恩田陸はエリントンファンに違いない。
そう確信したのは、恩田陸が『黒と茶の幻想』という作品を発表した時だった(2002年)。
……それ、ちょっと短絡的でしょ。
タイトルこそ「黒と茶の幻想」(Black and Tan Fantasy)だけど、
これってエリントンの代表曲の1つなんだから、
ちょっとジャズが好きな人なら知っていておかしくない名前じゃないの?
だったら、別にエリントンのファンでなくても、
このタイトルを自分の作品の題名に気を利かせて使ってみようと考えただけじゃないの? …
そんな反論が聞こえてきそうだ。
だが、恩田陸がエリントンファンであることを管理人が「確信」したのには、
他にいくつか理由がある。
まず、『黒と茶の幻想』の前に、『木曜組曲』という作品を発表していること(1999年)。
『木曜組曲』は映画化された。
「木曜組曲(Suite Thursday)」は、「ジャズ好き」ではなく、
「エリントン好き」でないと知らない組曲だろう。
スタジオ録音では『Three suites』(邦題『三大組曲』)に収録されているけど、
アルバムタイトルにもなってないし、エリントンに特別の興味がなければわざわざ使おうとも思わないだろう。
ちなみに、「木曜組曲」の演奏は、
このサイトで何度も言及している『The Great Paris Concert』(いわゆる「パリコン」です)に収録されているものが素晴らしい。
(ちなみにこの「木曜組曲」という題名は、スタインベックの小説『Sweet Thursday』(『楽しい木曜日』)から借用したものなんだけど、これについては「パリコン」のところを参照)。
あと、恩田陸自身も学生時代に早稲田のハイソサエティ・オーケストラに所属していて、asを吹いていたこと。
「モダンジャズ研究会」でなく、「ハイソ」であることが重要。
早稲田のハイソサエティオーケストラといえば、
泣く子も黙る名門学生ビッグバンドで、多くのプロミュージシャンを輩出するサークル。
学生ビッグバンド界はもちろん、
プロの世界でも有名なこのオーケストラのレパートリーは、
コンテンポラリーな難曲がウリ。
こういうサークルの方向性に抵抗して、
若き恩田陸はあえてエリントンを聴く、というスタンスを選択したのではないか、と。
そのスタンスは、エンターテイメントでありながら、
『三月は深き紅の淵を』、『麦の海に沈む果実』、『黒と茶の幻想』、『黄昏の百合の骨』という、
一連のポストモダン的な構造になっている作品を書き続けている恩田陸のある意味で「抵抗した」スタンスと重なるところがあるだろう。
『黒と茶の幻想』と『木曜組曲』のほか、
「茶色の小壜」「クレオパトラの夢」「朝日のようにさわやかに」「あなたと夜と音楽と」なんて作品を発表していることから、
とりあえず、ジャズファンであることは間違いないだろう。
…以上はすべて管理人の単なる思いつき。
「こうだったら面白いんだけどな~」程度の推測です。
今後の作品に注目、というか、恩田陸ファンの方、ご教示お願いします。