2023-05 ひな人形にこいのぼり。数の減りゆく日本の伝統
屋根より高い‥
コイ:屋根よ~り~ た~か~い こいのぼ~り~
人形:またいつもの、いやみな長調の歌が 聞こえてきたわ。
コイ:おっ、ひな人形のおねえちゃん、こんにちは~!
人形:そういう呼び方はやめて。軽々しい女にみられるじゃないの。
コイ:おねえちゃん、タマキタイムズ2019年5月号以来だね!元気~?
人形:いつものように、高いところから、上から目線のあいさつね!
コイ:今日はこどもの日、国民の祝日だよ!
人形:それも頭にくるわ。5月5日は休日、しかもゴールデン・ウィークという国民が大喜びする長期休暇の一部なのに、3月3日は休みじゃないのよ!
コイ:さつき晴れというのは、今日みたいな日のことだよね~。
人形:何をのんきなこと言ってるのよ!だいたい魚類が空を泳ぐなんて生意気よ!
コイ:カープ、カプカプ!
人形:な…なによ、そのカプカプいうのは?
コイ:笑い声だよ。
人形:あのねぇ、コイがカプカプ笑うなんて、ちょっと短絡的すぎない?
コイ:カープ、カプカプ!い~ら~か~の波と~雲の波~、はい、ごいっしょに!
人形:さ~か~ま~く波の~ おほん、おほん、のせないでよ!だいたい男の子のお祝いはにぎやかで明るい歌なのに、女の子の「ひなまつり」は、なんで悲しい短調なのよ!
空をおよぐ魚に、外国の人は
人形:外国の人たちは、この季節に日本の町で出逢うこいのぼりに、みんな「ワンダフルcarp streamer!」と言いながら写真をとってたわ。
コイ:ひな人形だって、家の中に華やかに、厳かに飾られるじゃないですか。
人形:家の中までのぞかなきゃ、私たちの姿は見られないわ。それにひきかえ、埼玉県加須市のクレーンで上げる全長100mのこいのぼりなんか、市民や外国人旅行者たちもたくさん集まって、もうえらいさわぎよ。
コイ:和室に静かにたたずむひな人形、すてきだと思うけど。
人形:何いってんのよ。東京タワーに毎年飾られる334匹のコイなんか、1ヶ月間も夜のライトアップが行われて、一千万人の都民の目にふれるのよ!
コイ:ひな祭りに食べる「ひなあられ」、ぼくは大好きだよ。
人形:あのねえ、あれは駄菓子!こどもの日の柏餅(かしわもち)の方が、どう見たって高級よ。
コイ:菱餅(ひしもち)は、だめなの?
人形:あんこ入ってないじゃない!
コイと恋とがかけられて
人形:神戸にある北野天満神社なんか、コイに水をかければ願いがかなうと、ハート型の絵馬とか、コイの張り子とか、コイと恋とがかけられてて、カップルでにぎわって大さわぎよ。
コイ:でも、千葉県の遠見岬神社の階段ひな壇も圧巻だよ。
人形:うわっ!ほ、ほんとうね!このひな壇、何段あるの?
コイ:60段、1500体のひな人形が並べられてるよ。
人形:こんなの、雨が降りだしたらどうするのよ?それに比べて、日本中のいろんな場所でたくさん吊されて「こいのぼり祭り」なんてのが催されてるわ。すごくうらやましいわ。
たくさんのこいのぼり、
ひな人形が集まるわけ
人形:日本中で、こいのぼりがいっぱい吊されたり、多くのひな人形が神社の階段に飾られるってことは、生産者にとっては、売れて売れてウハウハね!
コイ:いや、それが逆なんだ。
人形:どういうこと?
コイ:たくさん吊されてるこいのぼりやひな人形は、使い古しを「寄贈」されたものばかりなんだよ。
人形:寄贈…って、もらったものってこと?
コイ:そう、子どもが大人になって、家で飾られてたこいのぼりやひな人形がいらなくなって、ゴミとして捨てるわけにもいかずに押し入れの中に眠っていたのだけれど、かけ声をかける人がいたから集められた、という「中古品」なのさ。
少子化の影響
人形:日本国民は「こいのぼり」や「ひな人形」を、あまり飾らなくなってきたの?
コイ:そうなんだ。
人形:それって、子どもの成長を願う気持ちが薄れてきたってこと?
コイ:子どもにかける思いは今も昔も同じさ。
人形:それなら、こいのぼりやひな人形はバンバン売れても不思議じゃないわ。
コイ:日本の少子化の勢いが、すごいんだ。
人形:あのねえ、私にわかるように説明してよ。
コイ:一組の夫婦に子どもが何人産まれたら、日本の人口が減っていかない?
人形:二人…かしら?
コイ:そうだよね。二人の夫婦から二人の子どもが生まれれば、人口が持ちこたえる。ただ、事故や病気で子どもが亡くなる場合を考えると、出生率は2.1くらいが理想的らしいね。
人形:それ以下だと、どうなるの?
コイ:出生率が2.0~1.5だと「緩少子化」、1.5以下だと「超少子化」ということになる。
人形:ちょっと、聞くわよ。日本の出生率って、どれくらいなの?
コイ:2005年に1.26で最低だった。東京だけをみると2021年に1.13だ。全国でこの1年間に15歳未満の子供は16万人減った。
人形:全人口のうちのどれくらいの割合が15歳未満なの?
コイ:全人口の12.7%しかいない。40年前の3分の1にまで減ってしまった。
人形:…あかんやないの。
コイ:あきまへん。
人形:まねせんとって。
コイ:すんまへん。
日本の住居の形態
人形:こいのぼりやひな人形が飾られなくなった理由は、少子化だけ?
コイ:実は、最近の日本人の住居に原因があるんだ。
人形:日本人の住居?
コイ:そう、アパートやマンションなどの「集合住宅」で、こいのぼりを飾れると思う?
人形:ポールを立てる場所もないわね。
コイ:窓からこいのぼりを垂らすと、下の階の窓を覆ってしまうでしょ?
人形:ひな人形も飾れないの?
コイ:「集合住宅」はコンパクトだから、人形のために大きなスペースをとれないのさ。
人形:一戸建て住宅ならできるでしょ?
コイ:小さな子供のいる若い親たちの持つ一戸建ては、庭がとても小さかったり、庭自体がない場合もある。
人形:「おひなさま」や「こいのぼり」を置くことができるのは、大きな家に住んでいる人だけの特権になってしまったのね。
中古のこいのぼりも、やがてなくなる?
人形:いまある中古のこいのぼり、やがて数がへっていくような気がするのだけれど。
コイ:今、日本中で飾られている数多くの「寄贈こいのぼり」も、古くなり始めたし、さらに「寄贈してもらえる」こいのぼり自体が、突然なくなり始めたそうだよ。
人形:これって、「こいのぼり」と「ひな人形」の問題なの?
コイ:いや実は、子どもや若者が急激に欠けてしまう、国民の人口比率の問題だ。
人形:どんな社会になれば、子供たちの数が増えていくのかしら?
コイ:夫婦が安心して子どもを産み、育てられる社会さ。
人形:もし、そんな社会を日本政府が作り上げられたとしたら、子どもの数はどうなるかしら?
コイ:こいのぼりじゃなくて…
人形:こいのぼりじゃなくて?
コイ:うなぎのぼりさ。
文責 玉木英明