震災時の電気火災の防止策として、「感震ブレーカー」は効果的であり、政府もその普及を推進している。しかし、感震ブレーカーにはメリットがある反面、デメリットもあるため、電気火災に強い家では、メリットとデメリットを踏まえて設置を考慮する必要がある。
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1.住民が外出中であっても常時使用される観賞魚用ヒーターなどの電熱器具を使用している家庭では、感震ブレーカーの設置が必須と思える
2.感震ブレーカー等の設置の有無に関わらず、地震発生後に自宅から避難する際には、必ずブレーカーを落とすこと。特に停電時に忘れがちである。
3.火災は電気以外にも、ガスや石油でも発生するので、消火器の準備は大切と思える
(1) 電熱器具に可燃物が接触して発火
(2) コードの断線により短絡して発火(特に家屋倒壊時)
[ 詳細は、「震災時の電気火災の発生原因の詳細」参照 ]
電気火災は、油火災と比べて、一気に燃え上がることが少ないので、在宅していれば、煙やにおいに注意することで発火を検出し、消火器などで、初期消火が可能である。
感震ブレーカーとは、大きな地震の揺れを感じた際に自宅内の電源ブレーカーを自動的に落とす装置である。震度5強相当の揺れで動作する。
◇ 感震ブレーカーの種類と特徴
・分電盤内蔵型 (5~8万円)
・分電盤後付け型 (約2万円)
・簡易型 ( 数千円 )
・コンセント型 ( 数千円 )
の4種がある。
「分電盤型の2種」は、遮断までの時間設定が可能。漏電ブレーカーが設置されている場合には、後付け型が設置できる。作動の信頼性が高い。
「簡易型」は、ばねの作動やおもりの落下によりブレーカーを落として、電気を遮断する。地震の直後に遮断される。安価であるが、誤動作があったりする。
「コンセント型」は、コンセントごとに設置する。特定の機器のみを遮断したい場合に適している。
電気火災は、次のようなケースに発生する。
・住人が不在時に地震が起き、電気火災が発生する
・住人は在宅中であったが、家屋が倒壊して消火活動ができない
・住人は在宅中であったが、ブレーカーを落とす余裕がなく、または忘れて避難した結果、避難中に電気火災が発生する。特に、避難時に停電であり、避難中に停電が復旧した時に電気火災が発生するものを「通電火災」と呼ぶ
これを防止するためには、地震発生時に電気を遮断する感震ブレーカーは極めて有効である。
・夜間に地震が起きた場合、ブレーカが落ちて真っ暗になり、床に落下物や割れ物などが散乱している中で避難や家族の安否確認、初期消火などを行うのは危険である。
・いったん切れたブレーカーを戻す作業は、高齢者や子どもには難しい。
・誤動作が起こることがある(「簡易型」の場合)
※1 感震ブレーカーの設置と合わせて、懐中電灯の用意や、停電時に作動する非常灯の併設が推奨されている。しかし、懐中電灯が手近にあるとは限らないし、非常灯は通常照明に比べて視認性が劣り、被災時の状況把握や避難行動がスムーズに進まない。
※2 ゆれを感じてから直ちにブレーカーが落ちるのではなく、3分後に落ちるように設定できる感震ブレーカーもある。これだと、直ちに真っ暗になるのではなく、3分間は余裕がある。しかし、3分間で安否確認や避難の準備、けが人の対応ができなければブレーカーが落ちるので、同様の危険性があるし、 3分の間に、電気火災が発生する可能性もあるので、「3分後」というのが良いか悪いか、難しい。
◇「電熱器具」に可燃物が接触して発火
・地震の揺れにより、通電中の電熱器具が転倒したり、落下したりして、床上の可燃物に接触発火する。また、電熱器具の上に可燃物が落下・接触して発火する。さらに、スイッチが入っていなくても、落下や落下物の衝撃で、電熱器具にスイッチが入る例が複数報告されている。(コンセントを抜いておけば大丈夫)
・電熱器具の例として、電気ストーブが発火原因としては最多。次に、観賞魚用ヒーター。そのほか、電気コンロ、白熱灯、オーブントースター、ドライヤー、など。
◇「短絡 (ショート:電線の+と-がくっついて発熱する)、漏電」による場合
