3場所33勝基準がよく持ち出されるが、これは徹底した明確性ある基準ではなく、「目安」とされ、これに反する昇進例がよく出現する。目安とは異なる扱いをする場合に、どの程度の成績であれば昇進を認めるか、あるいは昇進を認めないかが安定した規則として運用されているわけでもない。そうすると、この3場所33勝基準は、前述の最低限の明確性ある基準ではない。昇進基準において最低限の明確性を要求する私の立場からは、明確な基準にすべきであると批判したい。
ひとまずこのような基準があるものとして、その妥当性を考えたい。
まず、昇進対象場所は3場所だが、これは妥当だろうか。
興味のある方には自明だが、横綱の対象場所が2場所を基本としていることからすると、横綱と大関とで昇進対象場所数の不整合が生じている。妥当ではないだろう。最短1場所で十分と考えている。
33勝というのはどうなのだろう。
意味を見出すとすれば、平均11勝ということだろう。
なんとなく10勝と12勝の間で適当そうである。特に、徹底した明確性のある基準としては平均11勝は一つの適当な基準といってよいかもしれない。
しかし、今回の昇進基準のスタンスである最低限の明確性から考えると、「平均」を採る必要はないように思われる。
例えば、昇進対象場所においては「10勝」という下限をみれば良いということもできるし、横綱における優勝のような基本的な昇進成績を12勝とみれば、その12勝以上を挙げたことを一つの条件とすれば良い。「平均」を採る必要はない。
つまり、あまり適当な基準ではない。
角番制度は、徹底した明確性ある基準である。そこで、基準自体の正当性から評価したい。
格にふさわしい成績を使った降格基準が正当性のある優れたものである。そして、1場所単位の成績における評価において、述べた横綱にふさわしい成績のワンランク下の成績が大関にふさわしい成績である。
さて、現実の降格制度である角番制度は、2場所連続負け越しを条件とするものである。このうち、降格場所における負け越しは、負け越さない限り降格しないという番付の一般論に基づくものだろう。角番制度はこれを繰り返すのだが、考えれてみれば、前場所の負け越しについては、必然性に乏しい。
そして、負け越しは大関にふさわしい成績としては低すぎる。したがって、前場所の負け越しという条件は好ましいものではない。
他方、大関にふさわしい成績、たとえば、10勝に満たない成績を1場所の降格基準とすべきだろうか。そうでないことは明らかである。大関の人数が不足してしまう。また、大関以上の一般的な昇進ではない、角界の一般的な昇進規則では、負け越しでは順位が下がらない。勝ち越し降格はこれに違反する。もっとも、これについては、逆のパターン、すなわち、負け越しでは番付が上昇しないという規則は、番付最下位付近では破られている。だから、番付最上位付近で勝ち越し降格があることは、認められないわけではない。ただ、現実との乖離は大きいものとなるだろう。
したがって大関降格制度である角番制度は修正すべきということになるが、その手段には様々な方法が考えられる。具体的には、角番復帰条件や角番保護条件の修正があるだろう。
例えば、角番で勝ち越せば角番から復帰できるのではなく、角番で10番勝たなければ翌場所も引き続き角番であるという制度があるときの10勝を角番復帰条件という。
また、負け越したとき、3場所以内に10勝をあげていなければ、角番にならずに直接関脇に落ちるような制度があるとき、3場所以内の10勝を角番保護条件という。
角番を変更するのは、勝ち越しは大関にふさわしい成績とは不十分であることと人数が過剰であることが理由であるところ、後者については角番保護要件を修正する方が角番復帰条件よりも効果的であり、基本的には角番保護条件の修正を考えたい。
角番復帰条件の修正は、現実との乖離が小さい基準を指向する場合であるが、私の指向する基準のうち、最も現実との乖離が小さいものでも、角番保護条件を用いる程度には現実との乖離が大きい、ということである。