(Ray Willis Nance / December 10, 1913 Chicago - January 28, 1976 in New York City )
【在籍期間】 40-63,65年
担当楽器はトランペット、ヴァイオリン、ボーカル、そしてダンス。
「Mr. Cool」こと、エリントン・オーケストラのマルチ・エンターテイナー。
エリントンオケの卒業後はいくつかのリーダー作を残した。
エリントンはエレガントと下世話、聖と俗が同居する人間。
キャラクターとしてはレイ・ナンスとエリントンは似たところがあり、
エリントンはこのエンターテイナーをかなり気に入っていた。
自身がリーダーであり、ピアノという楽器の特性上、
ステージを自由に歩き回れないことによるフラストレーション。
エリントンは、それをレイ・ナンスのパフォーマンスで解消していたのではないか。
ナンスには、その下世話な部分をボーカルで、
エレガントさをヴァイオリンに託していた節がある。
この2人のツーショットは多い。
こんなのとか、
腐女子が喜びそうなこんな一枚も。
65年頃の写真。
『男子高校生の日常』、『となりの関くん』的な関係とでもいおうか。
「男子ってバカよね」と言われそうなおふざけばかりしていたのだろう。
これは60年頃の1枚。
・トランぺッターとして
1940年、「A列車」初録音時のトランペット・ソロはレイ・ナンスが担当した。
後にクーティがこのソロを引き継ぐことになるが、フレーズはナンスのコピー。
流麗(Ray)なフレーズがこの人の持ち味。
・バイオリニストとして
ナンスのバイオリンは、アクセントとして素晴らしい。
クラシック畑の人にどう聞こえるかはさておき、「味がある」サウンドなのは間違いなし。
手っ取り早くナンスのバイオリンを堪能するならこれでしょうか。
ジャケットもCool 。
・『Duke Ellington's Jazz Violin Session』(1963, 2/22)
発表はエリントンの死後の76年(Atlantic)。
Duke Ellington's Jazz Violin Session
Stephane Grappelliとレイ・ナンスがバイオリン、Svend Asmussenはビオラ。
ストレイホーンがピアノを弾いているのも珍しい。
エリントンファンだけでなく、ジャズ・バイオリン好きにも人気の一枚。
しかし、レイ・ナンスのベスト・プレイはこれ。
Gentleなのはショーティ・ベイカー、Coolなのがレイ・ナンス。
エリントンのボイスも演奏の一部なのだ。
「Mr. Gentle & Mr. Cool」
他にも、「Guitar Amour」(『In The Uncommon Market』収録)や
木曜組曲(Suite Thursday)の「Lay-By」、「Bakiff」などなど…。
エリントンオケにハマったときの演奏は神がかり的。
おどけてても、やるときはやる。
冗談のような話だが、レイ・ナンスはドイツの「シュピーゲル」誌のカバーを飾ったこともある
(Der Spiegel, '51, 2/7)。
使われたのは、よりにもよってこの一枚。
・ボーカル
レイ・ナンスは、歌っている時が一番イキイキしているかもしれない。
歌とダンスとヒューマン・ビートボックスの「It Don’t Mean A Thing」。
さらに「Just Squeeze Me」も。
レイ・ナンスの場合、歌とダンスとヒューマン・ビートボックスはセット。
まるでフレッド・アステア。
・ソロになってから
エリントン時代の輝きはみられないものの、ファンには十分。
『Body & Soul』(1969)、『A Flower Is A Lovesome Thing』(1959)、
『Huffin' 'n' 'puffin'』(1972)など。
『Body & Soul』(1969, Solid State)
個人的な話だが、このLPはこれまで管理人が買った中で一番高いLPだったりする。
このアルバムではもはやトランペットは吹かず、バイオリンとボーカルのみ。
白眉は「Guitar Amour」。
『A Flower Is A Lovesome Thing』(1959, Chaarlie Parker)
Sam Woodyard, Cat Andersonとともに。
「Chelsea Bridge」もやってる。
・『Just A Sittin’ And A Rockin’』(70年録音(8/28, 9/3)、73年発表(Black Lion))
ポール・ゴンザルヴェスとの双頭リーダー作で、バピッシュなジャズアルバム。
ジャケットもよい。
しかし、双頭リーダーなのに……おーい、レイ・ナンスどこ行った?
Norris Turneyの下品なアルトが頼もしい。
引退後はバイオリンが多い中、tpをたっぷり聴けるのもうれしい。
ポールがすかしてるジャケットがCool。
もっとも、これは誰でも絵になる構図なのかもしれない。
なんと、ライブ盤もある。
『Quartet & Sextet』
音質は悪いが、演奏は上々。
『Quartet & Sextet』ピアノはジャッキー・バイアード。
大西順子が聴いたら、どんな感想を抱くのだろう。
『Huffin'n'Puffin'』 (1971, MPS)
この時期にしては選曲が珍しい1枚。
Mr. Coolは何をやっても絵になる。
エリントンは、本当にレイ・ナンスのことが大好きだったのだろう。
自伝 "Music Is My Mistress"(邦訳『A列車で行こう』)でも、
ビリー・ストレイホーンの次のエリントニアンとして紹介されている
(第4幕「人格形成期」。ちなみにその次はBen Webster)。
最後にエリントンの言葉を引いておく。
"Ray Nance never played a bad note in his life, so this makes him unique among artists
who practice freedom of expression in music. Singer, violinist, cornetist, and dancer,
he is consistently a gas! Despite his brilliant solos, he never got a swollen head. (...)
There's really only one Ray Nance.” ("Music Is My Mistress")
どうでもいいことだが、
レイ・ナンスは、日本語をあてるなら「麗・男子」と書ける。
管理人は、レイ・ナンスの命日である1月28日を、
「麗男忌(れいなんき)」と勝手に名づけて追悼している。
Mr. Cool、 R.I.P.。
(2016, 2/28)