・情報構造は「伝えたいこと」や語順の成り立ちに関するものであまり正誤を問われることはない
・よって、それ自体は試験での点数に大きく影響するものではない
・中高生に教えても短期的なメリットはあまりない
・ただ、生徒が抱くであろう文法上の疑問のいくつかに答えてくれるものではある
・コミュニケーション要素なので最終的には四技能において自然に英語を解する、操る助けになってくれるかもしれない
・現時点では「なぜこうなっているかを説明する」、つまり「腑に落ちさせる」ためでしかない部分もあるが
・それを求めている生徒も割といるので授業で扱っておくことはそんなに悪くはないだろう
・特に上位ほどこういうものを求めるので大学受験組には教えておきたい
・この手の話の食いつき具合によって大学向きかそうでないかを多少測ることもできるかもしれない
・このタイミングで説明するのは、接続詞(副詞節)が既習なのでそれを例に説明できること、この後に続くSVOOやthere構文でも話題に出せることなどが理由
・情報構造というのは「英文は原則的に『旧情報→新情報』の順に流れる」というもので、これは日本語にもあるのでそこから話をしていくといいだろう。
・「ボブがこの店のケーキ美味しいって言ってたよ」という日本文があるとして、この文は「ボブ」が誰であるかを(話し手は当然として)受け手が知っていれば普通の会話であるが
・受け手にとってボブが未知の人物であった場合は(論旨は伝わるだろうが)受け手は「?」が浮かんだまま話を聞くことになるだろう
・このように、情報は話し手と受け手の間で共有されている場合とされていない場合がある
・共有されているものを「旧情報」、されていないものを「新情報」と呼ぶことがある。特定のフレーズだけで通じる、与えられた情報だけで絞り込める(「私のお父さん」など)、すでに話題に出てきている、目の前にある、などのものが旧情報にあたる
・この意味では、定冠詞は旧情報の、不定冠詞は新情報のアイコンとも言える
・日本語英語を問わず、新情報は相手にとって未知の情報であるため、新情報が先に出てくると受け手にはその意味を推測しなければならないストレスがかかる
・情報は「旧情報→新情報」の順で流すのがコミュニケーション上は望ましい
・前述の例でボブが新情報である場合、「ボブ」を「私の友達」や「私の母の妹の夫の近所に住んでいたナンシーに振られたボブ」のように修飾語を用いて旧情報化することによって話が通じやすくなる
・新情報は相手が知らない(であろう)情報なのでそこが「伝えたいこと」「文のいちばん大事な部分」になることも多い。新情報は旧情報よりも話し手にとって重要であるとも言える
・英語はこの情報構造に対する拘りがおそらく日本語より強く、「何の話かわからない」という状況を嫌うようだ。文の結論である述語(動詞)が主語の直後に来ているのもこのような理由によるものかもしれない
・この時期における情報構造の例
例① 副詞節
When I called Bob, he was sleeping.
Bob was sleeping when I called Bob.
・前者はWhen I called Bobが旧情報であり、he is sleepingが新情報である
・話者は「俺が電話してやった時にボブが何をしていやがったのか」を伝えたいのだということになる
・和訳は「私が電話したとき、ボブは寝ていた」という教科書通りのものになる。
・後者はBob was sleepingが旧情報でwhen I called Bobが新情報になる
・「ボブが寝ていたのはいつであるか」が主題になるだろう。が、この場合は伝えたいことが微妙に分かりづらい
・教科書でWhen節が前にある文が好まれているのはこのような理由からかもしれない
・ほかの副詞節を説明済みであれば、
I didn’t go out because it was raining.「外出しなかった(旧)のは雨が降ってたから(新)だ」
Because(Since) it was raining, I didn’t go out.「雨が降ってた(旧)から外出しなかった(新)」
のようなもののほうが例としてはわかりやすいかもしれない。
・もちろん、中高生レベルでこのような訳し分けを生徒にやらせる必要はない。日本語に必ず反映させなければならない程の強い差異はおそらくない
・前者の訳を書かせたいのなら強調構文を用いたほうがよい(高校生なら)
※since(as)は理由を表す接続詞としては弱くbecauseは強いので、文頭(旧情報)のときはsince節が、文末(新情報)のときはbecause節が好まれる傾向があるとのこと。why疑問文の答えにbecauseが好まれsinceやasがあまり(全く?)使われない理由もこのあたりにある
例② SVOOとSVO(A/M)
He gave her a ring.
He gave a ring to her.