・家屋の配線:家屋が倒壊し、配線が損傷して短絡や漏電した
・電源コード:
地震の揺れによる外⼒により電源コードの被覆及び芯線が損傷した。
地震の揺れによりビデオデッキが落下、その衝撃で電源コードが半断線になる。
[ 具体的な例は、「電気火災の発生事例」参照 ]
① 電熱器具を持たない(もしくは使用時以外は電熱器具のコンセントを抜いている)
② 漏電ブレーカーが設置されており、漏電発生時にはブレーカーが落ちる。
これらを満たせば、「電熱器具」「短絡」「漏電」を原因とした電気火災はほぼ発生しないので感震ブレーカーのメリットは小さくなる。
◇ 地震直後の行動
火の始末をし、家族の安否を確認した後、電気火災に不安がある場合(→ 参照:電気火災に強い家)はブレーカーを落として集合場所に集合する。
◇ 通電再開時の注意点
(感震ブレーカーでブレーカが落ちた場合や、避難するため手動でブレーカーを落とした場合で、ブレーカーを戻して通電を再開する時。また、ブレーカが落ちていない状態で停電が回復して通電を再開した場合も、同様の手順を踏む)
① ガス漏れ等が発生していないことを十分に確認する。ガスの臭い等が感じられる場合には通電操作を行わず、空気の入れ替えを行い、ガスの元栓を閉める。
② 電気器具や電源コード等の安全確認を行い、当面使用しない家電製品についてはコンセントからコードを抜くなどの安全確保を行った後に、ブレーカーを戻して通電を再開する
③ 電気火災は、発熱してから燃え上がるまで時間がかかる場合が多いので、しばらくの間、家中における煙やにおいに注意し、発火がないかをチェックする。
④ 万一の出火に備えて消火器等を準備した上で、通電操作を行う。
といった対応をとることが望ましい。
過去の発火事例に基づけば、家屋が倒壊せず、住人が在宅しており、煙やにおいに注意していれば、大半は初期消火を行なって「ぼや」程度でおさめることができている。
◇ 停電時
停電中は電化製品のスイッチを切り、発熱器具は電源プラグをコンセントから抜く。停電が回復して通電が再開したら、上記①~④で確認する。
(停電復旧に気づくために、一部の安全な機器(例えば一部の照明)は接続していても良い)
◇ 避難時など家を離れる場合
感震ブレーカー等の設置の有無に関わらず、地震発生後に自宅から避難する際には、必ずブレーカーを落とすこと。特に停電時に忘れがちである。
※ ガス機器、石油器具の使用を再開するときは、機器に破損がないこと、油漏れの有無を確認する
阪神淡路大震災や、東日本大震災において、火災原因の半数以上が電気火災と報告されている。しかし、これをもって、他の出火原因を軽視することは危険である。なぜなら、前者は午前6時前、後者は午後3時頃と、食事の支度時間ではなかったこと、また、寒い時期だが多くの家庭がストーブを使う時間ではなかったことが挙げられる。
したがって、冬の午後6時頃であれば、ガスコンロや石油ストーブなど、電気器具以外を原因とした出火が増えるものと考えられ、軽視することはできません。
火災予防として消火器の準備は重要である。
◇ ガスコンロの発火例
ガスメーター(マイコンメーター)は、震度5相当以上の地震の発生時には、安全装置が作動して、ガスを止める。したがって、通常の調理中であっても、ほどなく自動的に火は消えるので、火災になる可能性は少ない。
ただし、天ぷらなどを揚げている時に、地震が起きて鍋が転倒して、火の上に大量の油が流れ込んだことによって、発火した事例がある。したがって、小さな揺れを感じたら、すぐに火を止めること。
※阪神・淡路大震災での出火率は1万件に3件ほど、同様の地震が冬18時に発生した場合に想定される出火率は1千件に1件ほどであり、個々の世帯にとってみれば必ずしも高い値ではない。しかし、被災時に火災が発生すると、特に木造住宅密集地帯においては大惨事となる。そこで、政府や自治体は、家屋倒壊時や住人不在時において、電気火災を回避できる耐震ブレーカーの普及を推進している。
出典:
内閣府ホーム > 内閣府の政策 > 防災情報のページ > 防災対策制度 > 地震・津波対策 > 首都直下地震対策 > 大規模地震時の電気火災の発生抑制に関する検討会 >
