ヘブンリーブルー

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(西洋朝顔,花弁色素,アントシアニン,分子構造,計算化学)

今年は大地震のほかにも大自然の神秘を実感させられることがあった.知人から貰ったものの,椎茸は生えず庭の片隅に数年間放置していた榾木(椎茸菌入り原木)に春秋二度にわたり,椎茸が生えた.さらには庭の日陰の地面にも名前の分からないキノコがニョキニョキ生えた(地震との関連を言うつもりはない).

また,地震後の手入れ不足,その上今夏は酷暑に見舞われたため,枯れてしまったと諦めていた3本の西洋朝顔(ヘブンリーブルー)が夏を過ぎると元気になり,9月初めには屋上から垂らした針金(園芸用ワイヤー)をよじ登り3階まで到達した.普通の朝顔程度と思っていたら,写真のように繁茂し,11月中は毎日50−100個程度,12月2日現在80個の花を咲かせている.戦後初の小学生のため,朝顔の成育を観察するなどの余裕はなく,後期高齢者になって初めてじっくりと観察させてもらった.

花が咲く前は,葉は虫達の標的になり葉っぱが黒く変色し,枯れた葉もあった.よく観察すると,アブラ虫が発生していて,アブラ虫を食べるためテントウ虫が集まり,さらにはアリが蔦を伝って上ってくる始末である.アブラ虫は,テントウ虫を追っ払ってくれるアリを呼び寄せるため蜜を分泌して呼び寄せるとのことである.

そんなこんなで枯れてしまうのではないか思った西洋朝顔は,害虫,酷暑,台風にもめげず,ご覧のように咲き乱れている.夏の花が少なくなる時期に咲くため,蜜を求めて小さな虫や蜂がやってきているが,この状態も霜が降ればおしまいになるとのことである.

色の変化は見事である.気温が低くなると,朝は前日に咲いた分はピンクで残っていて,午前中はブルーの花と共存する.この色素変化,化学に興味がある人ならその変化のメカニズムを知りたいと思うに違いない.さっそく文献を調べてみたら,農芸化学の分他で吉田等による研究報告があった.

11月30日 根本は鉛筆大の太程度

9月5日の状態

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11月23日の開花状態

11月12日午前中は赤,青共存状態

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11月30日途中の葉は枯れて蔓だけになった

11月6日 蜜を求めて蜂等の虫の来襲

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花色の変化は,アントシアニンの共鳴構造の変化で説明できると考えられている.安定化には金属錯体の関与も示唆されている.

液性によるアントシアニンの構造および色の変化

西洋朝顔の色の変化をつかさどる成分については,平面構造が決定されている.アントシアニジン1分子,コーヒー酸3分子およびグルコース6分子で構成されている.

Heavenly Blue Anthocyanin (HBA)の構造

詳細は研究論文を読んでほしい.色が安定である理由は,弱い分子間相互作用に基づく超分子の形成によると考えられている.植物の種類によって会合パターンは異なり,次図のように大別されるらしい.西洋朝顔は下図(右)のように表すことができる.

アントシアニンの分子会合モデル

著者らは,類似構造を有するリンドウの花弁色素について,分子モデリングプログラムを用いて安定配座を算出し,母核とコーヒー酸の一つが対面構造を有する可能性を示唆している.

分子軌道子計算による予測

論文を読んでいるうちに,π-π 相互作用が如何なるものか計算構造をPC上で見たくなった.計算座標を著者に請求することもできるが,研究現場を離れた身でもあるので,構造式から立体構造を組み立て分子軌道計算による構造最適化を試みた.上図の全構造から左側の一部(コーヒー酸1分子およびグルコース2分子)を除いた分子についてPM6計算(MOPAC2012)を行ってみた.分子力場で求めた配座を使って,種々の配座計算を行ったところ,最安定構造ではないが,それらしい構造を見つけることができた.2位に置換した電子豊富な芳香環(3-methozy-4-hydroxy-phenyl)と電子欠如のコーヒー酸(二重結合を含むヒドロキシケイ皮酸)の間にドナーーアクセプター相互作用が見られた.芳香環間の距離は原子のファンデルワールス半径の合計に近い距離を示した.分子全体の配座を固定する要因としては水素結合 (-OH····O) が大きな役割をしているが,最近その重要性が明らかになってきた弱結合(face to face, edge to face, CH··O<, CH··O=, etc) の集積による補強効果も無視できないようである.それらの役割を明らかにするためには,全構造を用いた検討が必要である.

追記

全構造を用いたPM6計算に於ける最安定構造(2016.12.9現在)

環構造を明示した図

参考資料

下記の論文の図を利用させてもらった.

・花の色はなぜ多彩で安定か アントシアニンの花色発現機構,吉田久美*,近藤忠雄,化学と生物 Vol.33, No.2, 1995 91.

・花色発現における分子会合気候の解明に関する研究,吉田久美,Nippon Nogeikagaku Kaishi Vol. 70, No. 1, pp9--14,1996.

・MOPAC2012 PM6計算はCore i7 CPU搭載のパソコン(Windows 10) で行った.演算時間20分程度.