亡き人をよみがえらせる会社
男性:あの、すみません・・・。
受付:いらっしゃいませ、こちらはユー・オンリー・バーチャル社でございます。
男性:おたくのシステムで、亡くなった人と電話で話せると聞いて、やって来たのですが・・・。
受付:はい、よくお越しくださいました。私共は、最新AI(人工知能)を使って、亡くなった人との会話を可能にする会社でございます。
男性:死んでしまった人と話ができるのですか?
受付:はい、その通りです。
男性:AIが死んだ人を生き返らせるというのですか?
受付:いえ、そうではありません。
男性:では、どうして死んだ人と話ができるのですか?
受付:簡単です。その人が生きていた時の情報を、AIに学習させるのです。
男性:生きていた時の情報?
受付:そうです。いろいろな情報をコンピューターに入れれば、AIがその情報にもとづいて、死んだ人になり代わって、あなたに語りかけてくれるのです。
死んだ母親の化身(アバター)?
男性:先月亡くなった、私の母と話がしたいのです。
受付:お母さまの映っているビデオはありますか?
男性:はい、いくつかあったと思います。
受付:その中で、お母さまの話し声が多く入っているものはありますか?
男性:WEB会議ツールを使ってミーティングに参加しているビデオとか、お料理の作り方を解説している動画があったと思います。
受付:それは最高です。話す速度やイントネーション、声の質や方言など、あなたのお母さまの写っているビデオからの情報を、できるだけたくさんAIに学習させましょう。
男性:ビデオなら、母の情報がそのままAIに伝えられるわけですね?
受付:おっしゃる通りです。さらに、お母さまの出身地や親族構成、友人・出身学校から趣味や乗っていた車の情報まで、AIは学習させれば学習させるだけ、お母さまに限りなく近いアバター(分身・化身)を生成することができます。
AIに多くのデータを学習させて
男性:ここに、母のビデオと、生活史、さらに親戚や友人の名簿、旅行に行った様々な場所や時期、お気に入りの食べ物や服装までデータをそろえました。AIに学習させてみることはできますか?
受付:もちろんです。ただ、お試しでも費用がかかります。1分、2分、3分のお試しコースがございますが。
男性:いちばん安いのを・・・
受付:承知しました。最も安いコースは1分で25,000円です。よろしいですか?
男性:かなり、いいお値段ですね。
受付:AIはビジネスツールです。私どものAI企業は、高い株価で上場されました。使用料が安くないのは当然です。
男性:わかりました。1分コースを、お願いします。
受付:承知しました。では、AIへのデータ入力が完了するまで、待合室でお待ちください。
亡くなった母との会話
受付:お母さまのデータ、入力が完了しました。
男性:おお、早いですね。
受付:ではどうぞ、この電話で、お母さまとお話しください。
男性:「か、かあさん・・・」
母:「ああ、ひいちゃん、元気かい?」
男性:「ああ、かあさんの声だ!ほんとにかあさんなの?」
母: 「はっはっは。ニセモノだと疑うのなら、何でも聞いてちょうだいな。しっかり答えてあげるよ。」
男性 :「かあさんのチャーハン、また食べたいな。」
母: 「ああ、ひいちゃんは肉入りチャーハンが好きだったね。」
男性 :「うわぁ、覚えてくれてるのだね!」
母: 「今日は土曜だから、早朝テニスの日でしょ?ちゃんと行って来たの?」
男性 :「いや、行く気が起らなかった。かあさんが亡くなって、ぼくは悲しくて、何も手につかない状態で・・・」
母: 「ばかねぇ。あのね、人はみな一回は死ぬのよ。私が死んだくらいで、沈んでてどうするの?」
男性 :「なつかしい叱られ方だ!かあさん、ひとつ聞きたいことがあるのだけど。あの・・・」
(カシャッ。)
受付:申し訳ございません。1分が経過しました。ここまででございます。
故人と電話、月々サブスク(課金)
男性:もう少し、母と話がしたいのですが。
受付:はい、可能です。1か月に3分だけあなたのお母さまと電話でお話ができるシステム私どものサブスクリプション、月50,000ととてもお値打ちにお申込みいただけます。予約がいっぱいで、来月申し込み分からは、この2割増しとなります。いかがなさいますか?
