英語の助動詞(auxiliary verb)は日本語の助動詞と似た機能もあるが、形態的には大きく異なる。助動詞という字面から「動詞を補助するもの」だと考えてもよいが、auxiliary verbの直訳は「補助動詞」であり、動詞の一種と考えたほうが分かりやすいかもしれない。助動詞ではない「普通の」動詞を本動詞ということがある。
助動詞は原則として単体で述語動詞にはなれず、なにか別の動詞を伴って動詞句を形成する。伴う動詞の形は助動詞によって異なる。
助動詞には文頭に出ることで疑問文を作る・後ろにnotを伴うことで否定文を作るという機能がある。中1のはじめに学ぶ、慣れ親しんだbe動詞や一般動詞の文の方が例外と言えるかもしれない。be動詞の文はbe動詞自身が助動詞の代わりを行い(歴史的にはこちらが先)、一般動詞の文は助動詞のdoが補われる形で疑問文や否定文が作られていたと言える。
助動詞の種類は限られているので、ここで個別に見ていくことにする。
・be
現在分詞を伴って進行形を作る。限定を受ける。
I was eating a hamburger then. 私はその時ハンバーガーを食べていた。(過去進行形)
過去分詞を伴って受動態(「…される」という表現。詳しくはあとで)を作ることもある。
This window was broken by Bob. この窓はボブに割られた。
・do
原形不定詞(※)を伴って強調文を作る。限定を受ける。
また、述語動詞が一般動詞の疑問文や否定文を作る(他の助動詞がないとき)
Do you like music? 音楽はお好き?(疑問文)
Bob doesn’t have any money. ボブは一銭も持っていない。(否定文)
I did do it! それやったよ!(doを強調)
・have
過去分詞を伴って完了形を作る。限定を受ける。
Tom has gone. トムは行ってしまった(完了形の詳細は後の講で扱う)。
be, do, haveの3つを、後述する法助動詞に対して第一助動詞ということがある。本動詞と同じ形をしており、同じように限定を受ける。後に伴う分詞や不定詞は限定を受けないので、それらに変わって主語や時制による限定を受ける役割であるとも言える。これらは現代ではもとの単語の意味が薄れていて機能だけ残っているに近いので、日本語訳には反映されづらい。
※原形不定詞について
英文中や辞書の見出しに登場する動詞の原形(現在形の述語動詞を除く)を不定詞ということがある。この不定というのは「定まらない」ではなく「限定を受けていない(変形していない)」という意味で、動詞の原形を用いることから「to不定詞(あとで)」と区別する意味で原形不定詞と呼ばれる。
限定を受けていないということは時制の概念がないということで、現在にも過去にも属さない、つまり実際にその動作が行われる(た)ことを表さないということである。「動作主(主語)がその動作を行う」という具体的状況を示さずに、例えばrunなら「走る」という概念だけが抜き出されて抽象名詞化されたと見ることもできる(中学生のうちはよくわからなくてもよい)。「走るのは楽しい」「走りに行く」「速く走ることができる」など、実際の動作を伴わなくても「走る」という概念が必要になる文はたくさんあるので、そういうときに必要になる表現だと思ってよい。そういう意味では、同じく限定を受けない現在分詞や過去分詞にもそのような性質がある。
・法助動詞
原形不定詞(または第一助動詞)を伴い、語り手の主観的・客観的な考えによる義務・許可・意思などの心的態度や推量・可能などの判断・認識を表す。限定を受けない。総じて「主観的に/客観的に、語り手はそう思って/考えている」というニュアンスになる。
ここではcan, could, may, might, must, ought to, shall, should, will, would, dare, had better, needの13種類を挙げるが、この数は人によって増減するので「何が法助動詞であるか」にはあまり拘らなくてもよい。いずれにせよ、名詞や動詞などと比べれば数は限られている。
法(mood)とは「形式(モード)」と「心理状態(ムード)」が融合したような意味だと思えばよいが、法助動詞の「法」は後者の趣が強い。法助動詞を含む文は実際に動作が行われることを表さず、語り手の主観的な感情や客観的な判断が込められた表現になる。なお、中学英語で単に「助動詞」と言ったら基本的に法助動詞だと思ってよい。
法助動詞が原形不定詞を伴うというのはわりと大事な意味を持つ(かもしれない)のでそのことについては一度じっくり考えてみてほしい。
Emi can speak French. 絵美はフランス語を話せる。(可能を表す)
主語のEmi(三人称単数)による限定を受けていないことに注意(”cans”のように変形していない)。また、「絵美にはそのようなことが可能である(と語り手が判断している)」というだけで実際に話しているとか話したという事実を表しているわけでもないことにも注意。
次ページから個々の法助動詞について解説する。
(略)