スティーヴィー・ワンダー
(Stevland Hardaway Morris / May 13, 1950 ~)
今でこそ「キリン「FIRE」のおじさん」だが、
70年代のスティーヴィー・ワンダーはすごかった。
なにしろ、出すアルバムがすべて名盤。
残念ながら76年生まれの管理人は同時代体験できなかったが、
70年代の作品を並べてみると、当時の人々がどれほど衝撃を受けたかがわかる。
『心の詞 (Music of Mind)』(1972年)、『トーキング・ブック (Talking Book)』(1972年)、
『インナーヴィジョンズ (Innnervisons)』(1973年)、
『ファースト・フィナーレ (Fulfillingness' First Finale)』(1974年)、
『キー・オブ・ライフ (Songs in the Key of Life)』(1976年) …
……神がかってる、とはこのことだ。
スティーヴィー・ワンダーは1950年生まれなので、これらはすべて20代の作品!
中でも、CD2枚組のボリュームの『キー・オブ・ライフ』の衝撃はすごかったんじゃないかと思う。
音楽ファンのバイブル的映画、『ハイ・フィデリティ』で、
「全盛期後の作品でミュージシャンを評価するのは酷か?」というような話題で、
90年代のスティーヴィー・ワンダーが挙げられてたような気がするけど、
これもあまりにも70年代のスティーヴィー・ワンダーが素晴らしかったからこそ、なのだろう。
その証拠に、この映画のエンディングに流れる曲には
『トーキング・ブック』の「I Believe」が使われている。
このあたり、ちょっと屈折したファン心理が現れているところだ。
さて、スティーヴィー・ワンダーの素晴らしさについては
多くの人が多くのことを述べているので、
あえてこのサイトでクドクド触れるつもりはない。
このサイトでスティーヴィー・ワンダーの項目をつくったのは、
上掲の『キー・オブ・ライフ』にエリントン・トリビュート曲、
タイトルもズバリそのままの「愛するデューク (Sir Duke)」が収録されているから。
Songs in the Key of Life, 1976
Sir Dukeが収録されていることを抜きにしても名盤。
まさに全盛期スティーヴィーを代表する、素晴らしい内容。
「Sir Duke」は翌1977年にはがシングル・カットされ、これも大ヒットした。
(オリジナル盤) (邦盤)
オリジナル盤と邦盤で、顔が向き合いになるのが面白い。
この曲、歌詞の内容は「音楽賛歌」的なもので、エリントンだけを賛美するものではないが、
ジャズ・ミュージシャンを並べ、彼らのキングとしてエリントンを称えている
(ちなみに、これらの中にグレン・ミラーの名が挙げられているのは少し意外な気がするが、
ここはアメリカのダンス・ミュージックの歴史におけるスイング・ジャズの重要性を喚起する一節でもある)。
この歌詞ではエリントンという名前を使っているだけ、だけど、
スティーヴィー・ワンダーがエリントンが受けた影響は、大きく2つあると思う。
一つは、エリントンが自分の音楽でお金をもらう(そして成功する)黒人、というモデルを創り上げたこと。
もっとも、これはエリントンだけに限らないし、
この意味でエリントンから影響を受けたのもスティーヴィー・ワンダーだけではない。
しかし、音楽界のセレブのアフロ・アメリカンとして一番に名前が上がるのはエリントンであり、
モータウンから自作のプロデュース権を奪い取り、創作の独立権の獲得に熱心だったスティーヴィーにとっては、
自分のオーケストラを所有し、誰にも邪魔されずに自分の音楽を創作し続けたエリントンは、
理想的な先行者だったに違いない。
もう一つは、これは音楽的な面になるが、
エリントンの音楽には独特の「サウンド」があったこと。
これは、楽理面の話(例えば、エリントンはコンディミ(combination of diminished scale)の構成音を
いわゆる「ブルーノート」と拡大解釈して和音をつくっていた、というような話)だけではなく、
各プレイヤーの楽器の「音色」の混ぜあわせによるサウンドのことである。
エリントニアン達はその音色も個性的だ。
初めて聴くときはその過剰なエロさに笑ってしまうようなホッジスのアルト、
いわゆる「トランペットのいい音」とされる音とは正反対の「くぐもった音」で、
とぎれとぎれのフレーズをしぼり出すクーティのトランペットは、
他の誰にも真似できないものだ(というか真似しようとはしない)。
このような、特定のプレイヤーに特定のフレーズを演奏させる音楽をエリントンは書き続けたわけだが、
あたり前のことだが、これはそこに音楽的必然性があったから。
スティーヴィー・ワンダーがエリントンから受けた影響は、
