『女王組曲』の美に触れて、時が止まってしまったあなた!
おめでとうございます!
あなたには、エリントンの音楽の美しさを愛でる才能があります!
エリントン・ミュージックの肝は和音の美しさにあり。
『女王組曲』にグッときたあなたは、
エリントンオケのサウンド、ハーモニーをもっと聴いてみたいと思ったはずです!
エリントンの音楽はしばしば「変態的」と表現されますが、
変態も極めれば芸術になる、というのを身をもって示したのがエリントンである、ともいえます。
しかしそもそも、芸術まで高められた変態性というのは形容矛盾的な表現であって、
芸術の新分野・新手法は、個人的な変態性を追求することによって生まれる、という面もあると思います。
その意味で、芸術の歴史は変態の歴史だ。
ここでは、そんな「変態的な」エリントン・サウンドや組曲ものを紹介します。
・...and his mother called him Bill, '(67, 8/28, 30, 9/1, 11/16, Bluebird/RCA)
原タイトルの「...and his mother called him Bill」もいいですが、
意訳気味の邦タイトルも直球で捨てがたいです。
形式は、至って普通の4ビートのビッグバンド・ジャズ、
ストレイホーン・ソングブック。
しかし、この作品にはエリントンの魔法がかかっています。
1967年5月31日、エリントンの片腕、音楽的分身(実は本身?)である
ビリー・ストレイホーンが亡くなりました。
エリントンがストレイホーンの死後半年かけて綴った哀悼の記録。
それがこの作品です。
管理人はこの音楽を聴くたび、哀しみと美しさがからみあい、複雑な感情に襲われます。
自分が哀しんでいるのか、美しい音楽の体験を愛しているのかわからない。
そうか、人の死を悼むとはこういうことだったのか。
まさに芸術にまで高められたブルース。
エリントン全作品の中で、これをベストに選ぶ人も多い。
前年にグラミー賞も受賞し、絶頂の60年代前半を走り抜けたエリントン。
だが、そのオーケストラの内実は疲弊が始まっており、レイ・ナンス、サム・ウッドヤードがオーケストラを去り、
55年体制に綻びが見え始めていました。
そんな折のストレイホーンの死は、象徴的な意味でも、現実的な意味でも、
この体制の終わりを告げる出来事だったといえる。
以後、エリントンはピカソの晩年のような創造性を発揮することになります。
『極東組曲』で再びグラミー賞を受賞し、その翌年、この作品でまたグラミー賞を受賞する。
晩年、エリントンはワールドミュージックに「再帰」し、
『Afro-Eurasian Ecripse』『New-Orleans Suite』などの作品を生み出すのですが、
それは「ワールドミュージック」の項目で。
この作品は、「55年体制の完成形」という意味で、
未だ解き明かされてないエリントン書法、その到達点がここにあるといえるでしょう。
当時のサックス・セクションによるハーモニーは、大げさでなく世界最高峰。
そしてオーケストラのアンサンブル。
たった1本のクラリネットによって、なぜこうまでサウンドが変化するのか。
変態的なアイデアに満ちた、聴くたびに新たな発見のある1枚。
ミュージシャン、特に作曲家がエリントンを絶賛するのもわかります。
なお、ストレイホーン作品集といっても、
「A列車」や「Chelsea Bridge」「Lush Life」といった超有名曲は選ばれていません。
「ストレイホーンの紹介」という意図も汲み取れる選曲には、
エリントンの自責の念が込められているのではないでしょうか。
濃密なエリントン・サウンドの充溢。
エリントン・ミュージックの和音の美しさを堪能できる一枚です。
蛇足ながら、ビル・エヴァンスの同名タイトルと間違えないように。
しかし、誰が付けたんでしょうか? このタイトル。
…さて、組曲ものの紹介に入りましょう。
・『Such Sweet Thunder』 ('56, 8/7 - '57,5/3, Columbia)
「青いイナズマ」ならぬ「甘い稲妻」。
カナダのオンタリオ州、ストラトフォードで毎年行われる「シェイクスピア・フェスティバル」のために書かれた組曲で、
収録曲は『マクベス』『オセロー』『ハムレット』『ヘンリー五世』など、シェクスピアの作品に着想を得た12曲。
55年体制が完成し、56年のニューポートで電撃的なリバイバルを引き起こした時期の作品です。
この時期、エリントンは多忙を極めていたため、この作品のほとんどの部分はストレイホーンの筆によるところが大きいと考えられます
(その証拠に、作曲者のクレジットはすべて「Ellington, Strayhorn」)。
そのため、数ある組曲の中でも、特にストレイホーン臭濃厚な、気品漂う作品に仕上がっています。
ストレイホーンが自分の趣味に走った作品と言ってよいでしょう。
ブルージーなタイトル曲、諧謔に満ちた「Sonnet to Hanq Cinq」など曲想は実に多様ですが、
特筆すべきは『ロミオとジュリエット』にインスパイアされた「The Star-Crossed Lovers」!
ホッジスのためのこのスロー・バラードは人気曲で、以後も好んでライブで演奏されました
(エリントン・オケの演奏ではありませんが、村上春樹の小説でも象徴的に使われてましたね)。
アルバム・タイトル曲でもある「such sweet thunder」は「夏の夜の夢」の一節から。
原文では「森に響き渡る猟犬の吠え声」を指しているのですが、エリントン・ミュージックの暗喩とも受け取れる、秀逸なタイトルです
(タイトルの詳しい解題は → こちら )。
また、後年この組曲のほかに「Timon of Athens」という、「アテネのタイモン」に寄せた曲も録音しています
(これはシェイクスピアの原タイトルそのままですね)。
シェイクスピア解釈として、中には「?」と感じられる曲もあるかもしれませんが、
そのまま舞台音楽として通用するような曲も多々あることでしょう。
このように、諸題材のエリントンによる解釈・スケッチについて、
深読みしたり、そして時には懐疑的になることも
エリントン・ミュージックを聴く楽しみの一つです。
エリントン・サウンドへのストレイホーンの貢献度、エリントンの組曲の面白さが楽しめる1枚。
・ELLINGTON INDIGOS, '58, Columbia
なお、このときのセッションをすべて収録した、
THE COMPLETE ELLINGTON INDIGOS
もありますが、
それは後の楽しみにとっておきましょう。
とりあえずは通常版で十分。
21世紀になってからの再発のCDはジャケットもよいです。
というか、前のジャケットはひどかった・・・。
エリントンのアップなのは仕方がないとしても、
音楽の内容とジャケットが全然合ってない!
・Black, Brown and Beige, 44-46
(1944-46)
・Latin American Suite
・New Oreleans Suite
Three Suites
Sacred Concerts