240503 ネパールロキシー蒸留立ち会い体験記@240425

2024年4月22日。
朝起きてスマホでニュースなどをチェックしていると、メッセージ着信があることに気付く。昨夜(といっても深夜2時過ぎ)就寝前には無かった着信だ。

まだ8時過ぎなのでネパールの友人知人ではなさそうだし、日本からかな???と思いつつ開いてみると、
「前から言ってたロキシーの蒸留が明明後日になった。来ますか??」
というパタン・ネワールの知人からのメッセージである。着信時間は朝05:18(疲)、ネパールの人々は総じて早起きだ。

本来は禁止されているロキシーの自家蒸留だが、「ネパール伝統的蒸留酒(日本で言えば焼酎)」であるところのロキシー、祭事や神事に欠かせないこともあって、自家消費を前提とする(販売しない)場合に限って自宅での製造が認められている。かつての日本の みそ や、今でもやってるイタリアの瓶詰めトマトよろしく、旬が来ると一家総出で仕込みから蒸留までを集中的に行うのだけれど、この作業を毎年仕切るのが一家の女達、おばあちゃん、おばちゃん(おばあちゃんの姉妹・義姉妹)、お嫁さん、お姉さん等々を指示部隊(指示部隊)として、買い出しの運び人や力仕事の担当として男どもがかり出される、一大事業である。

そもそもロキシーは蒸留酒であるので、大まかにいえば雑穀等の原料を煮て麹を混ぜたものを発酵させ、できた「酒母」を蒸留して作る、まさにウィスキーや焼酎と同じ種類のアルコール飲料である。

と書くと単純そうだけれど、例えば日本全土ですら、いや、九州域内、いや、鹿児島や熊本といった一つの県内でさえ、さまざまな味わいの違った味わいの蒸留酒ができる(そしてまた年によっても違ったりする)のが発酵・醸造の面白いところ、ここネパールでもロキシーに賭ける女達のプライドはすさまじく、手前 みそ ならぬ手前ロキシー笑、素材(使う穀物をいくつかブレンドしたりする!)、水、麹(これが大きなポイント)、仕込みを始める時期、煮込む時間や麹を放り込むタイミング、発酵樽の貯蔵場所(一階の階段下日陰だったり屋上の納屋の中だったり)、発酵中のかき混ぜる時間帯や回数、お守りとして入れるクルサニ(唐辛子ブーケ)の量や時期、などなど、等々、とにかく、とにかく、こと細かに蒸留までの仕込みを進めていく。美味しい野菜炒めやお味噌汁を作るのと、たぶんロジックは同じで、一晩おくとか二晩おくとか、お漬物よろしくそういう「発酵系美味しい」食品の究極、かつ、一族を一年間お祝い(等)するための「御神酒(おみき)」だと思えば、その気合いもまあ、ストンと腑に落ちるというものだ。

毎年の気候や気温、その年の穀物の出来などを日常的に情報収集しつつ、この友人のおばあちゃんが(出てきたでしょ最初に、覚えてますか笑?)、

「さあ、今日から(発酵)原液の仕込みを始めるよ!みんな張り切って買い出しして来な!抜かるんじゃないよっっ!!(もっと低く飛びな的な笑!)」

と号令をかけたのが(かけたかどうかは知らんが、たぶんそんな感じ)気温の低い12月終わり、みんなで買い出した穀物を混ぜ、煮込み、麹を利かせた発酵液(酒母の原液)を仕込んで、今年のロキシー作りが始まったわけである(伝統的発酵工法であるから発電なんかにゃ、そりゃ、頼りませんとも、その年その年の気候や気温、穀物の出来なぞの情報を収集しつつ天候や季節気温を先読みしつつ、時には一家の懐具合や祭祈事例にも、そっ、と配慮しつつ、あくまで屋外常温発酵をベースにおばあちゃんが決めて、仕切る、それがロキシー仕込みなのである。。。と、思う。。。。しらんけど笑)

そして概ね3~4ヶ月醸造発酵を進めた後、ようやくおばあちゃん(一族の醸造責任者)のひと声、

「○○日後の△時から蒸留作業を開始するぞよ(とかなんとか)!!」

で、一斉に女も男も準備を開始、この決定は外気温と発酵状況を見極めながら醸造樽の様子を毎日覗いている(かき混ぜのタイミングまで測っている)おばあちゃんの専権事項にて、ガイジンのワタクシなんぞが「おい、こっちにも予定や都合があるんだぜ、急に言われても行けないからな、前もって教えてくれないと困るからな、平日はみんな難しいからできるだけ土日にしてもらって。。。」などと言ってるうちにすっかり蒸留が終わっていたりする(そりゃそーだ、毎日本気で見てるヒト相手に「みそ汁の玉ねぎに火が通ったら寝てるボクを起こしてくれ」つってるよーなもんさね、そりゃ怒られてもあたりき笑)。

