絹雲母

白雲母 (muscovite) KAl2(AlSi3O10)(OH)2

単斜晶系,空間群 C2/m

アメリカ、カリフォルニア州プルーマス.

標本サイズ 2.4 cm.

ケイ酸塩化合物は、無限に連なるケイ酸塩イオンの織りなす骨格の構造によって、その外観や性質に豊かなバラエティが生じる。ケイ酸骨格が2次元のシート状になったものを「フィロケイ酸塩 (phyllosilicate)」という。「フィロ」はギリシア語で「葉のような」という意味をもち、その層状の骨格構造をあらわしているが、物質の外観もその結晶構造を反映していることが多い。フィロケイ酸塩の代表は、雲母(うんも)と呼ばれる鉱物のグループで、これは天然に多く存在し、フッ素金雲母などの合成品も身近に見られる。

雲母は、「千枚剥ぎ」という異名を持ち、一方向に極めて剥がれやすい完全なへき開を示す。これは、ケイ素およびアルミニウムが6個、酸素が6個よりなる共有結合の12員環が、蜂の巣のように並んでシートを形成し、対陽イオンがその層の上下に位置していることによっている。このような一方向のへき開は、黒鉛や硫化モリブデンなどにも顕著だが、雲母のものがもっとも見事であろう。対陽イオンは様々なものが知られていて、それに応じて雲母の名前が変わる。無色のものはカリウムなどのアルカリ金属が多く含まれ、濃色のものは鉄やマンガン、バナジウムを含んでいる。雲母グループは、天然では約 60種が知られているが、そのうち4種は、日本で発見され記載されたものである。

白雲母はへき開方向以外の機械的強度が高く、無色透明で、電気絶縁性が高く、化学的安定性や熱安定性に富むため、しばしば窓材や耐熱材料に用いられる。かつてのロシアでは、大きな天然の白雲母が産出し、窓ガラスの代わりに用いられた。今では石油ストーブの窓は耐熱ガラスを用いることが多いが、昭和40年代ぐらいまでは天然の白雲母を用いていた。テレビの電気回路の中に収められていた三極管真空管の支持絶縁体に、雲母のカット品が用いられていたのは懐かしい思い出である。10センチを超える大きな材は、今でも天然のものを利用することが多い。

白雲母の菱形結晶.

ブラジル、ミナスジェライス州産.

雲母は菱型もしくは六角の結晶になることが多い.

花こう岩地帯を歩くと、しばしば「雲母」という地名を目にする。これは「きら」もしくは「きらら」と読まれることが多い。雲母は風化分解してもへき開片が残りやすく、その形状から河川に流れると水中でキラキラと漂い目立つため、それが地名に残ったのだろう。歌舞伎や演劇の「忠臣蔵」は吉良上野介を仇打つ話であるが、この吉良姓は今の愛知県幡豆郡にあった同地名にもとづく。ここは古くからの雲母の産地で、地名としての雲母(きら)が転用され「吉良」となり、これにちなんだものであるらしい。なお、忠臣蔵では吉良上野介は一貫して悪役とされているが、幡豆地方では地元のヒーローであり、忠臣蔵の放映は評判が悪い。

また、愛知県北設楽郡には粟代鉱山という、均質で微細な白雲母の結晶集合体が採掘されている。これは、「絹雲母(セリサイト)」と呼ばれる緻密で不純物の少ない白雲母で、粟代鉱山は世界の化粧品用絹雲母シェアの約半分を産出している。絹雲母は化粧品のファンデーションに好まれ、二酸化チタンの真っ白とは異なり、へき開による結晶配列と光線の反射により、やや透明な感じのする白である。女性の化粧による美も、結晶の特性をうまく使っているものと言えよう。