着地原則の例外は全て死に体としたが、そもそも着地原則の内容に含まれない、と構成すべき規則もあるように思われる。
着地原則の内容も含め、ここで述べておきたい。
第六条 土俵内において足の裏以外の体の一部が早く砂についた者を負けとする。
第七条 土俵外の砂に体の一部でも早くついた者を負けとする。ただし、吊って相手の両足が土から上がっているのを土俵外に踏み出してから相手の体を土俵外に下ろした場合は、送り足となって負けにならない。
第九条 頭髪が砂についたときは負けである。しかし、相手を倒しながら、瞬時早く髪がついたときは負けにならない。
第十一条 俵の上を歩いても、俵の上に足をのせて、つま先、かかとがどれほど外に出ても、土俵の外線から外の砂につかなければ負けとならない。
第十二条 土俵外の空中を片足、両足が飛んで土俵内に入った場合は、土俵外の砂につかなければ負けとならない。
第十三条 締込の前の垂れが砂についても負けにならない。
6条の「体の一部」の例外が頭髪(9条)と前垂れ(13条)である。
9条はあまり問題とされない。死文化しているということだろうか。これは、そのようなルールになった時分では、髪の毛が解けて垂れ下がることがままあり、そのような場合を規定したものではなかろうか。
このように考えれば、前垂れとの共通点を見出すことができる。共に垂れ下がっていてそれ自体を自力で動かすことはできないという点についてである。これにより、純然たる体の一部と見るのは難しいということだろう。
さらに、両者の違いについては、髪は本来体の一部であり、前垂れは体ではないことに求められるだろう。
9条の詳しい内容は後に譲りたい。
11条は、足裏の全部ではなく一部が出れば7条本文が適用されることを規定したものである。
12条は、着地したら負けになるのであり、俵の鉛直線上の外(土俵空間外という)に出たら負けになるのではないということを明らかにしたものである。後述のように、着地原則の適用があった場合には結論が変わり、土俵内に入ったことで着地原則の適用がないから負けとならないことを示したものと理解することもできる。
7条但書が送り足の規定である。諸規定の中でもっとも理解が難しい規定だった。
送り足を、死に体の規定ととらえることもできる。しかし、吊られて土俵空間外に足が出ても負けではないとしながら、吊った側の足が出てたら吊られた側の体が死に体となるのはなかなか理解が難しい。
どの時点で着地原則の適用があるものとするか。吊った側の足が着地した時点か。しかし、そうすると、その後吊られた側の足が土俵外についたかどうかで結論が変わるのはなぜなのか。
そう考えると、着地原則の適用があるのは土俵外に着地した吊られた側の足で、吊った側の足は本来着地原則の適用があるがこれをないものとしたのが7条但書の規定と理解することになる。
また、後述の死に体もやはり問題となる。これについては、送り足のような位置関係では、通常吊られた側が先に死に体になるから、死に体の先後は別途問題とならないものとしたい。
先に見たように、前垂れと髪の例外はあったが、足を着地原則の適用外にするのは豪快な例外である。
なぜこのような例外を設けたのか。
ここでは、捕まるという防御方法の排除、と考えたい。
着地原則により勝負をつけるためには、吊った相手を落として着足、着地させなければならない。特に相手が体に捕まってきたときは、自分の体が先に出たり落ちないしないよう相手を落とさねばならず、うまく落とさなければならない。
しかし、この体に捕まるという防御方法は、相撲の技能としては逸脱しており、これによる勝利を認めるべきではない。このような価値判断を前提として、逆に吊る側は体を落とす技能を必要としなくても勝てるルールにしたい。そのためのルールが送り足であると位置づけるのである。
体に捕まるという防御方法の不当性についてもう少し考えたい。通常の相撲の行動は、相手を負けに追い込むか、自分を勝ちにするためのものである。体に捕まるというのは、そもそも自分の体重を相手に委ねるという、極めて不利な体勢にするものである。それにもかかわらず死に体を逃れ着地するときは万が一の逆転を狙う、という目的の行動ではあるだろう。しかし、後者については、相手が落としてくることを前提としている。相手が落とさなければ、この状況は膠着する。このように、自らに不利な体勢を、相手が落としてこない限り膠着させるということについて、通常の技から逸脱しているというわけである。
一番直接的なルールとしては、体に捕まった瞬間に負けとするルールが考えられる。これはこれで一つのルールだろう。しかし、このルールでは、やや着地原則との乖離が激しいきらいがある。相手の行動を敗北理由とするのは着地原則と異質なものだから、それが決定的な不合理ではないが、なるべく着地原則と類似したルールにしたい。では着体で捕まったときに勝負決定を早めるルールは作れるか。少し難しいのではないか。地面に足からつきそうな体勢でも負けとするというのは不自然な感が強い。一方、着足は適当なルールが作れそうである。これが送り足である。
規定にあるように、自分が土俵外に出たあとにせよ相手を土俵外に落とさなければならない。つまり、送り足の規定によって吊る側に不要な技能となるのは、落とさなくてよいということではなく、自分の着足着体より後に相手を落とす必要はない、ということになる。先の吊りにおいて落とすときの難しさは、自らが先に着足着体するおそれがあることにあるから、このような規定で十分効果のあるものだろう。
しかし、この説明も疑問がある。そもそも、相手が体に捕まってきた状態というのは、吊りとはかなり違う。これを吊り一般のルールとして理解するのは少し無理がある。相手の背後に回り、体にぶら下がった例を考えてみたい。これは吊りではないがぶら下がりである。
もっとも、実際にこのような事例があったかは分からないが、仮にこのような体勢が発生したら、やはり送り足を採る可能性もある。捕まられている力士が前に出たらその力士が先に土俵空間外に出ることになり、後退したら捕まっている力士が先に土俵空間外に出ることになるから、7条8条の規定の想定している場面とはいえず、不合理だろう。
また、このように考えるのであれば、足が土俵空間外に出た時点で勝ちとするのが自然ではないか。これを負けにはせずに吊り側の足が出た時点を勝ちとするのは不合理な感が強い。
しかし、実際このような状態になったときに送り足をとらなければどうするのだろうか。後ろに倒れなければならないだろうが、それだと後ろで捕まっている力士が状況に対応しやすく有利だろう。まさに、送り足を採った方が良い場合ではないか。そして、実際に送り足が採られる可能性もあるのではないか。
やはり、捕まった力士を下ろすという手順を略すという考え方が、送り足のルールにかなり適合的で、ただ「吊り」の場合と規定したのがややズレていたように思われる。