一番最初に出す基準は満足の行くものにしようと思っていたので、2の基準は何度か修正を繰り返したものである。
試行錯誤なく目分量で基準作ったらちょうどよかったです、というような誤解を与えてしまうようにも感じるので、それ以前に作って不満だった基準を提示したい。
ここでは、特例昇進回りを修正した。
人数が少ない場合に、例外的に甘い昇進を認めたい。これは、横綱と異なり、必置ルールが要求されているからである。
実証的にみても、先ほどのように、70年のうち8年は12勝を上げた力士が3人であり、先に昇進した力士が残っているにしても、例外的に甘い昇進を認める必要はあるだろう。
そこで、大関(全て横綱大関を除いた前提である)が2人未満のときは、10勝の昇進を認めることにする。
ただし、このような特例は限定的な場合にしたい。そこで、原則として三役在位者の最優秀成績者のうち最も地位の高い者に限るものとするが、大関から陥落した力士はそれを優先させたい。大関からの陥落力士は慣例上関脇の下位に置かれる。その結果、東西関脇よりもこの特例が受けにくくなる。論理的にこれが不合理であるわけではないが、後述のように12勝から一定の期間を角番保護条件とすると、二桁を頻繁に挙げてた大関が突発的に落ちることがあり、この特例の昇進基準であれば常に満たしていたような力士を優先させるためである。
1.昇進場所において三役に在位
2-a 昇進場所において12勝以上or優秀次点
2-b 昇進場所10勝以上かつ前場所小結で昇進不当ライン超え
2-c-a 次場所大関人数が2人未満の見込み
-b 三役在位者のうち最優秀成績の10勝以上
-c 最優秀成績者に前場所大関が含まれている場合はその力士、含まれていない場合は最上位の力士
となる。
これを大関昇進基準2としたい
負け越しで降格するが、
1.12勝、次点又は特例昇進以外の昇進場所から6場所以内
2.前場所勝ち越し
の場合は降格しないということを降格基準2とする。
さてどう思われただろうか。
個人的にはほぼうまくいったと思っている。
しかし、問題に感じる点もある。一つは、昭和55年の琴風、朝汐の連続昇進、連続降格である。
これは角番制度により我々が1場所降格を不自然に感じるからであり、1場所昇進を認めた以上おかしくないという考え方もあるかもしれない。
しかし、特例を認めたのは大関の人数の維持であるが、これでは人数の維持は十分には果たせない。
また、この問題については、特例昇進の場合に角番の保護を認めなかったからであり、正当性に疑問はあるが角番の保護を与えるということも考えられる。昇進した大関を一律に扱うということで説明はつくだろうし、不利益ではなく利益を与えるものだから、問題は小さいだろう。
もう一つは、降格基準が12勝から数場所、としている以上、二桁をちょくちょくとっていても、一回の負け越しであっさりと下がってしまう。ところが、その降格により大関の人数が不足して特例で昇進させると、10勝11勝をちょくちょく上げてた力士が下がり、新三役で10勝あげたような力士があっさりと昇進することになる。結果、より実力の低い力士が昇進するように感じられる。
これについても色々な手段があるだろう。
一案として、横綱降格基準に二桁条件を導入すればこの問題は解決する。
しかし、降格基準が複雑になり、現実の降格基準からの乖離が激しくなる。これは理由として強いものではないが、今回はやめておきたい。
そこで、昇進基準を修正する。すなわち、原則として特例昇進制度を廃止したい。
しかし、完全に廃止することは躊躇される。必置ルールがあり、70年以上の15日制定着制以降の歴史を見る限り、必置ルールに反する事態は発生していないが、それでも万が一のため安全弁を容易しておきたい。
そこで、横綱大関の次場所見込みが三名以内で大関が二名未満となる場合に限り、特例昇進を認めることにする。
特例昇進はごくまれにしか起こらないので、降格基準も同様に扱う。
1.昇進場所において三役に在位
2-a 昇進場所において12勝以上or優秀次点
2-b 昇進場所10勝以上かつ前場所小結で昇進不当ライン超え
2-c-a 次場所横綱大関の人数が3人未満かつ大関人数が2人未満の見込み
-b 三役在位者のうち最優秀成績の10勝以上
-c 最優秀成績者に前場所大関が含まれている場合はその力士、含まれていない場合は最上位の力士
となる。
これを大関昇進基準3としたい。
これもなかなかよくできていると思われる。
しかし現実よりも2大関未満となる場所が増加する。
もちろん、これは長期間12勝や次点を取っていない者は大関にふさわしくないという価値判断のもと、そのような力士を容易に降格させるようにした結果だから、この問題点があることのみによって3-bの基準が不当となるわけではないのだが、今回は二名未満の場所を現実の大関よりも減らしたい。
そこで、3-bをさらに修正したい。
二名未満を最大限防止するために、特例昇進を、横綱大関全体が不足することに備える3-bの場合ではなく、大関2名未満を防ぐ3-aの場合に戻す。
そうすると、3-4の問題点が復活することになる。後者の問題から解決を図りたい。
12勝等6場所保護の眼目は、12勝等が大関にふさわしい成績で、これを降格基準に用いたい、ということだった。
これを維持するのならば、保護される場所を増やすことが考えられる。
しかし、判断要素において考慮しうる場所数を1年とした以上、ここでそれを超過する場所を考慮するのは許容し難い背理だろう。これについては判断要素の側をいじることも可能だが、考慮しうる場所数を先に定めて優先させたい。今回は、考慮要素はいじらないし、9場所に拡大する手段はとらない。
あるいは大関の在位人数が1人以内のときに別途降格基準を定めることも考えられる。しかし、降格基準が強い公平性を要求されるという価値観を尊重して、このような手段も採らない。
そこで、12勝と同様10勝の場合にも数場所角番の保護を与えたい。
12勝等が大関にふさわしい成績だとしたが、10勝が大関にふさわしい成績だとは書いておらず、これを降格基準とすることには説明が必要かもしれない。
書いてはいなかったが、昇進基準で10勝の特例を設けなければ大関人数の不足が生じうるということは、数の見地から、10勝も大関にふさわしい成績たりうるものと考える。
10勝を基準から最大限回避したかったのは、何分一桁と二桁という違いといい、勝ち越しと優勝の間の「優秀な成績」のラインといい、元来基準に使う成績として説得力が強いと思われる。
むしろ、説得力が強すぎることが問題だと思っており、できるだけ分かりやすすぎる二桁という数字の重要性を弱めたいと思っていた。
というわけで、10勝が大関にふさわし成績たりえないわけではなく、12勝というだけでは人数の不足が生じる場合に二桁、10勝という数字を用いるのも許容されると考える。
ここでちょうどその中間、11勝を基準としてもよいが、人数の適正化という観点からは中途半端になる可能性もあり、10勝を用いることにする。
そして、分かりやすい場所数で6場所より小さい数字となると、1場所、2場所、3場所という辺りだろうが、一度の10勝であっさり上がる昇進側との均衡を考えれば、それなりの期間10勝を上げていない限り角番制度の保護を受けられるものとしたい。そこで、10勝から3場所をもう一つの角番保護条件としたい。
そうすると、特例昇進の場合も10勝は上げているから、その3場所は角番の保護を受けるということで、3-4-1の問題点も解消される。
以上より、
負け越しで陥落するが、
1.12勝、次点又は特例昇進以外の昇進場所から6場所以内
2.10勝又は特例昇進の昇進場所から3場所以内
3.前場所勝ち越し
の場合は降格しないということを降格基準1とする。
という試行錯誤の結果が、2-aの昇進基準である。