タリウム

【性質と製法】

周期表では横並びで水銀と鉛の間の、１３族の長、タリウムです。

小さなインゴット。とある金属精錬会社が、自社製品の小さなインゴットをいくつかアクリル封入して作ったものです。

色はまさにホンモノのタリウム色。やや明るい鉛色が新鮮なタリウムの色です。

地金が手に入ったので、酸で溶かして電解成長させてみました。

これがまたえらく酸化されやすく、結晶成長しているそばから酸化物＋塩基性酸化物の絶縁膜に覆われ、ホントに厄介。

電解を止めると１０秒で真っ黒になります。

先端部の鉛のような灰色が、本来の金属タリウムの色です。

見た目は鉛にそっくりさん。

もともとタリウムという元素の名前は、炎色反応で出る緑色をもじり、「緑の小枝」を表す thallos から来ています。

電解すると、表面が酸化物で覆われてどんどん樹枝状になり、「緑の小枝」を形成する偶然が起こるってのは面白いかも。

密度が大きく、自重でヘニャヘニャ曲がり、植物のようなヘニャリ感を演出するみたい。

サルオガセ↓ っぽい感じ。

炎色反応は、極めて鮮やかな緑です。

特徴的で、これがまさに命名の由来なんですが、毒性が強いのであまり見たことがある人は多くないと思います。

私がこの文を書いている時点で、ウェブにタリウムの炎色反応のスチル写真はありませんでした。

【資源】

かなりレアな元素で、あまり濃縮して存在しないので、タリウムを主成分として含む鉱物というのは少ないです。

アルサル（マケドニア）で、タリウムや砒素を多く含む硫化物が産出しますが、産状としてはかなり特殊。

鉛亜鉛鉱などの金属鉱石にわずかに含まれているために、普通は鉛などの金属精錬で、電解泥（粗鉛を電解精製する際に、鉛以外の金属成分が沈殿して電解液中にたまった泥）のなかに入ってくるものを回収します。

使い道があまり無いので、嫌われ者の存在ですが。

【利用】

レアメタルって言えば聞こえはいいのですが、あまり利用用途がありません。元素毒性が高すぎるのです。

鉛と水銀とタリウムは、最高周期のツッパリ三人組。特にタリウムはヤサグレています。

その毒性の高さを生かして、塩が殺鼠剤などに用いられた時代もありましたが、事故や事件をたびたび引き起こすので、今は使われることはありません。

古くは、アガサ・クリスティの「蒼ざめた馬」にも出てくる毒薬。

最近では、ボク少女が自分の母親に盛ったなんて猟奇な事件もありましたね。

中毒症状は脱毛と皮膚が赤くなるのが典型です。あっという間にわかるようです。

毛が抜けるのはいやだ！抜けはじめてわかる、髪はナガーイ友達だから！

大昔は脱毛用軟膏にしたそうです。

これだけクセモノですと化学者でも使いづらく、塩が赤外線をよく通過するのを利用して、プリズム材料にするぐらい。

一価のタリウムの生化学的挙動がカリウムと類似しているため、放射性同位体である ²⁰¹Tl を用いて、腫瘍の造影シンチグラムに用いられることがあります。下の写真は左膝に骨肉腫がある患者さんのシンチグラムです。