ビリー・ストレイホーン
William Thomas "Billy" Strayhorn (November 29, 1915 – May 31, 1967)
・「Lush Life」問題
エリントンは1933年にピッツバーグで公演を行った。
そのときがストレイホーンのエリントン初体験。
その後の38年、再びエリントンが公演でピッツバーグを訪れたとき、ストレイホーンはチャンスを逃さなかった。
ストレイホーンはいきなりエリントンの楽屋をおとずれ、ピアノでエリントン・ナンバーをエリントンのように弾き、
さらに異なったスタイルでありながらエリントン風に弾いてみせたという。
その才能に一発でヤラれてしまったエリントンが後日ストレイホーンを呼び寄せた、
というのが通説だが、このとき、ストレイホーンは同時に自作を披露したとも言われている。
それが「Lush Life」と「Something To Live For」である。
つまり、「Lush Life」はエリントンと行動をともにする前から出来上がっていた
ストレイホーンのオリジナル曲であった。
しかし、この曲が自身の曲として認識されることはなく、
エリントンオケで取り上げられても人気が出ることはなかった。
この曲が広く知られることとなったのは、
1949年にナット・キング・コールが取り上げてヒットしたからだが、
そのアレンジはストレイホーンを満足させるものではなく、
というか自分の意図するところと異なるものであり、
キングに直接電話で抗議したほどであった。
ストレイホーンは、このヒットにアンビバレントな思いを抱いていたはずだ。
自作曲がヒットし、作曲家としての自分が認められたことに対する喜びと、
自らの意図が改変されたことによる怒りとともにプロデュース力への自信のゆらぎ、
そして、やはり自分の力「だけ」では他人に認められないことへの諦念。
後年、ストレイホーンは自身のアレンジによる、ボーカル抜きの演奏を発表する。
(『The Peaceful Side Of Jazz』, 1961, UAJ)
「Lush Life」をめぐる一連の動向は、エリントンとストレイホーンの関係を象徴していると言える。
同じ思いを抱いていたエリントニアンにホッジスがいるが、
ホッジスは51年、いわゆる「ホッジスの乱」を起こしてエリントンオケを退団してしまう
(結局、55年には戻ってくることになるのだが)。
様々な葛藤がありながらもストレイホーンはエリントンから離れず、
懐刀としての立場を選択することとなる。
このあたりは、性格や自己評価、セルフプロデュース観のほかに、
下世話な話になるが自身のセクシャリティ、即ちゲイとしての立ち位置も影響しただろう。
さらに下世話な想像になるが、ストレイホーンを手放したくなかったエリントンは、
ストレイホーンが単独で評価されないように采配を振るっていた可能性も否定出来ないのではないか。
このあたりの経緯は、『Lush Life: Biography of Billy Strayhorn』(David Hajdu, 1996, FSG)に詳しい。
こうしたことを考えると、ホッジスとストレイホーンが親しくなるのは当然のことで、
2人はエリントンを離れていくつかの作品を発表している。
Blues-a-Plenty, Johnny Hodges (1958, Verve)
コンボ作品。
すべてピアノをストレイホーンが弾いているのがうれしい。
また、ズバリのタイトルの作品を発表している。
Johnny Hodges With Billy Strayhorn And The Orchestra, Johnny Hodges (1962, Verve)
この作品ではストレイホーンはピアノを弾かずにアレンジに徹しており、
そのせいあってホッジスのアルトの美しさが際立つ作品に仕上がっている。
・後年の評価
2007年の2月、アメリカのドキュメンタリーTV番組、INDEPENDENT LENSで、
ビリー・ストレイホーンの特番、"BILLY STRAYHORN: LUSH LIFE" が放送された。
監督はRobert Levi (番組についての詳細は こちら 。残念ながら管理人はまだ観れていない)。
番組では、ジョー・ロヴァーノやダイアン・リーヴスなど、
ジャズ・ミュージシャンがストレイホーンの曲をカバーしている。
特筆すべきなのは、
エルヴィス・コステロがBLOOD COUNTに'MY FLAME BURNS BLUE'なる歌詞を書いて
自分で歌っていることか。
このドキュメンタリーのサウンドトラックも製作されている。
"BILLY STRAYHORN: LUSH LIFE" (2007年)
【アルバム】
ストレイホーンの演奏は、比較的簡単に聴くことができる。
リーダー作もあるくらい。
Piano Passion / Billy Strayhorn (2005年)
Piano Passion / Billy Strayhorn
1946~50年の演奏。
上の『The Peaceful Side of Jazz』とジャケットが似てる(というか同じだ)が異なるものなので注意。
Day Dream - Complete 1945 - 1961 Sessions as a Leader
Day Dream - Complete 1945 - 1961 Sessions as a Leader
ちなみに、ストレイホーン名義ではこんなのもあるが、
内容はエリントンオケのライブ盤。シカゴでの演奏です。
『Live!!!』 (1959, Roulette)
『Piano Duets: Great Times!』, Duke Ellington - Billy Strayhorn (1950)
【演奏】
エリントンにそそのかされて、オーケストラでA列車を弾くストレイホーン。
フレーズこそエリントンに似ているものの、タッチは繊細で品がある。
これは65年の演奏なので、ずいぶん体も悪くしていたはず。
どうでもいいことだが、
1:27~1:40あたりで熟睡しているポールが見れる(ここのカメラワーク、明らかに狙ってる!)。
堂々と眠るポールもすごいが、
エリントンを含めた周囲の人間が何も気にしていないのもすごい。
さらに、2:20辺りからオケがバックテーマに戻るとき、
ホッジスはペーパーバックか手帳をみていて演奏に入れない。
しかし入れなくても全く動じず、そのままサックスをもたずに曲が終了。
これがエリントンオケの日常だったのだろう。
その意味でも貴重な動画である。