都会のねずみといなかのねずみが
いなかの鼠:やあ、都会のねずみくん!遊びに来たよ!
とかいの鼠:元気かい、いなかのねずみくん?
いなかの鼠:あのなぁ、その呼び方、ひっかかるなぁ。
とかいの鼠:どう呼べば満足だ?
いなかの鼠:郊外のねずみとか、カントリーマウスとか、何かいい呼び方、あるだろ?
とかいの鼠:わかるけど、イソップ童話の時代から、君は「いなかのねずみ」だったはずだよ。
いなかの鼠:それにしても、都会のねずみといなかのねずみの登場だなんて、タマキタイムズの著者も毎月ちからが入ってるな。
とかいの鼠:右の絵を作るだけで半日かかったそうだよ。
いなかの鼠:いやはや、こんなに大きな駅は初めてだ。
とかいの鼠:ここが東京駅さ。日本中から人が集まって来る巨大な駅だ。
いなかの鼠:こんなに人ばかり多くて、息がつまらないか?
とかいの鼠:人が多いからいいんだよ。活気があるじゃないか。
いなかの鼠:ヒトが多ければ「活気」があるのか?
とかいの鼠:たくさんの人が集まれば、たくさんのアイデアが生まれる。アイデアがあれば人がわくわくする。都会とはそういう場所だ。
いなかの鼠:いなかにも、いいアイデアはあるよ。
とかいの鼠:それは認めるけれど、競い合う機会が都会は多い。良いもの、気に入られるものしか勝ち残っていけない。
いなかの鼠:それはどうかな。いろんな人間がいるわけだから、価値の高さを望む人もいれば、質よりも量を欲しがる人もいる。派手なものがいい人も地味なものがいい人もいる。前向きな人も後ろ向きの人もいる。ということは、どんな人だって生きていけるのが都会なのじゃないのかな?
とかいの鼠:確かに、乞食(こじき)は都会にしか、いないね。
東京から大阪へ3~4分間隔で出発
いなかの鼠:ところで、あの素敵な列車は、何だい?
とかいの鼠:あれが新幹線さ。かっこいいだろ?
いなかの鼠:おお、新幹線か!何だかヘビみたいだね。
とかいの鼠:あれがN700系と呼ばれる全長15m近いノーズを持った列車で、トンネル突入時のドンという音(トンネル微気圧波)をなくすなめに、日本の空力の粋を集めて設計されてる新幹線だ。
いなかの鼠:なるほど。だから形がいいんだね。
とかいの鼠:安全で、時刻に正確なことも世界で有名さ。それに驚くほどの頻度(ひんど)で走ってるよ。
いなかの鼠:驚くほどの頻度?
とかいの鼠:そう、東京発→新大阪方面は1時間に12~13本の「のぞみ」が走ってて、そこに「ひかり」と「こだま」が加わるよ。
いなかの鼠:ええ?ということは、のぞみだけでも3~4分おきに走ってるってこと?
とかいの鼠:そのとおりさ。
新幹線劇場・7分間の奇跡
いなかの鼠:ところで、新幹線が到着して、乗客が降りた後に入っていく清掃員たちが、すごく素敵なのだけれど。
とかいの鼠:やっぱり気がついたね。あれが有名な人たちだ。
いなかの鼠:有名?清掃員が?
とかいの鼠:そうさ。世界的にも有名で、アメリカCNNやニューヨークタイムズ、英国BBC、さらにはハーバード大学の教材としても取り上げられてる人たちだよ。
いなかの鼠:どうして?おそうじする人・・・でしょ?
とかいの鼠:君がここで彼らや彼女らを見ていて、どうして素敵だと感じたの?
いなかの鼠:ふつうの清掃員たちと何か大きくちがっているような気がしたのだ。
とかいの鼠:どういうふうにちがうの?
