インディアン・イエロー

インディアン・イエローという顔料がある。正確には「かつてあった」と言ったほうがいいのか。

13世紀以降のベンガル地方で作られていた鮮やかな黄色の顔料で、かなり特殊な製法であった。子牛にマン ゴーの葉だけ食べさせると、マンゴーの葉の成分であるオイキサントン(1,7-ジヒドロキシキサントン)が代謝されて、その配糖体であるオイキサンチン酸が尿に出るため、尿が黄色くなる。

このまっ黄っ黄の尿を加熱することにより、オイキサンチン酸のマグネシウム・カルシウムの塩(固溶体)が沈殿するらしい。これを回収して、丸めて顔料にした。

ただし、この製法では、牛の栄養が偏りすぎ、かつマンゴーの葉にはウルシオールみたいな毒成分が多いため、牛は長生きすることができない。一説には2~4年程度とも言われている。その動物虐待製法が問題になり、ベンガルの政府は、1900年代頭に製造禁止の措置をとり、1920年代には流通禁止になった。

ベンガルの牛にとって幸福だったのは、オイキサンチン酸が難溶性の金属キレートを作らないので染料としてはあまり良いものではなく、水彩および油彩の絵画用の顔料であったことぐらいだろうか。染料として少量使ったこともあるらしいが、堅牢度が不十分だったようだ。黄色染料としてインドで(ターメリックやガンボージの代わりに)多用されたら、子牛が皆殺しになっていたのだろう。