カブトゴケという地衣類

ベニボタルの下の地衣類はカブトゴケの仲間(Pseudocyphellaria, Lobaria, Sticta のうちの Lobaria 属)なのですが、種名はわかりませんでした。緑色のはシノブゴケ。

カブトゴケは、人の手のほとんど入っていない深山の広葉樹樹皮に生える大型地衣類です。

この類の大型の葉状地衣類は環境の変化に弱く、ちょっとでも開発の手が森に入ってしまうと、あっという間に姿を消してしまいます。

生物は環境さえ整えば簡単に復活すると思われがちなのですが、カブトゴケ類は違うようで、1940年代の文献では普通種とあるものの、今はこの仲間はなかなか見つけることができません。大気汚染と伐採に弱いようです。

生物相というのはいわば平衡で、ある地質や気候のもとに何万年もかけてさまざまな生物が相互作用しあいながら過渡的に住み、移り変わりを経て準安定な相に落ち着きます。互いに複雑な食物連鎖で絡み合っているので、セットなのです。

それらが一つずつ役割を持ちながら、ヤジロベエのようなバランスを取りつつ、わずかずつ揺れながら平衡状態を作っています。ひとつ欠けると平衡がずれます。また新しい平衡に向かってゆっくりそれ以外の種の個体数が変化します。

平衡に達する時間スケールが非常に長いようで、人間の開発のスピードにまったく付いていけないのです。

サルオガセとか、ハナゴケの仲間はかろうじて付いていけています。カブトゴケは全然ダメ。

このぶきっちょさでは、きたる地球温暖化にも全く適合できず、絶滅するでしょう。

こいつらは涼しいところが好きなのです。

もしこのぶきっちょなやつらを一目見たければ、人の手の全く入っていない原始林(原生林)に分け入って入ってください。

原始林に一回でも入ったら、林に抱かれた生物種の豊かさに感嘆されると思います。

その眼でスギやヒノキの植林を見ると、植林がいかに面白みのない奇形の自然であるかがおわかりいただけるでしょう。

暗い森の中で、たとえ誰も見ていなくても、ヤツラは一筋の光を浴び、祝盃を挙げるのです。