大規模地震時の電気火災抑制策の方向性について(参考資料)
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/denkikasaitaisaku/pdf/kasaitaisaku_sanko.pdf
東日本大震災(東京都)の発火源別の出火状況(東京消防庁まとめ) 震度は5弱~5強
◇ 電気ストーブ 9件
・電源を消し忘れた電気ストーブ(安全装置なし)が地震により転倒し、ヒーター部が床⾯に接触し床材に着⽕したもの
・地震により本棚の本類が落下し、電気ストーブ上部のシーソースイッチにあたり誤ってスイッチが⼊って、本類に着⽕したもの
・地震によりタオルや雑誌等が棚⼜は整理箪笥から落下し、使⽤中の「ハロゲンヒータ」のヒーター部に接触し着⽕したもの
・地震により本棚が倒れ、「カーボンヒータ」のプッシュ式スイッチの上に雑誌が落下してスイッチが⼊り、雑誌に着⽕して出⽕したもの
・地震により蓄熱式電気暖房器が外れ床⾯に転倒した。地震により帰宅できないまま、23時からセットしてあったタイマーが作動したことから、転倒し床⾯に接していたヒーター部分が過熱し床⾯に着⽕したもの
◇ 観賞⿂⽤ヒーター 3件
・地震によりスチールフレームの上に置いていた観賞⿂⽤の⽔槽が倒れ、⽔槽内の観賞⿂⽤ヒーターが⾐類上に落下したため、サーモスタット(28℃設定)が機能しなくなり、過熱し⾐類に着⽕したもの
・地震により避難所へ避難する際、電気製品のコンセントを抜いて出⽕防⽌を⾏ったが、鑑賞⿂⽤ヒーターが接続されたまま⽔槽の外に出したため、ヒーター部分が過熱して本体ヒーターの周りにある合成樹脂に着⽕したもの
・余震が続いたので、⽔槽内の鑑賞⿂⽤ヒーターを⽊製棚に置いてブレーカーを切り、帰宅した。翌⽇出勤し、鑑賞⿂⽤ヒーターを⽊製棚に置いたままブレーカーの電源を⼊れたため、ヒーターが過熱して⽊製の棚に着⽕したもの
◇ 電気こんろ 1件
・地震により台所の流し台に置いてあった電気こんろが床⾯に落下し、本体が反転してヒーター部が床⾯に接触し、さらにスイッチが⼊り床⾯を過熱し出⽕したもの
・家具と共に電気コンロが倒れ、家具の下敷きとなる。家⼈がスイッチを切ろうとしたが家具の下敷きのため不可能 (阪神淡路)
・雑誌類の落下物の下敷きになる。家⼈が掃除のためブレーカーを⼊れたところ出⽕した (阪神淡路)
◇ 電気トースター 1件
地震によりトースターのスイッチに、落下物がぶつかって通電状態になったため、ヒーターが過熱し、底板等に溜まっていたパン屑等に着⽕したもの
◇ 白熱灯 2件
点灯中であった⽩熱灯スタンド(安全装置なし)が地震によりベッド上の布団に落下し、⽩熱灯が布団に着⽕したもの
◇ コンセント 1件
地震により熱帯⿂の⽔槽が揺れて、テーブルタップのコンセント部分に⽔槽からこぼれた⽔がかかり、テーブルタップに接続している差込みプラグの両極間においてトラッキングが発⽣して出⽕したもの
◇ 屋内配線 1件
・地震により損傷し倒壊建物の下敷きになった配線に通電したため出⽕
◇ 電源コード 5件 (通電火災)(震度不明)
・地震の揺れによる外⼒により電源コードの被覆及び芯線が損傷し、通電後出⽕した。
・地震の揺れによりビデオデッキが落下、その衝撃で電源コードが半断線になる。通電後出⽕した。
・地震の揺れにより、電源コード取り付け部分の被覆が損傷した。通電後出⽕した。
・ 都心の木造住宅密集地域では、地震による火災が発生すると大規模な延焼につながり、大惨事になります。そのため、火災の発生防止は行政の最重要課題となっており、感震ブレーカーの設置が強く推奨されています。しかし、エステシティでは周囲に畑などの空間が多く、火災時の避難場所が確保されているため、人命への直接的な危険性は比較的低いと考えられます。このため、「電気火災に強い家」であれば、感震ブレーカーの設置は最優先対策とはなりません。
・ちなみに、平時の発火原因は、たばこ、ストーブ、放火、こんろ、コード、だそうです(東京消防庁)
2025. 9. 6