イボニシで貝紫を染めてみた

伊勢志摩の海女がかつて手拭いにまじないのセーマンドーマンを染めたという、イボニシ (Thais clavigera (Küster, 1858))の貝紫染めをしてみます。反応式をおさらいすると、こうです。

まず、海岸にいっぱいいるイボニシを採ります。

他の貝、特に牡蠣を食べてしまう嫌われ物の貝ですし、小さくて商業価値がないので、わんさかいます。

潮間帯ですね。干潮時に水が引くようなところにも、いっぱい岩にはりついてます。

こいつを採ります。余った分は食べてしまいましょう。

家に持って帰って、金づちで割ってみます。

黄色と黒のラインが鰓下腺なんですが、やっぱりアカニシに比べると小さいですね。

アカニシ1匹分の貝紫原料を採るのに、イボニシ20匹は必要なんじゃないでしょうか。

慣れるとピンポイントで鰓下腺の部分を割って出すことができます。

鰓下腺を破って、黄色い分泌液を楊枝で取り、正絹縮緬に描いてみます。

腺が小さいので、棒を一本描くのに、貝を一匹使う、みたいな感じになります。

陽にあてると、速やかにあの紫色に変化します。

こりゃめんどくさい。割るのがたいへん。

おそらく、伊勢志摩の海女は、アカニシの方がいっぱい貝紫を持っていると知りつつも、染めにはイボニシを使ったのでしょう。

アカニシは売り物になりますしね。(→アカニシによる貝紫染めのページ

イボニシは海岸にいっぱいいるので、誰でも採れるし、食料としての価値はあまり多くありません。

アカニシもそうなんですが、このあたりの貝は、チリアンパープル(6,6'-ジブロモインジゴ)のみならず、青い色素も混じっていて、布に字を書くとその周りに青くにじみます。

おそらく、チリンドキシル(ブロモインドキシル)以外にも、インドキシルが混じっていて、それが二量化して、インジゴやブロモインジゴ成分もできるのでしょう。

それを考えると、三重県水産図解で海女の手拭いのセーマンドーマンが青で描かれていた理由も何となくわかるような気もします。

アカニシの鰓下腺はこんなにでっかいんですもん。ぜんぜん違いますよね。