では、修正基準はこの見地からすると適切なものだろうか。
明確性の箇所で述べたように、最低限の明確性における両ラインは、横綱にふさわしい成績に判断要素の全面的考慮や恣意的判断の防止の考慮を働かせて決定するものだった。
そのような観点から優勝+次点という成績が昇進不当ラインとして適当かを考えたい。
まず、判断要素の全面的考慮によれば、優勝+次点を上げた力士は判断要素次第で横綱にふさわしいといえるだろう。
だが、恣意的判断の防止の点から見ると、不当な目的であっても昇進を許容するラインとしては低すぎるように思う。
それは、次点の範囲は広く、優勝+次点の次点が大差のときに、第一人者なり、それと比肩する者と評価するのは躊躇するからである。
そこで、修正基準をさらに修正し、次点を一定の範囲に制限したものを昇進不当ラインとしたい。なお、13勝以上という星数については修正しない。
次点のうち、相星決戦敗北は次点のうちもっとも評価されるべきであり、これは認める。
ただ、相星決戦敗北はあまり多くはないだろう。次点を認める以上は、もう少し範囲を広げたい。
そこで、千秋楽まで優勝争いの次点を採用したい。
では、さらに一差次点を採用するべきか。
優勝争い次点と一差次点との差異は、次のようなものだと思われる。
優勝争い次点は、時間的な経過に沿ってみて優勝に近いと評価されるものである。他方、一差次点は、事後的に評価して優勝に近い次点と評価されるべきものである。
基準に説得機能があり、そこで説得する対象は多様な価値観を持っていることが前提となっていることは前述したが、それでも人間であることは大前提であり、それは本場所に興味を持つべき者である。
本場所を見た者にとって、より優勝に近いと感じられるのは、優勝争い次点だろう。
他方、結果的に二差がついた優勝争い次点よりも一差の優勝次点が優勝より遠いと判断するのも難しいのではなかろうか。
異なる見地からの評価なので、そのような場合が発生するのは当然なのだが、「異なる見地だから」と争い次点を容れ一差次点の排除を割り切れるものかどうか。
私は割り切れないので、一差次点も含むものとしたい。したがって、優勝+優秀次点を昇進不当ラインの一つとする。
昇進対象場所を3場所とする昇進不当ラインを導入すべきだろうか。
先ほどのように、過半数という考え方だと、3場所中2場所の優勝という基準を反映させたいということは述べた。
また、3場所の余裕を持たせることによって、全勝をより反映させることができるという利点もある。
そこで、3場所の成績による昇進不当ラインを導入する。
しかし、修正基準とは別個に3場所の成績を昇進不当ラインとすることを考えたとき、実益は前場所において次点にもならなかった場合くらいしかない。ただ、前述の第一人者を選出するというスタンスで考えたとき、3場所ならば全ての場所において優勝に近い成績を要求したい。だから、前場所横綱にふさわしい成績が残せなかった場合に昇進を認めることには消極的である。
そこで、ケースとしては多くないかもしれないが、前場所12勝の場合のみ、3場所の成績を導入したい。
先ほど12勝綱取り継続論を否定したこととの関係で説明が必要かもしれない。
先ほど否定した12勝綱取り継続論は、12勝を続ける限り永遠に綱取りが続くもので、その理屈は苦しいから否定した、ということである。
3場所に限り、綱取り継続論のようなものを認めることは否定しない。
次に、2場所優勝の扱いについて考えたい。
連覇は見送り不当ラインを超えるから、話題とするのは昇進場所と前々場所の優勝の場合である。このような場合に前場所の成績に一定の限定を付けるかである。
既に述べたように、望ましい横綱昇進基準とは、横綱にふさわしい成績を用いる基準であることだと思っている。昇進場所と前々場所が優勝という好成績である以上、前述の場合よりも前場所要求される成績は低くすべきであり、具体的には10勝となるだろう。横綱にふさわしい成績であるとはいえない。10勝が視覚的に分かりやすいし、一つの区切りとしても使いやすい成績であるから、これを使用しても良いのだが、今回は用いない。
だから、昇進場所と前々場所が優勝のときは、前場所の成績にかかわらず昇進不当ラインを満たすものとしたい。
成績評価の項で述べたように、全勝こそは最も基本的な横綱にふさわしい成績だと思っている。現行の横綱推薦基準は、全勝を特別扱いしないところに問題があると思っている。
