金属イオンを含む溶液に、よりイオン化傾向の高い金属を投入したり、あるいは電解還元すると、フラクタル状の金属結晶が成長することがよくあります。これを「金属樹」と言います。
銀樹が代表ですが、最も美しいと思うのは、私はスズ樹だと思うんですね。
濃度設定が難しめで、しかも脆くて取り出すことができないので、その場撮影になります。
錫白色の美しいレースを作ります。
スズは14族、周期表では炭素の下の下の下の金属元素です。
英語では tin(ティン)。結晶構造はいくつもあるんですが、日本の室温では正方晶のβが一番落ち着きがいいです。
つまり、スズのレースは、c 軸だけ全く成長していないフラクタルなんです。
昔はブリキ(鉄板にスズメッキ)や船の船底塗装などによく使われましたが、ブリキの使用量も減り、有機スズは毒性や環境ホルモン様作用を示すために嫌われて、需要はそれほど多くありません。
しかし、液晶や有機EL ディスプレイ電極の ITO(インジウムスズ酸化物)用途など、現在においてもなくてはならない元素の一つ。
マレーシアやボリビアでいっぱい出てきますが、相場ががた落ちして、昔ほどスズ鉱山は流行りません。
日本だと、明延(兵庫)、木浦(大分)、見立(宮崎)などでスズを多く産しました。
奥見立(嘉納)鉱山は、私が中学の時に訪れたときはまだやってましたね。錫石(天然の二酸化スズ)が主力鉱石で、多く含む鉱石を山金(ヤマガネ)というのですが、見立のものはホントに重かったです。小さいものだけ3つほど新聞紙にくるんで、リュックに詰めて山を下りました。
でかい結晶が育ったので引き上げてみます。
レース状の結晶は繊細すぎて、自重にすら耐えることができません。
溶液中で浮力の助けを借りてかろうじて形を保っているだけの、フラクタルなレース。
もうちょっと育てると、引き上げに耐える強度まで育ちますが、ガッシリしてしまい、ちょっと寂しいです。
濃度次第では、レースにならずに薄い薄い板状の結晶になります。
これ、ペラペラで、やはり自分の重さでたわみます。
触ったらぐちゃぐちゃになります。単結晶のスズ箔です。
ここまで育つとやっと (111) 面が見えてきます。エッジを囲んでいる斜面です。
ごつい感じ。
ところが、同じ条件で成長させているにもかかわらず、c軸方向に非常に伸びた針状の結晶もたまに出てきます。
多形ってわけではなく、晶癖なのです。
c軸が全く伸びない板状結晶と、c軸しか伸びない針状結晶が同居し、たまに針状結晶と板状結晶が平行連晶になります。
なぜでしょう?考えてもわかりません。
地下資源としては、スズ石(二酸化スズ)が手に入りやすく、マレーなどでは砂鉱として多量に存在するので、これが利用されます。
下の写真は木浦鉱山(大分県佐伯市)のスズ石。方解石に埋まった先細りの四角柱状結晶です。
木浦鉱山は古くからスズ山として、数百年以上スズを採掘していました。
ボリビアのスズ石です。大きな褐色半透明の結晶が多数見られます。