2022-11 ひきこもり。動けない、動かない、活動する場がない?
絵にもかけない美しい場所で‥
カメ: 乙姫さま、乙姫さま!
乙姫: おお、ミスター・カメ、お久しぶりね!
カメ: その呼ばれ方、少し抵抗があるのですが‥。
乙姫: 竜宮城のスタッフには、敬称をつけて呼ぶのが私の主義よ。
カメ: 「カメさん」のほうが‥
乙姫: あそこにいるのはパリ出身のマドモアゼル・ヒラメ、そこにいるのがマドリッド出身のセニョーラ・タコ、そして彼女がベルリン出身のフラウ・イソギンチャクよ。
カメ: 前半のグローバルな響きと、後ろのべたべたの日本語とが、絶妙な感じですね…
乙姫: スタッフたちの上質な労働環境は、竜宮城の誇りよ。
太郎さんは
乙姫: ところで、私に何かご用かしら?
カメ: はい、実は太郎さんのことですが‥。
乙姫: 「太郎さん」って、あの浦島の?
カメ: そうです。あの方がこの竜宮城にいらっしゃってから、何年がたちましたか?
乙姫: そうねえ、かれこれ数十年かしら?
カメ: いくらごちそうがおいしくて、鯛やヒラメの舞いおどりがおもしろいといっても、ずっと何もせずに、タダで宴を楽しんでいる男って、おかしいと思いませんか?
乙姫: ‥まぁ、そう言われれば‥。
カメ: いじめられてたのを助けてやったお礼とはいえ、来る日も来る日も何十年も、もてなされる席に座っていることが、気にならないとは‥
乙姫: まあ、普通の神経じゃないことは確かね。
カメ: もしかすると‥
乙姫: もしかすると?
カメ: 申し上げにくいのですが‥
乙姫: いいから、言ってみなさい。
カメ: あの方は、俗に言う「ひきこもり」ではないかと思うのです。
乙姫: ひきこもり?
東京都江戸川区の調査
乙姫: 「ひきこもり」って、世の中にたくさんいるの?
カメ: 今年春、人口70万人の東京都・江戸川区で大規模な調査を行いました。
乙姫: どんな調査?
カメ: 「ひきこもり」がどれだけいるか調べるアンケート調査です。
乙姫: 「あなたはひきこもりですか?」という質問に「はい、ひきこもりです。」なんてこたえる人は、いないような気がするけれど。
カメ: 14歳以下の不登校の生徒は「ひきこもり」そのものですし、大人の場合には「給与収入があるのに課税がない人」はひきこもりの可能性が大きいと、個々に聞き取り調査したのです。
乙姫: 江戸川区…がんばるじゃないの。それで、何がわかったの?
カメ: 何と江戸川区だけで9000人以上の「ひきこもり」がいることがわかったのです。
乙姫: すごい人数ね。
カメ: はい、人口76人に一人の割合です。
乙姫: …何歳の「ひきこもり」がいちばん多いの?
カメ: 20歳未満から80歳以上まで、全ての年齢層にひきこもりがいて、特に30代~50代の間だけで50%以上います。
乙姫: …男と女、どっちが多いの?
カメ: 女性のひきこもりの方が、多いことがわかりました。
乙姫: 一度ひきこもると、何年くらい続くの?
カメ: 人それぞれです。1~3年未満が28.7%といちばん多いのですが、10年以上ひきこもっている人も25.7%います。
乙姫: …えらい長い期間、引きこもるのやね。
カメ: 乙姫さまは、関西人だったのですね?
乙姫: 動揺すると、なまりますのや。
「ひきこもり」の定義
乙姫: ミスター・カメ、そもそも「ひきこもり」ってどんな人なの?
カメ: 「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人とほとんど交流しない人」だそうです。
乙姫: 確かに、太郎さんは仕事には…
カメ: 何年も行ってませんね。
乙姫: 学校にも…
カメ: 何年も行ってませんね。
乙姫: 誰かと交流は…
カメ: タイやヒラメだけですよね。
乙姫: 家族との交流は…
カメ: 何十年も、ありませんよね。
乙姫: ひきこもりの人は、何を求めているの?
カメ: 32%が「何も必要ない、今のままで良い」ということでした。
乙姫: 太郎さんの、まさに今の状態そのものね。
原因は
乙姫: ひきこもりになってしまう原因は、何なの?
