日本人の私達は英語が苦手という意識があります。
本当に日本人は英語が苦手なのか、なぜ日本人は英語が苦手なのか、勉強を続けていればネイティブスピーカーのようになれるのか、等について紹介します。
ある調査によると、世界の他の国と比べて日本人の英語力は低いという結果が出ています。テニスの錦織圭選手など日本人スポーツ選手が英語を話しているのを見ると、オオッとなりますよね。それは、日本人は英語が苦手で話せない、というのを私たちの皆が感じているからだと思います。EF EPI (English Proficiency Index, 英語能力指数)の2021年版調査によると、日本人の英語力は調査112ヶ国中78位で、英語能力が低いとされています。アジア参加国24の中では13位と中位です。アジア上位の国は、シンガポール韓国中国などです。英語力が低いとされているネパール、ベトナムなどの国にも日本は負けています。アジアの他の国よりも日本は経済的に豊かで教育環境も整っているのにもかかわらずこの順位なのですから、日本人の英語力は低いと言えそうです。
出典:EF EPI
では、なぜ日本人は英語が苦手なのでしょうか?考えられる理由を、3つ紹介します。
英語と日本語はかなり異なっている言語
私たちの母語である日本語が、英語とはあまりにもかけ離れているのが英語が苦手な原因の一つだと言われています。最初に英語を学び始めた時、そして学習している今現在でさえ、英文法、つまり英語のルールには私たち日本人は戸惑っているはずです。例えば、三単現のs、aやtheなどの冠詞、名詞の可算不可算、語順、などです。日本語では疑問文を作るときには、助詞の「か」をつけるだけです。「これはペンです。」に「か」を付けて、「これはペンですか?」で疑問文は簡単に作れてしまいます。一方、英語ではbe動詞の場合は語順が入れ替わるという事が起きます。This is a pen. の文の中のbe動詞を見つけて、Is this a pen?とbe動詞を文の一番前に持ってこなければなりません。質問するときに語順を入れ替えることは、日本人には不慣れなことですから、当然身につけるまで時間がかかります。
一方、ヨーロッパの人たちが英語が得意なのは、彼らの母語が、英語とかなり似ている言語だからと言われています。例えば、オランダ語で「あれはなんですか?」はWat is dat? と言うそうです。英語のWhat is that?と語順的にも表現的にもかなり似ていますね。日本人ならwhatなどの疑問詞を覚えるのに苦労し、疑問文でbe動詞が前に出てくる語順を覚えるのに苦労するところを、すんなりとオランダ語話者は覚えられるように思えてしまいます。例えるなら、英語がりんごだとするとオランダ語は梨です。同じ果物でとても似ています。一方、日本語はおにぎりです。果物ですら無い感じでしょうか。
他にも英語と日本語で異なる点をあげたらきりがありません。これほどまで日本語と異なっている英語ですから、日本人が身につけるのはかなり大変なことだということが分かります。
英語がペラペラになるのは、かなり難しい目標
私たちの置かれている環境に対して、英語がペラペラになるという目標は無謀なほど高すぎるのです。小学校中学校高校大学を通じて10年以上英語の授業を受けても、授業はせいぜい一日1時間や長くても2時間程度でしかありません。一日1時間程が週4回程度の学習時間で、不自由なくなるまで英語に熟練しようというのはそもそもかなり無謀な話です。
英語は習ってすぐに使えるようになることはありません。例えば、英語を勉強し始めしばらくすると「三単現のs」を習い定期テストにすぐに出題されます。しかし、「三単現のs」が完璧に使えるようになるのは、だいぶ時間が経ってからです。中学1年生で習ったとしたら、2年生あるいは3年生になってようやく意識せずに使えるようになる程度です。三単現のsが身につくまで、何度も間違えて、その失敗に気付いたり訂正してもらったりして練習する必要があります。
文法以外に関しても同様です。英単語を授業で習ったからといって、それをすぐに会話で使えるようにはなりません。例えば、「近所」を意味する英単語neighborhoodを習ったとしても、neighborhoodと一緒に使う前置詞を知らなければ、「近所にある公園」と正しく言うことはできません。話す場面では「近所」と言いたいときにすぐにneighborhoodが出てくるように何度も練習しなければなりません。また、その英単語が日本語の「近所」と完璧に同じ使われ方をするとは限りません。例えば、日本語的に考えると、「近所の人」を表すにはneighborhood peopleと言えばよさそうですが(peopleは「人」を意味する)、実際はこう言う言い方はあまりされず、neighborと言う方が自然です。英単語ひとつとっても、その使い方に熟練するには多くの情報を知っていなければならず、そのためには時間をかけて多くの英語に触れる必要があります。