今回はおかしくない限りは既存の基準を採用するスタンスであり、そのために見送り不当ラインにおいても連覇が十分合理的であるために全勝は採用しない。しかし、最後の抵抗で昇進不当ラインには導入したい。反面明快性は損なうことになるが、仕方がないと考える。
昇進場所全勝の場合に緩和するか。昇進場所全勝、前場所次点で昇進ラインになることとの比較を考える。2場所優勝の扱いで述べたように、一場所の成績を次点以上に緩和しないとすれば、前場所の成績を次点よりも緩和する余地はない。いや、無条件という緩和はできるだろう。そのままだと、1場所の全勝となる。これでも個人的には良いのだが、1場所の成績での昇進は現実との乖離の観点から躊躇する。そこで、前々場所も昇進対象場所に含める。昇進場所優勝の場合前々場所に優勝を条件としていることとの均衡から、優勝か同点か優秀次点か次点である。後述のように、昇進場所全勝前場所次点を条件とするが、逓減性の見地から、前場所次点よりも前々場所において高い成績を要求するという意味で、優秀次点とする。
前場所全勝の場合に緩和するか。前場所優勝よりも緩和できるとすれば、昇進場所優勝争い次点という条件を緩和することになろう。
全勝を評価する立場から、ここでも条件を緩和したい。そこで、前場所全勝のときは、次点で昇進不当ラインを超えるものとする。
前々場所全勝の場合に緩和するか。前々場所優勝昇進場所優勝と比べて緩和するのであれば、昇進場所は同点、優勝争い次点、単純次点となる。
単純次点だと、前場所全勝でも前々場所全勝でも変わらないということになる。2場所と3場所との違いは重視すべきだと思うので、これは採らない。優勝争い次点だと、前場所優勝と同じ扱いとなる。それはバランスが良いような気もする。昇進場所全勝前々場所優勝争い次点との比較だと、全勝と優勝争い次点が交換になっている。逓減性を肯定する限り、前々場所が優勝争い次点よりも下の基準であれば不当だろう。あとは逓減性の見地から同点にするか、逓減せずに優秀次点とするかである。私としては全勝の価値を重視し、優秀次点としたい。
昇進対象成績を拡張するとなると、見送り不当ラインの連覇も、前々場所に限定を付す必要はないか、3場所の成績での見送り不当ラインを設定すべきではないのかという疑問もわいてくるが、ここでは規定を重視し、見送り不当ラインは連覇のみとする。
昇進不当ラインについても、成績の高低はあり、成績の高い者が昇進して低い者が見送られることは防止したい。
そこで、審議順序を設けたい。
1.昇進場所における優勝力士
2.昇進場所における全勝力士
3.前場所における優勝力士
4.前場所における全勝力士
5.前々場所における優勝力士
6.前々場所における全勝力士
一人の見送りの判断が出た時点でその場所の横綱昇進の可否の審議は終了する。すなわち、前の順位の力士が見送られた場合に後の順位の力士が昇進することはない。
なお、2.4.6は、全勝が複数出たという非現実的な場合であり、その場合の優勝力士は当然全勝力士である。
結論を言えば、
1.昇進場所優勝、前場所優秀次点又は13勝以上
2.昇進場所優秀次点、前場所優勝
3.昇進場所13勝以上or次点以上、前場所全勝
4.昇進場所優勝、前場所12勝、前々場所優秀次点又は13勝以上
5.昇進場所優秀次点又は13勝以上、前場所12勝、前々場所優勝
6.昇進場所全勝、前々場所優秀次点又は13勝以上
7.昇進場所優勝、前々場所優勝
8.昇進場所優秀次点又は13勝以上、前々場所全勝
となる。
昇進場所から整理すれば、
1.昇進場所全勝の場合、前場所又は前々場所優秀次点又は13勝以上
2.昇進場所優勝の場合、前場所優秀次点又は13勝以上か、前場所12勝かつ前々場所優秀次点又は13勝以上か、前々場所優勝
3.昇進場所優秀次点又は13勝以上の場合、前場所優勝か、前場所12勝かつ前々場所優勝か、前々場所全勝
4.昇進場所13勝以上or次点以上の場合、前場所全勝
となる。ひとまず、これが結論であり、修正基準2とし、昇進不当ラインとあわせ、横綱昇進基準1とする。
14勝や同点という、優勝より1レベル下の成績が全く使われておらず、どこかで使おうと思っていたが、みかけ上すでに明快性に問題のある基準なので、これらの成績を用いることはしない。これらの成績は、1ランク下の成績として用いるには優勝に近すぎ、独自の条件として用いるには細かすぎるという難しさがある。