カメ: 勉強での成績が下がると、ひきこもりになりやすいそうです。
乙姫: 太郎さんは、つるかめ算は得意だって言ってたわよ。
カメ: でも、ここで何年過ごしているのかすら、彼は数えられていません。
乙姫: …計算は苦手なようね。
カメ: 仕事がうまくいかなくて、引きこもる人も多いそうです。
乙姫: あなたを海岸で助けた「助っ人」としての腕は、よかったわけでしょ?
カメ: でも、私をいじめていた連中は、彼より小さな子どもばかりで、マッチョな奴がいたわけではありません。
乙姫: 年上が「にらみをきかせた」だけだってことね。
カメ: 失恋も、引きこもりの原因になるそうです。
乙姫: 太郎さんの失恋?相手は誰かしら?イカ?シャコ?それともクラゲ?
カメ: いじめられることも、引きこもりの原因になるそうです。
乙姫: いじめられてたのは、カメのあなたでしょ?
カメ: 不安、焦りがあると、ひきこもりやすいようです。
乙姫: あそこで口を開けて、ニコニコしながら毎日、宴で手拍子してるあの太郎さん、どう見たって、不安や焦りがあるとは思えない顔だわ。
「ひきこもり」と「なまけもの」
乙姫: 太郎さんは、精神に傷をもつ「ひきこもり」というのとは、どうも違うようね。
カメ: そうですね。ただ、やってることは、ひきこもりより堕落的かも…
乙姫: 悩みもないのに働かなくて、宴ばかり楽しんでいる人は…
カメ: …なまけものと呼ぶべきでしょうか?
乙姫: そんなところかしら。
カメ: ただ、海岸で私を助けてくれた時の太郎さんは、もっと男気にあふれた人であったような気がします。
乙姫: ということは、あの人を「なまけもの」にしてしまったのは…だれ?
カメ: どうも、私たちに責任がありそうですね。
活躍できる場をつくるには
乙姫: 社会の中の働けない人は、助けてあげるべきよね。
カメ: はい、思いやりをもってアシストする必要があると思います。
乙姫: 太郎さんは、働けない人かしら?
カメ: いいえ、働く能力は十分にあると思います。
乙姫: そうよね…。
カメ: 乙姫さま、この竜宮城で太郎さんに働いていただく場をつくってはいかがでしょうか?
乙姫: そんなことをしたら、よい子のお話の結末が変わってしまわない?
カメ: でも、このままでは、浦島太郎は「永遠に年月がたつのを忘れて遊びほうけていた人」のままです。
乙姫: そうね…。
カメ: どの部署で仕事をしていただきますか?
乙姫: では、竜宮城のお土産の販売をしてもらいましょうか。
カメ: お土産って、あの「箱」ですか?
乙姫: そうよ。竜宮城のお土産といえば、あれしかないわ。あれは「スピードアップ・エイジング」の切り札、乳幼児を一気にたくましい青年に成長させ、保育園児をまぶしいほどの美しい女性へと成長させる魔法の発煙装置よ。絶対にヒット商品になるわ。
カメ: でも乙姫さま、吸い込む煙の分量をあやまれば大変なことに…
乙姫: しーっ!よくばって吸い込みすぎたとしたら、吸い込んだヤツが悪いのよ。
カメ: …みんな、あれを買ってくれるでしょうか?
乙姫: 心配なの?
カメ: 竜宮城のお土産を「開けてはダメ」ということは、幼児でも知っています。
乙姫: 強気で売りましょう。太郎さんにテレビショッピングで実演してもらうのよ。
カメ: 乙姫さま、あのお土産の売り方を変えてはいかがでしょう?
乙姫: 売り方を変える?
カメ: 「箱」として売らずに、「Tama」という銘柄のたばことして売り出すのです。
「Tama Tobacco タマ・トゥバコゥ」、これなら竜宮城のお土産と誰も気づかないと思います。
乙姫: なんだか、タマキタイムズにふさわしい名前になってきたわね。
やっぱり浦島太郎
カメ: 乙姫さま!大変です!
乙姫: ミスター・カメ、どうしたの?騒がしいわよ。
カメ: 太郎さんが、あのたばこを、かってに大量に吸ってしまいました!
文責 玉木英明