お妃(きさき)さまが
お妃さま: かがみよかがみ。この世でいちばん美しいのはだあれ?
魔法の鏡: おお、お妃さま、今回はすごいアングルでご登場ですね。最近お見えにならなかったので、また何かたくらんでいらっしゃるのではないかと、ご案じ申し上げておりました。
お妃さま: かがみよかがみ、私の質問にこたえてくれるだけでいいのよ。
魔法の鏡: いえいえ、お妃さまと私の200年以上続いている親密な関係上、単純な質問にこたえるだけで済ませるなんてことはできません。
お妃さま:おほん、かがみよかがみ、この世でいちばん美しいのは・・・
魔法の鏡:ご安心ください。お妃さまが、年老いていくことをどれほど恐れ、世界で一番美しくなくなってしまうことにおびえていらっしゃるかは、私がよく存じあげております。
お妃さま: あのね、かがみよかがみ、世界でね、あの、いちばん・・・
魔法の鏡:たとえお妃さまが、しわがれたミイラのような姿になっても、一番美しい女性が白雪姫になってしまったとしても、私がそれを単刀直入にお伝えすることなど決してございません。
お妃さま:ええい、シャーラップ!私のセリフをさえぎって、あれこれ、ごちゃごちゃしゃべるな!
細胞分裂の寿命
魔法の鏡:お妃さま、そんなことより、私に聞きたいことが、おありなのではありませんか?
お妃さま:ど、どうしてわかったのよ。
魔法の鏡:順天堂大学の発表を見て、そろそろお妃さまが登場するころだろうと予想しておりました。
お妃さま:そ、それじゃあ話が早いわ。ね、ね、順天堂大学の開発した「若がえりのワクチン」って、いったい何なのよ!
魔法の鏡:私たちの体の細胞は、次々と分裂しているのはご存知ですね?
お妃さま:中学校の時に習ったわ。分裂して新しい細胞が生まれるのよね。
魔法の鏡:その通りです。
お妃さま:じゃ、どうして年をとるのよ?いつまでも新しい細胞がどんどんつくられてるはずでしょ?
魔法の鏡:細胞には分裂できる回数があるのです。
お妃さま:え?回数がきまってるの?
魔法の鏡:そうです。何回くらい分裂できると思いますか?
お妃さま:・・・永久に分裂できると思ってたわ。
魔法の鏡:細胞の分裂寿命というものがあって、数十回で分裂しなくなるのです。
お妃さま:分裂しなくなってしまった細胞?そんなの、細胞じゃなくない?
魔法の鏡:そうです。もはや、「異物」になってしまったわけです。
お妃さま:異物なら、排除するシステムがヒトのからだにはあるでしょ?
魔法の鏡:はい、免疫(めんえき)というシステムです。
お妃さま:化粧品を爆買いする時にお得な、ドラッグストアのこと?
魔法の鏡:それは免税やがな。
お妃さま:じょうずにツッコんでくれて、ありがとう。
老化細胞
お妃さま:老化細胞があると、どうなるの?
魔法の鏡:糖尿病や動脈硬化、アルツハイマー、腎臓病など、あらゆる慢性の病気の引き金になります。
お妃さま:なんで老化細胞ができるのよ?
魔法の鏡:実は、老化細胞ができるのは、細胞への様々なストレスが原因になっていることがわかってきたのです。
お妃さま:ストレスのかかった細胞?
魔法の鏡:「炎症分子細胞」といいます。
お妃さま:どんなことが、細胞のストレスになるってのよ?
魔法の鏡:肥満や高血圧は細胞への代表的なストレスです。
お妃さま:ストレスで細胞が「悩む」とでもいうの?
魔法の鏡:悩みはしませんが、長い間に細胞の中の情報の一部が欠けたり、誤った情報になってしまうのです。
お妃さま:それって、がん細胞のことじゃないの?
魔法の鏡:その通りです。
できたがん細胞の分裂を防ぐ
お妃さま:その炎症分子細胞とやらが、がん細胞になったら困るわ。
魔法の鏡:一つ防御システムがあります。
お妃さま:防御システム?
魔法の鏡:細胞が分裂できないように、自分で老化細胞のスイッチを入れるのです。
お妃さま:おお、がん細胞ではなく、老化細胞になるだけなら、とりあえず安心ね。でも、老化細胞が増えていかない?
