アダマンタン

大気圧で気相成長(昇華)させた、アダマンタンの結晶です。

ダイアモンドの最小構成単位を切り出すと、シクロヘキサン環の3つ縮合したアダマンタン(大昔の論文には congressane とあるんですが、この呼び名はほぼ消失しましたね。)と呼ばれる分子に帰着します。

このものの写真はすごく前に撮影しましたが、きれいな立方晶系(Fd3m) の結晶になります。

この写真は撮りなおしたいなー。有機分子で立方晶系ってのはかなり珍しいのです。

こいつには多くのへんてこな性質があります。-64℃で相の転移を起こし、正方晶になったり(このときに柔軟性結晶に転移する)、C10 の炭化水素のクセに融点が 270℃もあったりとか。

この化合物、1933年に、石油中から初めて単離されたんですが(S. Landa, V. Collect. Czech. Chem. Commun. 1953, 5,1; Dahl, Angew. Chem. Int. Ed., 42, 2040-2044 (2003).)有機合成で段階的に合成したのは Prelog でした。ルイス酸での異性化で簡単にできるよって言い出したのは Pines(H. Pines, J. Am. Chem. Soc., 75, 4775(1953)).

アダマンタンの合成法は出光が特許を持っています。シクロペンタジエンが二量化した 2CpH を接触水素化して3環式の C10 を作り、こいつを強いルイス酸触媒でぐつぐつ煮ると、あら不思議。アダマンタンができるのです。

もう反応機構なんかメチャクチャでしょう。カルボカチオンを中間体としたごった煮反応で、最終的に熱力学的に最も安定な異性体に落ちています。この種の合成法についてはカルボカチオンの大家である Olah が強いです。

二つアダマンタン骨格が縮合したものは diamantane, 3つは triamantane というように、この種の化合物はポリマンタンと呼ばれるようになりました。あるいは diamondoid hydrocarbon ですね。

合成はもはやパズルの域に達しています。

最近になって、天然にもこの種のポリマンタンが存在することが報告されました((Natural occurrence of tetramantane (C22H28), pentamantane (C26H32) and hexamantane (C30H36) in a deep petroleum reservoir. R. Lin, et al., Fuel, 74, 1512-21 (1995).)).

下の図はアダマンタンが4つくっついたテトラマンタンで、3種の異性体のうちのひとつです。

ヘキサマンタン(6個くっついているの)ぐらいは平気で見つかるようで、深度 6800 m の深油田には、こんな成分が混じっているんだそうです。

テトラマンタン以降は多くの異性体が存在しますが、いずれの異性体も天然に存在することが GCMS によりわかっています。

石油が有機的な起源なのか無機的な起源なのかは興味深い問題ですが、それはさておき、地球深部の高温高圧で熱分解、クラッキング、縮合、異性化、脱水素もしくは付加反応のような複雑な変質反応が起こり、このような低分子量ダイアモンドができているのは間違いないようです。

これがつながっていくと、ダイアモンドになるかもしれません。フラスコ中でも起こるかもしれません。

炭化水素の脱水素カップリングにより C(sp3)-C(sp3) の結合を形成する触媒反応と、ルイス酸によってカルボカチオンを経由してダイアモンド構造に炭素原子を並べる触媒反応を系中で同時に起こる反応系を見つけ出してやれば、これが実現できます。

フラスコを撹拌していると、ダイアモンドの結晶がキラキラ落ちてくるってのはいいかも。

ただし、この辺に関しては大沢先生が、「思ったほどうまくはいかない」ってのを実験的に証明してしまいましたけど。