セレン

自然セレン@ Anna Mine, Alsdorf, Aachen, North Rhine-Westphalia, Germany

ドイツ、アンナ炭鉱のセレン。

アンナ炭鉱は歴史のある古い炭鉱でしたが1982年に閉山し、巨大なボタ山がいくつか残りました。

このボタ山は地下深くで自然発火燃焼しているらしく、その燃焼ガラや燃焼ガス昇華物にしばしば珍しい鉱物が見つかります。

これはその代表で、単体セレンの結晶がいっぱい母岩の上に昇華生成しています。

こういう半人為的な生成機構ですと、「鉱物」としての定義上、正統なものなのかよくわかりません。

カラミが海水で腐ったとかいうのはどう考えても鉱物じゃないような気がするんですが。

まあ、それはともかく、ここのセレンは世界の代表選手なのです。

ある金属会社が作った、実物が入っているペーパーウェイトです。

セレンは左上、黒々とした光沢の強い塊です。

セレンは多くの同素体がありますが、常温常圧でもっとも安定なものは、三方晶形のものの灰色セレンです。

黒~銀色の金属光沢を示す脆い塊ですが、金属ではありません。

これ、空間群が P3121 ですから、石英とまったく同じ結晶中の対称要素ですね。

石英同様に、原子の配列の三回螺旋構造に基づく左右があります。

これはウィキペディアのものの直リンなんですけど↓

セレン原子が無限の鎖を作って上下に伸びるのですが、このときに三回螺旋軸対称を取ります。

一周期(一巻き)の間に同じポイントが三ヶ所あります。

螺旋は右と左の軸性不斉がありますから、ある結晶では右螺旋のみが集合して結晶を形成し、ある結晶では左螺旋のみが集合する、という具合で左右の結晶ができてきます。

元素単体で、室温で安定な同素体で右と左の鏡像が出来るのは、セレンとテルルぐらいです。

結晶面は六角柱状で、三角頭の錐面の、水晶とよく似た結晶を作ります。

が、水晶で時折見られるような x 面のような鏡像を判定できる面は出現せず、自然セレンの左右を肉眼で判定するのは無理です。

X線で調べてみないとわかりません。

左右判定はX線の異常分散法という方法で判定し、わずかな強度差を元に統計学処理をして判定するのですが、実際の実験はけっこう難しいです。

目でみて左右がわかる石英とか辰砂のような結晶は、むしろ稀な例で、実はかなり貴重な存在です。

灰色セレンは光が当たると電位差を生じ、この光起電力を利用して、入射光量を測定することができます。

写真はエリプソメータという膜圧を測定する装置に使われているセレン受光素子です。