以下は、もっとエリントンを知りたい人のためのブックガイド。
項目ごとに簡単なコメントを付したが、よりくわしい解説は各タイトルからリンクできる。
日本のエリントン研究についてどうこう言う以前に、
そもそも日本語で読めるエリントン関係の資料が少ないことが問題だと思っていたのだが、
この項目を作成するにあたって部屋の中の深い地層を発掘してみると、
ずるずるといろいろ出てくることに自分でも驚いた。
こうして並べてみると、日本語で読めるエリントンの資料は意外にたくさんあり、
他のジャズミュージシャンと比べるとかなり充実してると言えるかもしれない。
雑誌のバックナンバーはアクセスするのに苦労するかもしれないが、
下に挙げた書籍は、ちょっと大きい公立図書館には所蔵されてると思う
(管理人の近所の図書館にはほとんどあった)。
各項目の詳細ページに末尾にAmazonへのリンクを付したので、相場などを参考にしてほしい。
なお、海外のものはあくまで管理人が目を通したものだけを挙げてある。
海外の研究は日本とは比べものにならないくらい進んでおり、研究書は軽く百冊を超えるはず。
これは管理人の今後の課題としたい。
【 自伝 】
(邦訳) (スペイン語版)
エリントンの自伝。まずはこれを読まないと始まらない。
表紙はレコードと同じく自分のアップ(しかも枠に収まりきれずにハミ出てる)。
全体的にきれいにまとめ過ぎな感があり、あまり突っ込んだ話は出てこないのが残念。
邦訳は非常に残念な完成度。
【 音楽面 】
・Early Jazz: Its Roots and Musical Development / Gunther Schuller
(邦訳『初期のジャズ―その根源と音楽的発展』)
(邦訳)
(邦訳)初期のジャズ―その根源と音楽的発展 (りぶらりあ選書)
ガンサー・シュラーは、マイルス・デイヴィスの『クールの誕生』にも参加したホルン奏者であり、
クラシックとジャズの両方に活動の場を持つ。
ジャズ研究家としても有名で、ここに挙げた2冊ではエリントンの音楽を楽理面から分析。
「デューク・エリントンのスタイル その起源と初期の発展」として、
50頁を割いて独立した章を設けている。
・The Swing Era: The Development of Jazz, 1930-1945 / Gunther Schuller
上掲の『初期のジャズ』の続編。
こちらには、「Duke Ellington Master Composer」という、
100ページ以上にわたるエリントンの音楽の楽理的な解説を加えている。
シュラーは、タイトルにある1930年~1945年にエリントンの音楽のスタイルが
完成したと考えるため、以降の年代についてまとめられていないのが残念。
日本国内のエリントンの音楽についての考察は、
次掲の「ジャズ・ストレート・アヘッド」と合わせて加藤総夫の研究が他の追随を許さない。
ビッグバンドリーダーを会社にたとえると…などのコラムも面白い。
本格的なジャズ評論。
上記『ジャズ最後の日』は、比較的短めの文章が収録されていたが、
こちらはジャズ及びジャズミュージシャンを対象とした論文集。
特に、エリントンとモンクを比較した考察が秀逸。
・ビッグバンド完全マニュアル
・デューク・エリントン/ピーター・ガモンド (音楽之友社)
オーソドックスなエリントン評価に従い、
いわゆる「エリントン黄金時代」とされる「40年代」を
エリントンのキャリアの全盛期と評価する本。
そのため、60年代以降の音楽はあまり高く評価されていない。
音楽についての目新しい発見はないかもしれないが、
メンバーや業績などの一般的なエリントン評価について概観できる点は有用。
絶版であり、長い間日本語で読めるエリントン研究書はこの本だけだったため、
マニアの間では稀覯本扱いになっていたようだ。
Amazonマーケットプレイスの一部の商品に法外な値段が付けられているのはそのせい。
・デューク・エリントン/柴田浩一(愛育社、2008)
データ関係が非常に充実。
日本人の著者によるエリントンのモノグラフはなかったので、
その意味で画期的であり、特に日本公演などの日本に関する記事は他の追随を許さない。
反面、音楽関係の分析・説明は少なめで、食い足りなさを感じるのが残念。