英語がペラペラになるための時間は、学校の授業の時間程度では不十分なのです。しかし、学校教育の中で、授業で英語を習うことでどの程度まで英語を使えるようになると期待できるのか、などの話は一切されません。教科書に出てくるようなアメリカ英語の発音で文法間違いのない英語が話せたり書いたりできるようになるのを暗黙的な目標として授業は進んでいきます。無謀な目標設定での学習の結果、成果が上がらないことは当然のように思えます。
単語や文法をいくら覚えても、話す/書く/読む/聞く練習をしなければ英語ができるようにはならない
いくら単語を覚えて文法をマスターしても、その単語や英文法を使って話す/書く/読む/聞く練習をしていないと、何もできるようにはならないのです。なぜなら、話す/書く/読む/聞く力は、鍛えなければ伸ばせない技術だからです。英語を勉強するとなると単語や文法を覚えるばかりにになりがちです。また文法を覚える目的のために、英文を読んだり書いたりといった文法中心の学習になりがちです。これが英語が上達しない原因なのです。
スポーツに例えて説明します。スポーツで技術を上達するにはどうしたらいいでしょう?練習することですよね。ボールを打ったり身体を動かしたり、実際にやってみないことには、技術は上手くなりません。技術は、ラケットの面をどのくらい寝かせるとか、意識をどこに向けるかとか、足の開き方とか、力をどのタイミングで入れるかなど、コツとして指導者に教えて貰うことは出来ます。しかし、教えてもらったからといってすぐに出来るとは限りません。例えば、「手よりも先に足を動かし、身体の前でボールを捉える」と教えてもらったコツを言葉として頭で理解しても、身体を思い通りに動かせるようにならなければ実践できません。何度も繰り返し身体を動かして練習することで、ようやくコツを感覚として身につけ反射的にできるようになるのです。練習の中で、失敗や修正を繰り返す経験を経てようやく身につきます。技術とは、身体で身につける感覚的なものであることは、部活動などでスポーツをしたことがある人なら理解できるのではないでしょうか。
英単語や文法を知っていても、必要な場面ですぐに英単語が思い浮かび正しく言えたり文法表現が使えるとは限りません。話す/書く/読む/聞く力は鍛えなければできない技術です。知っていることとできることは違うのです。
99%無理です。高過ぎる無謀な目標です。
日本で生まれ日本で育ち、小さい頃から日本語が周りで話されている環境で育った人は、小学校高学年からようやく英語を学習し始めてもネイティブスピーカーのようにはまずなれません。英語の能力が日本語の能力を上回ることはまずありません。
母語を習得した時間よりも多くの時間を英語学習にかけられることはできないですし、脳がまだ未発達な幼児段階よりも思春期以降に新しく言語を学習し始めた場合は、脳の分化の問題で習得に差が出ると言われています。
日本人だから、どんなに頑張っても日本語の影響による発音の訛りは残るし、知らない英単語にはいつまで経っても出会うし、いつまで経っても何かしらの英文法間違いをする可能性があるのです。完璧に英語が使えるようになるのは諦めた方が現実的です。
私達の現実的な英語学習の目標は自律した学習者になること
ではどうするのか?目標を現実的なものにすることです。ネイティブスピーカーにはなれなくても、発音や文法や表現などを気をつけて鍛えていけば、ネイティブスピーカーのそれに近づくことはできます。そして、文法や英単語の知識が増えて読んだり聞いたり話したり書いたりする技術が付いてくれば、先生などの力を借りなくても、自分の目標に応じて辞書やツールなどを使って自分自身で英語の力を伸ばしていくことができるようになります。これが自律した学習者です。
そして、多少の間違えは許容し、不完全な自分を受け入れることです。知らない英単語が出てきても仕方ない覚えて次から理解できるようにすれば良いのです。間違えて笑われて恥をかいた、ということが誰しもあると思います。しかし、母語でも間違えることはあるのです。外国語を使用する中での間違いは仕方の無いことなのですから、笑うことの方が間違っているのです。間違いを笑ったりバカにしたりする人がいたら、そんな人と関わってもあなたが損をするだけですから、関わらないようにすればいいのです。