会話では、書き言葉とは異なる語順や文の作り方が頻繁に使われます。その結果、一見すると文法的に誤りのように見える表現になることもあります。英語を話す時に正しい文法を気にしすぎてなかなか話すのが苦手な方は、この現象を知っていると英語を話す時に少し気持ちが楽になるかもしれません。
書き言葉の教科書を読んでいるだけではなかなか出会わない、話し言葉で頻繁に起こる表現があります。
例:
かわいいね、あの猫。
日本語を話していて「かわいいね、あの猫」のような言い方をすることがあるでしょう。これは、「かわいい」という感情が先に頭に浮かんだため、自然と文の最初に出てきたのだと考えられます。実は、英語の会話でもこのような言い方はよくします。話し手にとって重要なことや、強調したいことを最初に言おうとするためです。
例:
Cute, those cats are.
かわいいね、あの猫。
実は英語でも「かわいいね(cute)」を最初に言うことがあります。「話し手が何を強調したいか」「文の焦点をどこに置きたいか」によって、英語でも語順が柔軟になります。特に会話では、話している途中で気持ちや内容の流れが変わることがあるため、重要な語を先に言うことがよく起こります。これは、間違いではなく、英語でも自然な表現です。
語順を入れ替えるパターンと入れ替えた要素の代わりに代名詞を補うパターンがあります。
語順を入れ替えるパターン
重要な語や強調したい語を初めに言うことで、語順が入れ替わります。
例:
Cute, those cats are.
かわいいねあの猫
Very helpful, your advice was.
本当に助かったよ、君のアドバイスは。
Delicious, this cake is!
おいしいね、このケーキ!
A great idea, that is.
いいアイデアだね、それは。
Wrong answers, they are.
間違いだよ、これは。
ここでは【主語+be動詞+形容詞(SVC)】の語順が【形容詞+主語+be動詞(CSV)】になっています。
例:
This picture, I painted.
このイラストは私が描いたんだ。
That movie, I really enjoyed.
あの映画、すごく楽しめたよ。
This problem, I can't solve easily.
この問題、簡単には解けないな。
The travel plan, we made together.
旅行日程を一緒に作ったよ。
How she managed it, nobody knows.
彼女がそれをどうやったのか、誰も知らない。
Why she was angry they didn’t know.
なぜ彼女が怒っていたのか、彼らは知らなかった。
How to get to the castle we explained to the foreign traveler.
城への行き方を私たちは外国人旅行者へ説明したんだ。
ここでは【主語+動詞+名詞(SVO)】の語順が入れ替わり【名詞+主語+動詞(OSV)】になっています。
入れ替え+代名詞を補うパターン
要素がひっくり返るだけではありません。「あの人、私の弟だよ」のような言い方も英語では会話で起こります。この時は話題にしたい要素が文の最初に置かれます。その後、足りなくなった要素が代名詞(he she they など)で補われ文が続きます。
例:
That boy, he is my brother.
あの人、私の弟だよ。
Your teacher, is she from Okinawa?
あなたの先生って、沖縄の方ですっけ?
My friend John, he just moved to Tokyo.
友達のジョンはね、東京へ引っ越したんだ。
That restaurant, is it still open?
あのレストラン、まだ開いてる?
My neighbor, she keeps playing the piano late at night.
うちの隣人なんだけどさ、夜遅くまでピアノを弾いてるんだよね。
His older brother, I play on the same baseball team as him.
彼のお兄さんといえば、私は一緒にチームで野球をやってるよ。
この時の文の作り方は
1.「◯◯だけど」と話題を文頭に出す
2.前に出した要素を代名詞で置き換える。
となっています。
英語を話す時、教科書の書き言葉の表現に従って話そうとしていませんか。
例えば「あなたの先生は沖縄の方ですか」と英語で言いたい時に、「Your teacher」から言い始めて、間違えたと思って言い直すことはありませんか。ですが、会話の表現では「Your teacher, is she from Okinawa?」のように語順が入れ替わることは、自然な会話表現の一つであり、決して間違いではありません。
日本語のような語順になっても実は問題ない、ということを知っているだけで、話す時に少し気持ちが楽になると思います。
目的語や補語など、文の要素を強調するために前に出す現象をfronting(前方移動)と言います。
文の要素が文頭に出されて、その要素が元々あった場所に代名詞が置かれる現象をleft dislocation(左方転移)と言います。