おばあちゃん型ロボットが
ワシモ: ひよりちゃん、こんにちは!
ひより: わっ!びっくり!あなた、だれ?
ワシモ: わしは、おばあちゃん型ロボット 「わしも」じゃ。
ひより: ロボット?
ワシモ: そうじゃ。おばあちゃんがしんじゃって、毎日ひよりちゃん泣いてたじゃろ?だから、あんたのパパが、わしを作ってくれたのじゃ。
ひより: 歩くとカタカタなつかしい音がするわね?
ワシモ: あんたのおばあちゃんと同じ入れ歯を使ってるからさ。
ひより: あなた、歩けるのね?
ワシモ: カタツムリよりは早いけど、興奮したカブトムシよりは遅いよ。でも、本当は新幹線より早く走れちゃうのだ。
ひより: ヘンテコな性能のロボットね。
チャットGPTが文章を作ってくれる
ひより: 「わしも」さん、ちょっときいてもいい?
ワシモ: 「さん」をつけずに「わしも」ってよんでおくれ。
ひより: じゃ「わしも」、最近のロボットはすごく進化してるわね。
ワシモ: そう、AI(エイ・アイ)と呼ばれる人工知能システムが、ロボットをこんなにすごいものに変えてきたのじゃ。
ひより: チャットGPTというのを知ってるわ。私がした質問に、すごく詳しく、しかも豊富な情報量をもって答えてくれたわ。
ワシモ: 学習機能がすごいから、今までに蓄積した知識とかデータを瞬時に文章化してくれるのじゃよ。
ひより: 大学生や会社員が論文や報告書を作成するのに、ゼロから調べなくてもAIが的確に文章を作ってくれるから、便利だってみんな言ってるわ。
ワシモ: そうじゃね。ただ日本では、会社員が文章を書いてくれるから便利だとか、大学生が論文やレポートを書いてくれるから便利だとか、極めて些末なことばかりに論議が集中してしまうのが残念じゃ。
重度の全身麻痺の女性
ひより: 文章を書かせたり、知らないことに答えてもらったりすること以外に、役に立つことがあるの?
ワシモ: AIに「文章や言葉」でなく、言語を話そうとしている人間の脳の神経に流れる電流の変化を学習させるための研究をしている人たちが、おるのじゃよ。
ひより: あのね、ひよりにもわかるように説明して。
ワシモ: アメリカのカリフォルニアにアン・ジョンソンという女性が住んでいるのだけれど、彼女は30歳の時に脳卒中を起こして、重度の全身麻痺になってしまったのじゃ。
ひより: 30歳の若さで?
ワシモ: そうじゃ。当初は自力で呼吸することもできなかった。
ひより: お気の毒に…
ワシモ: 彼女には生後13か月の赤ちゃんと8歳の子供、夫がいたのじゃが、おどろいたことに、意識も感覚も正常で、体の筋肉だけが動かない状態だった。
ひより: 考えたり感じたりすることはできたのね?
ワシモ: そうじゃ。だから周囲の呼びかけに応えて苦しいリハビリに耐えたアンさんは、数年で自分で呼吸ができるようにはなった。
ひより: …呼吸だけ?
ワシモ: 顔の筋肉も微妙に動かすこともできるようになったのじゃが、どれだけリハビリに励んでも、言葉は全く発することができなかったのじゃよ。
ひより: 考えたり感じたりすることができるのに、動けないなんて、なんて悲しいことなのでしょう。
脳の電極で神経反応をAIに学習させる
ワシモ: ところが、じゃ。
ひより: いつものタマキタイムズの「転」の場面ね。
ワシモ: そう、昨年8月23日ネイチャー誌に掲載された論文が人々を驚嘆させた。
ひより: な、な、じらさんと、はよ教えて!
ワシモ: ひよりちゃん、関西の出身じゃったか?
