合成エメラルド

1920年代末、一人の若い男の子が、ガレージの片隅で電気炉を駆使して結晶成長をはじめました。彼の名前はキャロル・チャザム。

チャザムは12歳の時にはすでに自宅に実験室をかまえていたそうです。

彼は、現在「フラックス法」と呼ばれる金属複酸化物を融液とした鉱物の人工結晶こそが、天然の鉱物の結晶成長に最も近い条件であると信じました。様々な試行錯誤の末に、ベリリウムとアルミニウムのケイ酸塩であるベリル(緑柱石)の実用的なフラックス組成を神業のようなセンスで見つけ出し、クロムイオンにより着色した合成エメラルドに、世界ではじめてこぎつけたのです。

その後、安定した電源供給が出来るCITに入学し、そこで数々の合成宝石鉱物の結晶成長に関する卓越した研究を行い、当時極端に高いレベルでの結晶成長技術を開発していきます。ルビー、アレキサンドライト、エメラルド等等。 どう考えても天才ですね。

チャザムのエメラルドはこういうものです。結晶成長には1年近くかかっていると言われています。

彼はその後、合成したエメラルドを研磨して市場に流し、市場を大混乱に陥れます。 インクルージョンから、フラックス法による人工結晶だというのに一部の人は気付きました。しかし、誰もそれを追試できる人はいなかったのです。

チャザムは製法を不出にしたため、チャザムのフォロワーが彼の技術に追いつくまでに、ゆうに20年はかかりました。 そのぐらい彼は飛びぬけていたのです。

これが、今となっては誰でも知っている「チャザムのエメラルド」の誕生譚です。 一人の若い男の子が、黙々とガレージで実験をし、天才化学者として宝石市場をひっくり返す。いい話ですね。結晶成長屋の夢であります。