男性:か、かなり高いですね?
受付:お母さまの映像をとりこんで、テレビ電話コースもございます。
男性:り、料金は・・・?
受付:月80,000円のサブスク(課金)です。
男性:おお!ますます高い料金・・・
受付:お母さまとの絆(きずな)をいつまでも保つための、安い料金です。
男性:き、きずな・・・いつまでも保てる・・・
受付:故人のいつも使っていた眼鏡やペンダントなど、故人を身近に感じられる「きずな」を、あなたはいつまでも持ちたいとは思いますでしょう?
男性:母の使っていたキーケースを、私はいつも形見として持っています。
受付:形見は単なる思い出の品です。私どものAIは、まさに、お母さまとの語らいの時間を確保するのです。亡くなったお母さまとの時間は、素敵でしたでしょ?
男性:は、はい、とても素敵でした。
受付:お母さまの声をきいて、どんな気持ちがしましたか?
男性:うれしくて、ぽっかり穴があいたようになっていた心が、とても癒されました。
受付:そうでしょう。愛する人が「不在」になった苦しみを、AIが和らげてくれるのです。
男性:あなたのおっしゃる通り、喪失感がとても軽くなりました。
受付:このシステムへの先月のお申込み数は、500人を越えました。
男性:そんなに多くが申し込んでいるのですね・・・
受付:亡くなられたご自身の夫や、妻との会話は、それはそれは大人気でございます。
心にあいた悲嘆の穴
男性:心にあいた悲嘆の穴を埋める道具として、AIがとても役に立つことは理解できます。ただ、そのツール(道具)が継続的な課金につながるというのは、何か胸にひっかかるのですが。
受付:人の死を扱う「ビジネス」はたくさんありますよ。教会や寺では死者のために祈り、お金を得ていますし、葬儀社は死んだ人のお別れ会を催し、遺族に金を支払わせます。さらに、霊能者なるものが口寄せでお金を得るのも「ビジネス」です。
男性:口寄せ?
受付:死者の霊魂を自分の体に乗り移らせ、その霊の代わりにメッセージを語ることです。
男性:ああ、テレビで見たことがあります。
受付:私共が「故人のデータ」で死者との関係を媒介したとしても、何も問題はございません。
男性:このサブスクを一旦始めると、なかなかやめられませんね。
受付:はい、それが私どもの企業戦略のかなめです。
自身の音声をAIに学習させれば
男性:私自身の音声、姿、人生の隅々までデータを幅広くAIに学習させておくことは可能ですか?
受付:可能です、有料ですが。ただ、あまりおすすめはしません。
男性:でも、やってみたいのです。
受付:あなたご自身が亡くなった時の準備をなさろうというのですか?
男性:いえ、私は自分の分身をつくりたいのです。
受付:分身をつくる?
男性:そうです。私と同じ方法で同じように考え、私と同じくらいの知識をもち、その知識をもとにヒトと会話までしてくれるAIを分身にして、その分身に私の代わりに仕事をさせるのです。
受付:あなたは、どうなさるおつもりですか?
男性:ゆったりくつろいでいたいと思います。
受付:なるほど。ただし、1か月に3分仕事をさせるのに、数万円かかりますよ。
男性:そ、そう・・・ですね。
受付:さらに、お気をつけください。
男性:何にですか?
受付:あなたのふりをしているAIは、様々なことを電話で話します。
男性:私のふりをして?
受付:そうです。電話の向こう側で話をしている人は、生きているあなたと話をしていると思っています。
男性:ちょっと、まずいような気がするな。
受付:生きているうちに分身をつくるということは、そういうことなのです。
男性:私の分身が仕事をしてくれれば、私は楽ができるじゃないですか?
受付:分身の会話の内容に、生きているあなたが、すべての責任を背負わねばなりません。約束も守らねばなりません。契約も結ぶでしょうし、相手の出方によっては、分身は辛辣な言葉を使うかも知れません。よろしいのですね?
文責 玉木英明