・このSVOOとSVO(A/M)の書換は定番で意味内容にも違いはない
・情報構造の差異によってニュアンスの違いが出る(※)
・OOとO(A/M)の部分に旧情報→新情報という流れが生じるので、前者は「何をあげたか」、後者は「誰にあげたか」というところに力点が置かれる感じになる
・また、既知であるはずの旧情報を尋ねるのは不自然なので、
Who(m) did he give a ring ? / What did he give to her?
という疑問文は不自然になり、
To Whom did he give a ring ? / What did he give her?
というほうが自然になるようだ。
・ただし、中高レベルで正誤はつけがたい
・他にも、
・What did you give her? に対する I gave a book to her. という答え方(新情報のはずの回答部分が先にある)
・I gave her it. という文(旧情報でしかありえないitやthemが後ろにある)
などは不自然とされ、特に後者は高校レベルであれば減点対象になりうる
・一方で、
I gave a book to her.
は同様に代名詞で終わっているが不自然とはされない。これは授与動詞+目的語+to~という構文が情報構造の影響を受けないからだとする説がある。
・このように、情報構造はいかなる時でも適用されるものではない
・拘りすぎると迷走のもとなので生徒がそうならないように気をつけたい
・実際、ニュアンスの違い程度のことなので中学レベルではほぼ気にする必要はなく、高校レベルであっても点数に影響してくるシーンはほぼない
・SVOOの文をitやthemで締めると減点される例は散見される
※それ以外にも違いはある。SVOOはもともと補足情報の副詞句でしかなかったto herがgiveとの結び付きを強めた結果として目的語に格上げ? されてできたという歴史的経緯がある(らしい)
・その結果としてふたつ並んだIOとDOの結びつきも強くなり、IOとDOの間に所有・所属関係が強く意識されるようになった(IO has/gets DO.)
・I gave her a ring.だとShe got a ring.という関係が成立しherがa ringを受け取ったことが示唆されるがI gave a ring to her.だと渡したことは確かでも彼女が受け取らなかった可能性がある、らしい
・後ろにbut she didn't receive it.という文を繋ぐことが許されたり許されなかったりするほどの明確な違いがあると言えるのかどうかは不明。おそらくその文を繋ぐならSVO to her.からの方が自然なのであろうと思われる
・例えばDOがkissの場合は相手が受け取らないと行為が成立しないので授受関係が不明なI gave a kiss to her.は非文であるとのこと
・giveでなくblowを用いて投げキッスにすればto herでもよいのかどうかは不明
例③ There構文
・中学では「There+be動詞+主語+場所」で「~~に…がある、いる」などのように教わる
・高校では主語の後に現在分詞が置かれる「~~が…している」のようなものや動詞がbe以外(appearなど)でありものなども扱う
・どちらの場合も「主語は不特定のもの(限定されないもの)でなければならない」と言われる
・中学では言われないかもしれない
・これはthere構文自体が「新情報で文が始まる唐突さ、不自然さを避けるための構文である」という理由による
・いきなりA bag(不定冠詞つき→新情報)で文を始められてしまうと、受け手には何の話かわからずストレスになる
・そこで特に意味内容を持たないthere(虚辞と言われる)を文頭に置くことで「どこかに何かあるぞ」という話題であることをはっきりさせてコミュニケーションをスムーズにする狙いがある
・日本語訳でも「…が~~にある」よりも「~~に…がある、いる」が好まれるのは新情報の「バッグが」で始まる唐突さを避け、旧情報の「机の上に」などで始めることで自然な日本語にするためと思われる
・これは主語が新情報であるためで、主語が旧情報のYour bag「君のバッグが」であれば不自然さはないため、普通に
Your bag is on the table. 君のバッグが机の上にあるよ。
と言えば済み、there構文は用いられない。
・情報構造はいついかなる時でも機械的に適用できる絶対のルールではない
・常に一番うしろにあるものがもっとも重要なトピックということでもないし、SVOならitで終わる文も普通にある
・本当に強調したいならそこを特に強く読む(一般に新情報は強く読まれる)とか強調構文(It is~that…)を用いるとかの方法がある
・あくまで「そのように聞こえる」というニュアンスの問題であって文法的に正しい正しくないの問題ではない場合もある
・正しい正しくないの問題である場合もある
・時間がなければ教えなくてもよいだろう
・教えた場合も試験して訳し分けや書き分けをさせるようなものではない
・そもそも情報の新旧はコンテクストに依存するので一文だけ切り出して正誤を判断するのには向かない
・中学生には、あくまで他の文法項目を理解するための補助情報として考えて貰えればよいだろう
・ここで情報の新旧について教えた場合は受動態など今後の文法でもそれを絡めた話ができるようになる