魔法の鏡:はい、老人になっていきます。
お妃さま:ど、どうやって老人が・・・はじまるの?
魔法の鏡:老化細胞が血管にたまれば動脈硬化、心臓にたまれば心不全、などなどです。
お妃さま:なるほど。老人になるほど多くなる病気ね。
魔法の鏡:その通りです。
お妃さま:それじゃ、その、老化細胞を取り除けば、若いままでいられるかも知れないっていうこと?
魔法の鏡:そうです。
セノリシス
魔法の鏡:老化細胞を除去する考え方を、セノリシスといいます。
お妃さま:背中でも、頭でも乗ってくれていいわ!若くなれるのならば!
魔法の鏡:ただ、問題があります。
お妃さま:そ、それは、何ですのや?
魔法の鏡:お妃さまは、関西人だったのですね?
お妃さま:動揺すると、なまるのや。
魔法の鏡:目的の老化細胞のみを除去することが難しいのです。
お妃さま:除去しちゃいけない細胞を、取り除いてしまうと・・・
魔法の鏡:ひどい副作用が起こります。
お妃さま:順天堂大学の人たちが成功したのは、いったい何?
魔法の鏡:彼らは、その老化細胞の除去に、ワクチンを使ってみたのです。
老化細胞除去ワクチン
お妃さま:ワクチンって、あのコロナウイルスで使ったみたいな?
魔法の鏡:そうです。
お妃さま:でも、コロナウィルスなら「敵」がはっきりしてるから攻撃しやすいでしょうけど、老化細胞はいままでそのヒトの体の中で長いこと普通の細胞としていっしょに生きてきた、いわば「仲間」でしょ?そんな細胞を見つけ出すことなんて、できるの?
魔法の鏡:順天堂大学の南野徹教授が、老化細胞に特異的に発現する老化抗原が、いったい何であるのかを調べました。
お妃さま:どうやって?
魔法の鏡:老化したヒトの血管内皮細胞の遺伝子情報を解析しました。その結果、GPNMBという分子が細胞老化のマーカーとなる抗原であることを突き止めたのです。
お妃さま:そのGPNMBを標的としたワクチンをうてば、老化細胞がなくなるのね?
魔法の鏡:そのとおりです。
アルツハイマー病を克服できるか
お妃さま:は、はよ、はよ、そのワクチン、ちょうだい!
魔法の鏡:今、順天堂大学での研究では、血管内皮細胞に蓄積した老化抗原を取り除くワクチンの開発に成功したのですが・・・
お妃さま:なによ、その歯切れのわるい言い方は。
魔法の鏡:他の組織の老化細胞では、別の老化抗原が存在することが予想されます。
お妃さま:ということは、器官ごとに異なる老化抗原を標的としたワクチンが必要だってこと?
魔法の鏡:そうです。
お妃さま:いちばん急がなければならないのは、たとえば、どんな病気?
魔法の鏡:アルツハイマー病でしょう。
お妃さま:どのくらい、アルツハイマーで困ってる人がいるの?
魔法の鏡:世界では5500万人を超えています。
お妃さま:日本では・・・
魔法の鏡: 2025年には、65歳以上の5人に1人がアルツハイマー病です。
蓄積しているのは
お妃さま:あ、あの・・・ちょっと、きいてもいいかしら?
魔法の鏡:どうぞ、なんなりと。
お妃さま:顔に蓄積した老化細胞を取り除くワクチンは、開発してるの?
魔法の鏡:「顔」という臓器はありません。
お妃さま:じ、じゃ、「素肌」は?
魔法の鏡:それも臓器ではありません。
お妃さま:じゃ、「スタイル」は?
魔法の鏡:お妃さま、「スタイル」という臓器もございません。
お妃さま:ああ、こうしている間にも、もしかしたら、白雪姫は蓄積した老化の抗原を取り除くワクチンを接種しているかも知れないわ!
魔法の鏡:お妃さまが蓄積していらっしゃるのは・・・、老化細胞ではないようです。
お妃さま:私が老化細胞を蓄積してない?・・・じゃ、何を蓄積しているというのよ?
魔法の鏡:お妃さまが蓄積しているのは、白雪姫へのねたみ、やっかみ、ジェラシー、嫉妬(しっと)、羨望(せんぼう)、やきもち、そねみ・・・などの労過災亡(ろうかさいぼう)とでも呼ぶべきでしょうか。
文責 玉木英明