いなかの鼠:到着した新幹線から降りていく人たちに、清掃をしている人たちが笑顔であいさつをして、止まっている10分少々の間に、すごい手際のよさで清掃をしているじゃないか。
とかいの鼠:そう。世界中の人たちが「7分間の奇跡」と呼んでいる。驚異的な速さだ。
いなかの鼠:ぼくの学校のそうじ時間には、一生懸命働くやつと、サボるやつが必ずいて、うざうざ時間つぶししてる連中がいるのが常なのに、このスタッフの動きはまるで、芸術だ。
とかいの鼠:そう。座席カバーからテーブル、窓枠までピカピカに仕上げて、動きに無駄がない。しかも一車両に一人きりだ。まるでパフォーマンスのようだと世界中の人たちが感動している。
いなかの鼠:さらに、清掃がおわってスタッフ全員がホームに整列して一礼して、新しい乗客を迎えてるよ。
とかいの鼠:そう、清掃員までお辞儀する鉄道は見たことがないよね。
プライド(誇り)を持った清掃員
とかいの鼠:早くてきれいで、さらに「おもてなし」の精神があふれてるよね。
いなかの鼠:それに、なんだか、自信たっぷりだね。
とかいの鼠:クリスマスにはサンタクロースの衣装で清掃活動にはいるし、夏にはアロハシャツで清掃に立つ。いずれも、みんなが同じ季節にちなんだおしゃれな制服に替えるのさ。
いなかの鼠:カメラを向けられることに誇りをもち、見られていることを意気に思っているのは、いったいどうして?
とかいの鼠:彼ら・彼女らが、新幹線を運行する上において大切な一員であることを意識しているからさ。
私たちは清掃員ではなくおもてなしをする人
とかいの鼠:じつは、以前は清掃会社に入ってくる人たちは、清掃は汚い仕事であると思っていて、プライドを捨てて入ってくる人たちが多かったというよ。
いなかの鼠:想像はできるね。
とかいの鼠:清掃員とは、よごれの目立たない黒っぽい服で、かくれるように掃除をする人と自分自身で思っていたから、モチベーションも低かったそうだ。
いなかの鼠:それが、新幹線劇場と呼ばれるようにまでなったのは、どうして?
とかいの鼠:国鉄出身の矢部輝夫という人が、テッセイという新幹線の清掃会社を起こした時に「清掃の時間」ではなく「新幹線劇場のショータイム」にしようとアイデアを凝らしたのだ。
いなかの鼠:ショータイム?
とかいの鼠:そう。まずは、ショータイムなんだから、清掃員のための色々なおしゃれな制服を用意した。
いなかの鼠:何種類も用意したってこと?
とかいの鼠:そうだ。そしてそれを63歳の女性が家に持ち帰ってお孫さんに着てみせたら、「おばあちゃん素敵だ」と家族で大騒ぎだったというのさ。
いなかの鼠:幸せな光景が目に浮かぶね。
とかいの鼠:ああ、その女性が顔をくしゃくしゃにして他の清掃員たちに伝えたというよ。
いなかの鼠:うれしかったのだろうね。
とかいの鼠:そして、そういう幸せなエピソードを、広報で会社のみんなに広めたのさ。
いなかの鼠:「見られていない」と感じていた人たちが、「見られている」と感じ始めた瞬間・・・
とかいの鼠:そう、変革がおきたのさ。
いなかの鼠:そして、みんな清掃員ではなく誇りをもった「おもてなしをする人」になっていったのだね。
尊敬と誇り(リスペクトとプライド)
いなかの鼠:なんだか、ハーバード大学がこの人たちを教材として使う理由がわかってきたような気がするな。
とかいの鼠:そうだね。新幹線劇場の清掃員たちが世界で有名になればなるほど、新幹線の乗客たちのマナーがよくなってきて、東京駅に到着する列車から降りてくる人たもは、自分自身でごみを手に携えて、清掃員の方たちに「頑張ってくださいね」と声をかける人たちでいっぱいになってきたというよ。
いなかの鼠:清掃をしている人たちの姿勢が変わると、清掃をしてもらっている人たちも緊張するのだろうね。
とかいの鼠:そう、そして、使わせてもらっている側の人も「ありがとうございます」「ごくろうさまです」と笑顔と言葉で伝えれば、働いてくれている人たちを勇気づけられるということだね。
いなかの鼠:うちの家族をつれて、また東京駅へ来てもいいかな?
とかいの鼠:ああ、もちろんだとも。世界に誇る新幹線劇場をみんなで見に来るがいい。
いなかの鼠:演目は・・・
とかいの鼠:「7分間の奇跡」にきまってるだろ。
文責 玉木英明