ヨウ素

常温で固体の唯一のハロゲン元素で、元素の中でも数少ない分子結晶です。

すべての元素の中で室温で分子結晶が安定なのは、ヨウ素、砒素、リン、硫黄、セレンぐらいです。

常圧で融解し、放置するとこのような結晶が昇華成長するのを見ることが出来ます。

諸刃の剣のような、光沢の強く美しい結晶です。

(crystallographic params.) orth. Pmca (#64)

表がつるつる、裏が段々の剣状の結晶。

蒸気圧が高いのでさらに放置すると結晶の根元の部分が蒸発し、先端部に昇華します。

これでも単結晶。ひし形の集合体っぽいのが見えます。

刺激性が高く撮影に難儀しますが、なかなか見ごたえある結晶が簡単にできる元素です。

東日本の大震災以後、巷を騒がすヨウ素ですが、一言で「ヨウ素」と言っても、大きく分けて二種類あります。

1.元素としての広義のヨウ素(ヨウ素化合物およびヨウ素単体)

2.単体としてのヨウ素(I2

普通自然界に存在するのは、安定同位元素としてのヨウ素127 で、これには単体も化合物もあります。

ところが、原子炉内部からは、ウランの自発核分裂によって、ヨウ素131 という放射性同位体のヨウ素化合物が出てきます。

その核の半減期は約8日。

この二つの混同がしばしばあり、ウガイ薬を飲もうとしたり、水を沸騰させればヨウ素が抜ける(これは東大グループが間違えた)といったようなデマが飛び交いました。

下はヨウ素化合物の代表。ヨウ化カリウムの結晶です。無色透明の結晶。

非常に安定で毒性も低く、塩(塩化ナトリウム)と類似していますが、重原子であるヨウ素を含むために密度が高く、塊はずっしりとした重みがあります。

塩(塩化ナトリウム)と同じくガンエン型結晶構造を取り、ころっとしたサイコロ状の結晶を作ります。

濃度が高いと骸晶もよくできます。

で、原子炉内から放射性のヨウ素(化合物)が多量に漏洩すると、人体に吸収されると甲状腺に溜まり、そこで分裂して甲状腺の内部被曝を起こし、組織に悪影響を及ぼします。これは、細胞分裂が盛んな若い人ほど顕著に影響が出ます。

それを防ぐために、被曝が予想されたら、それ以前に安定同位体のヨウ素化合物を若干多めに摂取し、体が必要とするヨウ素をすべて安定同位体のヨウ素で補い、入ってくる放射性ヨウ素も希釈しブロックする方法があります。この薬をヨウ素剤といいます。

ここで、ヨウ化カリウムが使われます。投薬のサジ加減は難しいらしいのですが。

同じヨウ素でも単体もあれば化合物もあり、安定同位体もあれば放射性同位体もある、ということです。

ヨウ素は海藻に多く含まれています