また、形式的な問題だが、誤字や表現の面で気になるところが多々あるのも残念。
もっとも、これは編集の問題だろう。
・ジャズ批評 No.67 (1990年4月)
特集 ジャズ・ビッグバンド エリントン&ベイシー
ジャズ批評 No.67 『ジャズ・ビッグバンド エリントン&ベイシー]』
加藤総夫「誰も語らなかったエリントン書法の真実」は、
上記『ジャズ・ストレート・アヘッド』収録の「エリントン・サウンド探求」の初出。
その他、資料集としても有用。
・ジャズ批評 No.112 (2002年7月)
特集 ジャズ・ビッグバンド
エリントンについては、
『The Afro-Eurasian Eclipse』と『New Orleans Suite』の
2枚のディスクレヴューがあるだけで、
「言及がある」程度。
そうそう、『The Afro-Eurasian Eclipse』の紹介で、
Chinoiserieが「シノワイザリー」と書かれているけど、
ふつうに「中国趣味・中国様式」の意味の「シノワズリ」でいいと思う。
本当に「中国風」かどうかは別として、
これがエリントンが思う「中国」なのだ。
・読んで聴くCDマガジン(4)「デューク・エリントン」(同朋舎)
シリーズのうちの1冊。
コンパクトにエリントンの全体像をつかむことができ、
写真やイラストが多いのもうれしい。
セットのCDの選曲もいい。
Pitter Panther Patterを収録した選者のセンスに脱帽。
"Ellingtonia: The Recorded Music of Duke Ellington and His Sidemen"
「読む」本ではなく、調べたいことがあるときに「引く」本。
間違っても頭から読もうなどと思ってはいけない。
この本が家に届いて中身を確認したとき、ひどく面食らった覚えがある。例えば、ランダムに本を開いてみると、CA CW などという記述。
ただ、もちろんリストは
Duke Ellington (Life & Times) / David Bradbury, Haus Pub (2005/11/30)
130ページのペーパーバックながら、なかなか充実した内容。
巻末に簡単なエリントンの年表があったり、
参考文献も新旧挙げられており、2005年に出版した意味があるものとなっている。
和書・洋書合わせた中で、実は今読むのに一番手ごろな入門書かもしれない。
【エリントニアン関係】
エリントニアン達の関連資料は、他のビッグバンドのメンバーに比べれば充実しているといえる。
エリントンの自伝の中にある各メンバーについてのコメントの他、以下のものが参考になるだろう。
なお、トランペット・セクションについては、
上掲の加藤総夫『ジャズ・ストレート・アヘッド』の「セクション・トランペッター列伝」なる章にも言及がある。
ベーシスト、ビル・クロウによる、ジャズ・ミュージシャンの逸話集(アネクドーツ)。
「デューク・エリントンと彼の楽団」という30数頁の章が収録されており、
タイトルどおり、エリントンとエリントニアンの逸話が列挙されている。
訳は村上春樹。
・さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想/ビル・クロウ (1992)
上述のビル・クロウの自伝。
「デューク・エリントン」という10数頁の章を収録
(第30章。ただし、エリントン関係については実質その半分程度)。
巻末には、訳者村上春樹の簡単なディスク・ガイドあり。
・ジャズ1930年代/レックス・スチュワート
自身エリントニアンである、レックス・スチュワートの自伝、のようなもの。
半分はジャズ・ミュージシャン評であり、
上掲のビル・クロウの2冊の本を1冊にした感じといえなくもない。
「エリントン王国」なる、70頁弱の章を収録。
ハリー・カーネイについての文章、「バリトンのボス」が秀逸。
【 その他 】
《 ジャズ評論家関係 》
瀬川昌久
山野 BIG BAND JAZZ CONTEST の後のライブにわざわざ足を運んでいただき、ひどく感動したことを覚えている。
中山康樹
進んで述べることは少ないが、エリントン・ミュージックへの理解はとても鋭い。