『Money Jungle』を聴いて興奮に身を震わせたあなた!
おめでとう!
あなたには、ピアニスト・エリントンを愛するセンスがあります!
加藤総夫氏、村井康司氏の言葉を借りるなら、エリントンは「垂直系」ピアニストの始祖。
このピアニストの系列には、モンク、セシル・テイラー(祝! 京都賞受賞! まったく、京セラらしいといえば「らしい」人選ですね)、アブドゥーラ・イブラヒム(a.k.a.ダラー・ブランド)、そして山下洋輔(と大西順子の一部)も名を連ねることでしょう。
なめらかな旋律を奏でる楽器ではなく、刺激的な和音とグルーヴを生み出す打楽器としてのピアノ。
そんなピアノの魅力がわかるあなたなら、きっとエリントンのピアノの中毒になってしまうことでしょう。
…とはいえ、これまでに紹介したオーケストラの作品の中でも、ピアニスト・エリントンの好演奏を聴くことができます。
エリントンは、オーケストラの作品においてソロ、トリオの演奏を要所に配置しています。
これらの演奏はその作品全体の中で実に効果的に響きます。
つまり、エリントンは自分のピアノ演奏もオーケストラ作品全体の中の一部として構想していたわけで、
コンボのエリントンを聴きまくるのは、そんな「オーケストラの中のエリントン」を聴いてからでも遅くはない、とも思います。
思いつくまま並べるだけでも、『パリコン』の冒頭、「Rockin'in Rhythm」になだれ込む「Kinda Dukish」、『女王組曲』の「A Single Petal of Rose」、『ビリー・ストレイホーンに捧ぐ』の「Lotus Blossom」、『極東組曲』の「Adlib on Nippon」のテーマに入る前の緊張感に満ちたイントロ、そして管理人が特にオススメしたいのが、『In the Uncommon Market』のグルーヴに満ちたトリオ演奏の「The Shepard」(First Concert)…! 美しい曲は限りなく美しく、危険なときは聴いてる方が不安になるほど殺気立っているピアノ。この振れ幅もエリントンの魅力です。
これらを聴いた上で、まだ聴き足りないっ! もっとエリントンのピアノを集中して聴きたいっ! という方には、
以下のアルバムをオススメします。
『Money Jungle』は62年の録音、ということはエリントン63歳。
63歳であの演奏はたしかに驚異的ですし、晩年もアレンジ、作曲の創造力は衰えることはありませんでしたが、
ピアニストとしての体力・技量に変化はあったのか。
せっかくですので、遡ってもっと若い頃の演奏を聴いていきましょう。
・Piano Reflections
Piano Reflections, Capitol
すべてピアノ・トリオの演奏で、
ベース、ドラムは当時のオ―ケストラのWendell MarshallとButch Ballard。
(余談だが、ブッチ・バラードは半年しか在籍しなかったため、ボーナス・トラックの#13-15はその後任のDave Blackが演奏。51年の「ホッジスの乱」によりソニー・グリーアが脱退し、当時のドラムは異動が激しかった)。
録音53年、ということは『Money Jungle』の約10年前の演奏で、
文字通り「ピアノを弾きまくる」エリントンが堪能できる1枚。
時にストライド的に短く刻まれるフレーズは、現代の耳には新鮮に響く。
アドリブ・ソロにおいて、エリントンの関心はメロディにではなく、
グルーヴやハーモニーにあったことがよくわかります。
バップフレーズを蓄積する練習をしなくても、こんなに創造的な演奏をすることができる。
ジャズ・ピアノを学び始めた人に聴いてほしい1枚でもあります。
エリントン54歳の時の演奏。
ちなみに、オリジナルのLPは緑。
ノーブルな紫もいいけど、独創的な雰囲気漂う緑もいいです。
ちなみに、そもそものオリジナルは『Duke Plays Ellington』というタイトルで、
こんな感じのフィフティーズ感あふれるジャケットでした。
Solos Duets & Trios, RCA