綱大関戦は千秋楽に終わる計算で連日総当たりである。ただ、人数が多い場合は何番か前半に大関同士の割が組まれることもある。
現実の取組編成では、下位成績優秀者が出現した場合、2、3番上位対戦を組んでいる。
直近の令和元年5月の朝乃山の例を見てみたい。
玉鷲は微妙だが、ここでの定義では上位力士である。そうなると、12日目から上位対戦を組んでいる。それ以降は以下の通りである。
12日目 西前3 玉鷲 ●
13日目 西関脇 栃ノ心 ○
14日目 東大関 豪栄道 ○
千秋楽 西小結 御嶽海 ●
この例では4番だった。また、12日目から上位対戦を組んだということは、10日目に上位戦を組むことを判断したことになる。
10日目の状況は以下の通りだった。
大関以上の出場者 3人
成績優秀者
鶴竜(1敗)栃ノ心(1敗)朝乃山(1敗)琴恵光(2敗)
栃ノ心を含めると4名で、12日目以降総当り戦を組むならば、朝乃山の上位戦を組むと割を崩すことになる。
とはいえ、相対的に横綱大関の人数は少ない部類だろう。上位対戦を組むことに対する抵抗感は小さかったと思われる。
結果として、上位最優秀成績者の鶴竜と対戦は組まれなかった。
このように、平幕の成績優秀者の上位対戦を終盤に組んでいるのは、概ね以下のような感覚を納得させるものだと思われる。
幕内下位の力士が全く上位対戦なく優勝するのでは対戦相手の公平性を欠くこと著しく不当である。
ただ、幕内下位は幕内上位に普通負けるものであり、幕内上位と2、3戦あたって全敗したら優勝はほとんど絶望的となる。
裏を返せば、その中で優勝できるくらいの星を残したのであれば、本来負けるべき幕内上位に勝ったから優勝したのであり、その勝利によって対戦相手の不公平による優勝の納得感のなさが減るので、平幕優勝が正当化される。
さて、この編成に問題はないだろうか。下位力士が上位力士に勝ったら優勝に説得力というのは、なんとなくは分かるような気もするが、上位にも色々ある。欲をいえば強い横綱大関と当たった上でなければ不公平さは十分に解消されないのではなかろうか。もちろん、上述の手段でない限り不公平さが完全に是正されることはないのだが。
このように、現実の取組編成では、平幕優勝問題の解決のため、平幕優勝しそうな力士が現れた場合、本来上位対戦が組まれない地位の力士だった場合でも予定を変更して上位対戦を組むものとしている。
反面、横綱や大関は総当たりになるものとされているが、このように下位で成績優秀の力士を上位と対戦させるものとした結果、ある横綱大関間の対戦が組まれないことがあり、これを割崩しという。
平幕下位で成績優秀の力士を上位に当てることと割崩しとの間に論理的な必然性はないが、この問題を簡潔に表現できる言葉であるように思われる。そこで、ここでは、平幕優勝問題の解決のため、下位力士の何日目の成績がいかなる成績である場合に、いかなる相手と割を組むべきか、という問題を、割崩し問題ということにする。
割崩し問題において、以下のようなことが考慮要素になると思われる。
前述のように、取組は幕内上位と下位で不公正である。
これを、二、三番上位力士と組ませてそれでも最優秀成績だったのであれば優勝でも良い、と考えるのが現在の取組編成であり、それでは不十分と思うのならば代案を考えることになるだろう。
私は、以下「上位力士の最優秀成績者との対戦」が平幕優勝者をなるべく組まれるような編成を考えていこうと思っている。
もっとも上位対戦のない平幕優勝を防ぐには、優勝の可能性のある下位力士を上位対戦させることだろう。おそらく優勝者の考えうる最低成績は8勝であり、それは優勝決定戦により上位力士は対戦できる保障があると考えれば、9勝になるだろう。
さらに緩和するならば、現実にあった優勝ライン、4敗辺りを考えることになるだろう。
現実の取組編成では、上位最優秀力士と並ぶか上回ること辺りを条件としているように感じられる。
下位力士を上位に当てる条件を厳しくするほど、上位対戦のない平幕優勝を広く許容することになるだろう。
下位力士を上位力士と当てるのであれば、上位力士が多数いる場合には上位力士の総当たりを崩す必要がある。しかし、上位力士も優勝争いに加わっているような場合には外せない。優勝争いに加わっている力士のうち誰が結果的に上位最優秀成績力士となるか分からないからである。
さて、どの条件で上位力士の総当たりを外すか、という問題である。
逆に、上位力士のうち優勝争いに加わっている一定の力士のみと下位成績優秀力士を総当たりにする、という手段もあるだろう。
さらに柔軟な解決策として、前半に横綱大関戦を組む、という方法がある。
これについては、事前にいかなる地位の者の割を組むかを決定する方法や、負けが込んだ横綱大関から横綱大関戦を組んでいく、といった対応が考えられる。
前述の令和元年5月の例で考えてみたい。
10日目、朝乃山1敗、琴恵光2敗の時点で、審判部の判断は、朝乃山のみを上位に当てることにした。
さて、実際には琴恵光はこの後5連敗で8勝に留まったのであるが、2つ現実を変更して、1.5連勝で13勝だった、2.朝乃山の一枚下、西9枚目だったという仮定を置きたい。
そうなると、通常の編成によれば、琴恵光は1枚上の12勝朝乃山よりも番付編成において優先することになる。
朝乃山にとっては、10日目において優秀成績だったからこのようなことになったわけで、10日目において2敗だったら上位戦は組まれず、そうなると13勝以上上げられたかもしれない。
このように、下位成績優秀者を上位に当てるのは、下位力士相互間においては公平性を損ねているのである。
昇進基準の議論でも登場したが、相撲の制度の議論では、やはりこの要素は外せないように思われる。割崩し問題や平幕優勝問題を形成しているのは割の不公平だが、割をランダムに組めば解決するのである。しかし、そのように主張する者を見たことはない。