この「音色」が「フレーズ」または「曲全体」に及ぼす力ではないか。
例えば、『キー・オブ・ライフ』で言うと、
「可愛いアイシャ (Isn't She Lovely)」で自由にはしゃぐソロは、
ブルースハープ(ハーモニカ)以外の楽器だとまるで表情が変わってしまうし
エボニー・アイズのシンセ・ベースのユーモアのおかげで、
この名作の感動を引きずらずに日常生活に戻れるのではないか。
また、『トーキング・ブック』が素晴らしいのは、其のオープニングから
「You Are The Sunshine Of My Life」のあの少しひずんだエレピのイントロで
一気に官能的な気分にさせられてしまうからではないか。
そう考えてみると、スティーヴィーがシンセサイザーにこだわり、
この楽器を駆使して自分の音楽を創り続けた理由もみえてくる。
シンセサイザーという楽器は、
「他人に依存せずに音楽を創ること」と、
「自分の望む音色を創り出すこと」を可能にする、
まさしく魔法のような楽器だったに違いない。
以上がスティーヴィー・ワンダーがエリントンから受けた影響に関する管理人の考え。
ところで、少し考えてみると、「Sir Duke」というのは不思議な言葉だ。
字義通り考えると、
Sirは「卿」(ナイト)、Dukeは「公爵(大公)」の爵位を表しているわけで、
Sir Dukeというのは本来ありえない敬称のはず。
おそらく、そこらへんの面白さを狙ってのことだろう、同名のタイトルをいくつか目にする。
(2001)
ビル・ウェア&マーク・リーボーによるエリントン曲集で、
編成・人選からの予想よりもオーソドックスなエリントントリビュートアルバム。
詳しくは「06 トリビュート関係」で。
Sir Dukeというタイトルは、エリントン自身の音源にも付けられている。
少し細かい話だが、参考までに挙げておこう。
(1940-1942)
なんのことはない、これの中身はBlanton-Webster Bandの3枚組。
(1946, 7/6)
同じく3枚組だが、1946年のセッション集。
(1946, 10/23-12/25)
こちらも同じ1946年の演奏で、CDは1枚。
ジャケットはThe Feeling of Jazzと同じ。
これらのCD、発売されたのはいずれもスティーヴィー・ワンダーの後だから、
タイトルの元ネタはスティーヴィー・ワンダーだと思うけど、どうだろう。
最後に蛇足をひとつだけ。
先日、偶然に以下の画像をネットで発見した。
シチュエーションといい、満面の笑顔といい、
若い頃のエリントンにソックリだ!
エリントンにも同じような写真がある。
女の子の数こそ負けてるものの、その表情、指使いなどの変態性ではエリントンの圧勝だ。
「Sir Duke」 歌詞
Music is a world within itself
With a language we all understand
With an equal opportunity
For all to sing, dance and clap their hands
But just because a record has a groove
Don't make it in the groove
But you can tell right away at letter A
When the people start to move
They can feel it all over
They can feel it all over people
They can feel it all over
They can feel it all over people
Music knows it is and always will
Be one of the things that life just won't quit
But here are some of music's pioneers
That time will not allow us to forget
For there's Basie, Miller, Sachimo
And the king of all Sir Duke
And with a voice like Ella's ringing out
There's no way the band can lose
You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
I can feel it all over-all over now people
Can't you feel it all over
Come on let's feel it all over people
You can feel it all over
Everybody-all over people