ひより: いや、興奮したり動揺すると、なまりますのや。
ワシモ: カリフォルニア大学・サンフランシスコ校(UCSF)の脳神経外科のエドワード・チャンという医師らは、脳神経が発する複雑な信号パターンをAIで読み取り、文字化することに挑戦していたのじゃ。
ひより: 脳神経が発する信号の文字化?
ワシモ: そう、脳の中で「話をするときに使う部分」をおおうように、250個を超える電極をアンの脳に埋め込んだ。
ひより: 電極?脳に?頭がい骨の中の?
ワシモ: そう、脳に「じかに」じゃ。
ひより: …それで、アンさんには何をさせたの?
ワシモ: まずは、同じ単語を何度も頭の中で考えてもらう。例えば「愛してる」という言葉を発しようと何度も何度も繰り返し脳で考えてもらうのじゃ。
ひより: するとAIは…?
ワシモ: 「愛してる」という言葉を脳が発音しようとした時の神経細胞の微弱な電流の流れを読み取って、「愛してる」に相当する電流の流れを特定して、その電流が脳に流れた時には「愛してる」という言葉に言語化して出力させるのじゃよ。
ひより: そんなこと、はたしてできるものなの?
ワシモ: 人間だと一つの単語のパターンを解析するだけでも何週間もかかるだろうけれど、AIならばその解析をはるかに速く判読できるのじゃ。しかも同じパターンの判読は極めて正確で、いくつかのパターンが重なってもアンさんが言おうとしていることに、限りなく近づくことができたというよ。
ひより: アンさんも、根気強く脳で単語を考え続けたのね。
ワシモ: そうじゃ。アンさんも実験には献身的に協力して、何週間も言葉を頭で思い浮かべ続け、その時脳が発する信号のパターンを、AIシステムに学習させ続けた。
ひより: そ、そ、それで、うまいこといきましたんか?
ワシモ: また動揺しているようだね。1000以上の単語のかたまりからなるフレーズでAIアルゴリズムを「訓練」し続けた。今では1分間に80語弱のペースで脳信号を解読して言葉に変換できるようになった。
ひより: ごついやないですか!
ワシモ: さらに、画面上にデジタルアバターを映し出し、その口と表情を動かすことも同時に行わせることに成功したのじゃ。
ひより: デジタル・アバター!
ワシモ: そのアバターが話す声は、アン自身が結婚式でスピーチした時の声をもとに言語学習AIを使ってアンの声を再現、本人が感情をもって話をしている情景に限りなく近づけようとしたのじゃよ。
絶望の底から人を救う
ワシモ: このシステムの被検者として参加するようになったアンさんが「一夜にしてすべてが奪われた」と健康であった自分が全身麻痺になった感情を、AIを通じて伝えた内容は、UCSFの研究者たちを大きく揺り動かしたというよ。
ひより: アンさんが脳に電極をつないでAIにデータを送る実験を、がんばって続けてくれることは、人類にとって大きな貢献ね。
ワシモ: そのとおり。アンはAIを通じて「この研究に参加し貢献できているおかげで人生の目標ができた。世の中の役に立っている、私にも仕事があるんだという感じに満ちている。本当の意味で生きることができている」と語っているそうじゃ。
ひより: なんだか、わくわくするようなAIの最新技術ね。
ワシモ: そうじゃ。だから、論文や報告書をチャットGPTに書かせて「便利だ」なんて言ってるだけで終わらず、AIの未来にある新たな技術につなげないといけないのさ。
ひより: ねえねえ、タマキタイムズの文章を毎月考えるのって、大変でしょ?
ワシモ: ああ、作者は毎月後半の原稿〆切にむけて、必死に頑張ってるよ。
ひより: タマキタイムズもAIに作成してもらったらどうなの?
ワシモ: だめだめ。タマキタイムズの作者のひらめきは特殊じゃから、AIでも彼の思考パターンが全くよめないのじゃ。
文責 玉木英明