レッドデータ調査では,定量的調査により減少率を算出し,数字に基づいてランク付けをするという方法が望ましいと考えます.愛媛県でのトンボ目調査方法は,愛知県での手法を参考にしています.すなわち旧市町村を調査区画の単位として,それぞれにどのような種が生息しているかを調査し次の式で絶滅率を算出します.
(絶滅率)=((記録のある市町村数) - (現存する市町村数) ÷ (記録のある市町村数)
現存する市町村数:(A.現存)=1 、(B.現存可能性有)=0.5 、(C.絶滅)=0 と数える
合併後の市町村ではなく合併前の旧市町村を調査単位としているのは,区画を多くして精度を上げるためです.求めた減少率からランク付けをしますが,移動性の高いものや移入の可能性のあるものはランク下げを,不平地のため池など安定な環境に生息しているものや環境省レッドリストに入っているものはランク上げをするという調整を行います.
調査方法は、基本的に、上で述べたとおり、旧市町村を単位とした分布調査に基づきます。ただ、レッドリストの調査は、仕事や研究で行っているわけではありませんので、休日にしか調査はできません。私一人で県内をくまなく回ることは不可能ですので、調査を補う目的で、このホームページではトンボの目撃・採集情報の提供を呼び掛けています。
減少率を算定するには、過去の記録を(出来るだけ)調べることも必要です。残念ながら、愛媛はトンボを調査する人が非常に少なく、過去の記録をまとめた文献は殆どありません。また、過去のデータは、ただ採集を行ったというだけの、調査手法も定量的ではない場合が多いのですが、過去にどのようなものがいたのか、という参考にはなりますので、愛媛のトンボプロジェクトでは、過去100年分の文献調査・県内の研究施設に収蔵される標本調査も行いました。2013年に私と武智君とで出版した「愛媛のトンボ図鑑」は、現在のトンボ相の把握にとどまらず,過去のデータをまとめたものでもあり、今後のレッドデータ改定の際にも基礎となる仕事となりました。
トンボの幼虫のことをヤゴといいますが、実際に見たことがある人はあまり多くないかもしれません。トンボは、幼虫・成虫とも肉食の昆虫で、幼虫の時期を水中で過ごします。成虫になる際、陸上に這い出してきて、脱皮をおこないます。このときに脱ぎ捨てる幼虫時期の殻を、脱皮殻、もしくは羽化殻といいます。本ホームページでは、羽化殻という用語で統一します。
トンボ成虫を観察するのはバードウオッチングのようなもので、慣れれば飛んでいる姿を見ただけで種類だけでなく、雌雄まで判別できるようになります。慣れないうちや、他の種類と紛らわしいものは網で採集します。採集道具について、標本の作り方は、別ページを参照ください。成虫だけでなく、幼虫・羽化殻を採集することも重要です。たとえば、コシボソヤンマやオジロサナエは、成虫はあまり姿を見ませんが、幼虫は大体どこの河川ででも採集されます。また、成虫は出現時期というものがありますが、幼虫は時期を選ばず、冬でも採集が可能です。このように、幼虫・羽化殻を採集するのとしないのとでは、分布を調べる上で格段の差があります。また、とあるため池からオオキトンボの幼虫が採集されたとします。成虫ならば、翅があるので偶然そこに飛んできただけという可能性もあるのですが、幼虫が見つかった、ということは、オオキトンボがこの池に定着しているという証拠にもなります。
ただ、幼虫の種名を調べるのはかなりの知識が必要です。いまは良い図鑑が多数出版されていますので、やる気になれば種名を調べることは可能です。おすすめの図鑑は、こちらをご覧ください。
採集状況などの情報を記録することのは重要です。昆虫を採集した際には、採集ラベルを必ずつけます。採集ラベルには、最低次の3つは記載してください。
採集場所
採集年月日
採集者
緯度経度(出来るだけ)
ラベルは、ケント紙に製図用インクで手書きするか、もしくはパソコンで打ち出したものを用意し、標本と一緒に保管します。ラベルの記載例を以下に示します。
標本は、これら“情報”が付されてこそ、保護や自然科学に利用できます。逆に言えば、これら“情報”がないと、ただの虫の死骸でしかありません。
上で述べた採集場所の記載方法ですが、できるだけ具体的に、第三者が見ても場所を特定できる方法で記載するように心がけてください。例として、“松山市”とだけ書かれてあったラベルがあったとします。その種が稀少種だったとして、のちの人が再発見を試みようとしても、採集場所が特定できません.また,時期もわからず、また、採集者もわからないので直接聞くこともできません。
ラベルにも、緯度経度ならびにメッシュコードの値をつけておくと言う事なしです。そうすれば確実に採集場所を特定でき、なおかつ分布図を作成するなど、より高度な応用が可能となります。これらデータを、エクセルで記録しておきます。
調査地ですが、できるだけピンポイントで記録しておいたほうが便利です。携帯のGPS機能を使ったり、Google Map などで調査の後に緯度経度を記録するようにしましょう。