バリウム

金属バリウム。やや硬く、鋏でかろうじて切れる程度ですが、相当難儀します。

銀白色の金属で、空気中に出すと酸化されて灰色にくすんでしまいます。

代表的な鉱石鉱物は重晶石(天然の硫酸バリウム)で、和名の命名は密度が高く、自形の結晶になりやすいことから。

次のはフランスのものです。

この標本は伊豆で採ったものなんですが、3月11日の地震により、見事に破砕しました(号泣)。

上から目覚まし時計が降ってきたのでした。。。

次は日本の古典鉱物の代表、発盛鉱山(椿鉱山)の毒重石。

成分は単純な炭酸バリウム。斜方晶系。

毒重石(witherite), BaCO3, orth., Pmcn

秋田県山本郡八峰町椿 発盛鉱山(椿鉱山)

東京大学総合研究博物館蔵(登録番号 70097)

標本幅 : 5.0 cm

Nikon Micro Nikkor 60mm F2.8G ED/Nikon D3

表面を細かい重晶石が覆った結晶で、結晶は半透明。風化に弱く、見かける本鉱物のほとんどは、結晶粒こそ大きいものの、光沢があまりありません。

名前の「毒」は、この鉱物の有害性に基づきます。

バリウムは元素毒性があり、大多数の塩を摂取すると中毒します。

例外は重晶石で、これは希酸には溶解せず、硫酸バリウムはほとんど無害なためにレントゲンの造影剤に使われますが、炭酸塩のこの鉱物はそうではなく、胃酸で容易に分解し、塩化バリウムと炭酸ガスに変化します。この塩化バリウムが高い有害性を示し、経口摂取すると中毒します。

毒重石の名はそこから来ています。

発盛鉱山は、秋田県の旧八森の街のど真ん中にあった銀鉱山で、明治中期から末期にかけて大規模に露天掘りした鉱山です。 黒鉱鉱床といわれていますが、諸論あります。大量の重晶石を含む鉱石で、富鉱部にはそれに加えバリウムの炭酸塩鉱物である本鉱物を多く含んで、銀の品位は 0.1-1% 近くあったようです。

毒重石は、日本ではここ以外にはほとんど産することがなく、日本ではかなり珍しい鉱物の部類に入ります。

発盛鉱山は明治末期にはあらかた掘りつくしてしまい、ここの毒重石は、代表的な古典標本として取り扱われることが多いです。 たまーに出現する古い組標本にここの毒重石が入っていることがあります。そういうのは、およそ明治末-大正時代の組標本ですね。

金属バリウムは酸素と速やかに反応するので、真空管の脱酸素剤(ゲッター)として、かつて積極的に用いられたことがあります。

真空管上部の黒銀色がバリウムの鏡で、これが残っている状態は酸素濃度が痕跡量であることが保証されます。