愛媛県のトンボデジタル図鑑

~研究史~

Historical review of the studies of Odonata in Ehime Prefecture

愛媛県のトンボ目に関する研究は、Bartenef (1909)に始まる。

この研究は、日露戦争(1904~1905年)当時、ロシア兵捕虜として松山に収容されていたサポシニコフ兄弟が採集した昆虫標本に基づくものである。当時の捕虜の待遇は良好であったらしく、サポシニコフ兄弟は自由散策制度を利用して1905年5~7月にかけて、松山市内で昆虫採集を行っている。Bartenefにより18種のリストの公表が行われ、カトリヤンマはこの時に新種として発表された。

1950年代に入り、矢野、そして奥村定一により愛媛を含む四国のトンボ相の研究がなされた。奥村(1952)による「四国の蜻蛉類」の中で,愛媛県からは65種記録さた。しかしながらそのリストリスト中には、コサナエ(旧称サナエトンボ)Trigomphus memampus (Selys)、オグマサナエTrigomphus ogumai Asahina、ホソミヤンマ(現在の日本トンボ類には該当種なし)Chlorogomphus suzukii Oguma、アオハダトンボCalopteryx virgo japonica Selys といった4種の疑問種を含む。これらはその後愛媛県からは発見されていないので、除外してもよいと考えられる。

1960~70年代には、楠 博幸、桑田一男により愛媛のトンボ相の調査がおこなわれ、その集大成として1979年に『愛媛県のトンボ』が刊行される。この時点で、79種のトンボが記録されている。 その後、愛媛全域で調査がおこなわれたものとして鵜飼貞行(1986)による『愛媛県産蜻蛉目の分布及び生態に関する研究』があげられる。本研究は愛媛大学農学部昆虫学研究室の修士論文として2年間調査が行われたもので、公表はなされていない。この研究により、愛媛県下から計83種のトンボが記録された。ちなみに、本文献からは楠・桑田(1979)により、幼虫に基づき記録されたホンサナエは除外されている。

1980~90年代には、楠、桑田、菅 晃などによる調査報告がある。2002年には松山市レッドデータブックが、そして2003年には愛媛県レッドデータブックが刊行された。これにともない、愛媛県では23種、松山市では15種のトンボがレッドリストに登録された。

2000年に入り、相次いで愛媛から初記録のトンボが発見される。2001年に西宇和郡保内町(現八幡浜市)からベニイトトンボが発見され、新聞報道されたのを皮切りに、2002年には杉村光俊によりコモンヒメハネビロトンボが、2008年には磯崎 進によりグンバイトンボ、ベニトンボが愛媛より初記録される。2010年には出嶋利明により、四国中央市からミナミヤンマが記録された。なおベニイトトンボについては2008年から2010年まで毎年愛媛県内で新産地が発見されており、これらの記録は武智他,2012で発表された。2012年には県内90種目となるオオルリボシヤンマが発見された(渡部ほか,2013)。また、2008年には久松定智・武智央礼により愛媛県下でハネビロトンボ幼虫の越冬が確認された。南方系である本種は、従来飛来種と考えられていたが、この報告により、愛媛県でも越冬定着していることが示された。

2013年には久松・武智により「愛媛のトンボ図鑑」が出版された。