そういう経緯なので、まな板の上の恋、じゃない、鯉、の気持ちで友人に「まだかい?」「いつになりそう?」「土日にあたるといいんだけどね・・・?」などと3月半ばくらいからお伺いを立てて来たのだけれど、当然この友人も「ロキシー蒸留ヒエラルキー」の中ではほぼほぼ最下層の単純肉体労働階級(笑)、「うん、いちおうおばあちゃんにはアンタが来ることは言ってあるけどね。。。土日の話も一応、ね。。。でもウチのおばあちゃんカレンダ-見ないしね、へへへ(へへへ、ちゃうやろ笑!)」と言ってた彼が、せめてもの罪滅ぼしに、三日も早く(三日も笑!)、蒸留実施を通告してくれた、というわけであった(いやー、やっぱ平日になっちゃったね、じゃあたくさんの友人は連れて行けないなー(<多分伝わらない&意味のないささやかな抵抗)、そいで、何時頃行けばいい??というワタクシの問いかけに、「4時30分からやってるからいつでも良いよ」と返信があったのはご愛敬かつネパールあるある、である疲)。

穀物から蒸留したアルコール

できたてロキシーを吟味中

トラディショナルな蒸留装置

ポットに抽出されたロキシー

結局日本人会ニュースでお申し込みを頂いていた方々のうち1名のみをお連れして、7時から参加させて頂くことにして友人宅を訪れると、すでに2バッチほどの蒸留が終わっており、今日はあと2回蒸留するだけ、という。家に入る前から発酵した穀物液体のよい香りがぷ~~~んとあたりに漂っている。

普段よりも早起き状態での出動にも関わらず、すでに呑みたくなってしまう罰当たりなワタクシ(笑)、そこはグッ、とこらえて、蒸留機器の写真を取ったり、友人宅(ホステル)の案内をしたりしながら蒸留を見学させて頂いた(ホントはすぐ呑みてーんだよ、気付けよ、周りの君たちよー、と思いつつ。。。)。

蒸留技術的にはかなり原始的な方法、かつ、昔ながらの伝統的な方法がベースなので、蒸留器上部の冷却装置は手作業での水の入れ替えに忙しく、温まった下段の発酵液が蒸発を開始して最初に出てくる数百mlの蒸留液と最後のそれは飲料に適さない(つまり美味しくない)ということで、すべて廃棄となり、大量の発酵液の半分強くらいしか「飲料に適した蒸留ロキシー(Judged by おばあちゃん笑)」にはならないのではあるが、しかしこれがまた、蒸留直後のロキシーというのは日本のお刺身(とくに白身)と同様フレッシュかつ新鮮かつ強烈なアルコールの味で、しかもなおまだなま暖かく、これはこれで目が覚めるような、と言っていい、鮮烈な味わいなのである。これは蒸留直後にしか味わえないもので、美味いかどうかは千差万別として、ロキシーNouveauとでも呼称しても良さそうなシロモノである。

で。

彼らはこれを自家製の貯蔵樽や、家によっては色や味を調整したりして(みそならぬ)手前ロキシーに仕立てていくのであるが、この日友人が出してくれた昨年のロキシー(1年もの)は、彼ら一家の昔ながらの貯蔵味付けがなされた、こなれていながらその鮮烈さと、熟成によるなめらかさと高貴な香りを保った絶品ロキシー、ネワールではロキシーのことをAila(アイラ、発音としてはエラに近い)と呼ぶのだけれど、今日の蒸留直後のものは、あ!やっぱ今日できたの新鮮よね だってこっちの1年目の熟成のやつはこれぞロキシーって味と香りだもんねこっちの蒸留直後のやつはほーら味としては淡泊というか ね こう なんて言うのか若いってのかなんていうかこっちの1年ものの方がやっぱり味わいが うんほら奥深いというか まあ若い方もこれはこれで。。。

。。。9時過ぎというのにベロベロでした(笑)。

最下ポットに発酵液を入れ・・・

蒸留(大)/貯蔵(小)ポットを乗せて・・・

冷水を張った円錐型冷却器を
セットして蒸留開始。

蒸留ポットの内部。三つの凸部に貯蔵ポットを乗せる

円錐型冷却器は蒸留中に
すぐに温まってしまうので
水の入れ替えが忙しい

客人にはまずお茶(笑)

からの・・・(笑)
上:新ロキシー 下:一年もの

今年は屋上に設置されていた
発酵樽

記)ロキシー作りの名手(つまりまあ、各家庭のおばあちゃん)達が口をそろえて言うのは、何の抵抗もなくすいすい呑めてすぐに良い気持ちになり(これは神経が麻痺しているのだと思うが、笑)、その後、〆のダルバートを食べると、す、と酔いが収まって歩いて家に帰れる、それが良いロキシーだ、というやつで、この日も自宅に戻ってかるくお蕎麦のランチをとり、ちょっとお昼寝したら午後のミーティングはしゃっきり出席できました(いや、実はちょっと酔いが残ってました。ゴメンナサイ)。

せっせと水替え・・・

厳格な(?)品質チェック
ラムロチャキチャイナ??

屋上からの蒸留作業風景
下のイスはボクらの観覧席

蒸留カスで仏具の一年分の
ススを洗う。ああ、ネワール。。。