ケイ素

【性質と製法】

単体ケイ素の多結晶。るつぼの中で融解したものを凝固させると、こんな模様のケイ素多結晶ができます。

シリコンバレーからやってきたもの。

多結晶のケイ素。破断面。灰色の緻密な固体です。

慣れると、破断面で微細な多結晶集合体か、粗結晶集合体か、単結晶かを見分けることができます。

こちらは、上記のものよりさらに結晶粒が細かいものです。

半導体グレードの単体ケイ素は、不純物によって特性が変化するため、純度を極端に上げることが必要です。

で、コストが安く純度を上げるためには蒸留がよいので、蒸留できる前駆体に誘導します。

現行の手法では、ケイ素単体からトリクロロシラン HSiCl3 に変換し、これを蒸留精製し、また熱分解して高純度ケイ素を得ます。

上と下の標本は、トリクロロシランを熱分解して生成したもので、表面はこんな感じ。モコモコで、微細な結晶の集合体です。

これをさらに単結晶化して、スライスしてシリコンウェハに持って行きます。

これを融解して、チョクラルスキー法で結晶を引き上げた単結晶の破断面はこんな感じ。

合成のケイ素自形単結晶です。六角板状の結晶ですが、菱形の板状結晶に近いものの集合体です。

【資源】

ケイ素単体用の地下資源としては、二酸化ケイ素(珪石)が唯一の鉱石鉱物です。

下の写真は、山梨県甲府市の山奥で見つけた珪石。ガラスの塊のように見えます。

二酸化ケイ素が自形の結晶を作ったものが水晶です。

【利用】

身の周りで、いくらでも使われています。

ケイ酸およびその塩という形が多いです。ガラス、セラミックス(陶磁器)などなど。

金属ケイ素の半導体的性質を利用して、半導体には多く利用され、「産業のコメ」と表現されるぐらいおなじみ。

こちらは炭化ケイ素結晶。淡緑色の板状の結晶です。

カーボランダムという商品名でおなじみですが、純度を上げたものは適当なバンドギャップから、半導体への応用が盛んに研究されています。

ロシア製の人工水晶です。発振子用にしては丸すぎるので、試作品だと思います。

下の布は、矢島プロセスにより合成された炭化ケイ素繊維の布です。SiCFRP 用ですが、こんなに高い材料は民生には使うことが出来ません。

炭素繊維と違って酸素存在条件でも高熱に耐えるので、宇宙開発とか軍用機とか、お金がいくらかかってもかまわないような利用しかできないかも。

結晶質の石英を融解冷却すると、結晶化せずにガラス化します。石英ガラスといい、化学的安定性と機械的強度に優れ、無色透明であることから、いろいろな分野に利用されていますが、価格が高くて、あまり見ることはないかも。

石英ガラスの細工です。軟化点が高く、細工には発熱量の大きなバーナーが必要です。

ケイ素は、安定なケイ素―炭素結合を作ることができます。

こういった化合物を有機ケイ素化合物といいます。

特に大事なものは、ケイ素―酸素―ケイ素結合を部分構造とした高分子で、「シリコーン (silicone)」と呼ばれることが多いです。

下の写真はシリコーンオイル。(-Si(CH3)2-O)n の繰り返し構造を持った高分子。

高い耐熱性、絶縁性、低い毒性などの様々な利点から、材料としてシリコーンは広く応用されています。

シリコンウェハ上に作られた ROM の拡大です。

ケイ素―ケイ素結合も比較的安定に存在することができます。

こういう金属だけの主鎖をカテネーションというのですが、ケイ素はカテネーションを作ることが出来る数少ない金属元素に分類することができるでしょう。下の写真は、ケイ素で作った正六面体分子、オクタシラキュバンの結晶です。

ツクシです。スギナは多くのケイ素を生体内に取り込んでオパールとして有し、これで強度を稼いでいます。植物にはケイ素を多く使ったものが時たまあり、面白いですよね。

稲の籾殻にも多くのケイ素が含まれています。これも非晶質のオパールで、籾殻から材料用の炭化ケイ素や窒化ケイ素を作る特許があります。

トクサも多くのケイ酸を体内にためこみます。

ケイ酸(二酸化ケイ素)を器官構造体とする生物は多く、代表例は珪藻です。

海綿にも、非晶質のケイ酸を構造材にするものがいて、ガラスカイメンと呼ばれます。

代表は、カイロウドウケツでしょうか。