2022-03 お金の価値が1年で半分以下になった国トルコ。正しい経済対策は?
お金を食べる怪獣が…
怪獣 :うっひっひ、おいしいおいしい!
少年 :大変だ!へんな怪獣がお金を食べてるぞ!
怪獣 :ぼくの食事をじゃましないでくれないか。
少年 :おまえはだれだ?
怪獣 :ぼくはカネゴンだ。
少年 :カネゴン?
怪獣 :そう、ヒトの落としたお金を横取りしたので怪獣に変えられてしまった、かわいそうな少年、加根田金男だ!。
少年 :かわいそう…なのかな?
怪獣 :この胸についてるレジスターの小さな窓の金額が、ゼロになると死んでしまうから、お金を食べ続けないといけないのだ。
少年 :それにしても、いつもタマキタイムズには驚く。今日の内容なら絶対に「突撃!カネオくん」が登場すると思ったけれど。
怪獣 :がまくち財布みたいな形の口で、お金を食べる怪獣なんて、ワクワクするだろ?
少年 :いつころ登場した怪獣なの?
怪獣 :新しいぞ。1966年だ。
少年 :新しい…?
高金利、トルコ「リラ」
少年 :ところでカネゴンの好物は、紙幣?それとも硬貨?
怪獣 :紙幣はとても美味だ。特に1万円札は、まったりとろけるような上等の味でお腹もすぐにいっぱいになるよ。でも、硬貨の味が悪いのかと言えば、そんなことはなくて、ザクザクした歯ごたえがあって、食べがいがある。食べた後、ちょっと胃が重いけどね。
少年 :日本の「円」とアメリカの「ドル」と、どっちが美味しいの?
怪獣 :どっちも美味しいよ。日本円はわさびとしょうゆをつけると最高に味がいいし、ドルはハンバーガーにはさんでケチャップをいっぱいつけて食べるのさ。でもね、このところ、特にお気に入りなのは…
少年 :え?他にあるの?
怪獣 :トルコの「リラ」も、すごく味のいい通貨だ。
少年 :どうして?
怪獣 :トルコ・リラの政策金利は、2022年1月15日で14%、世界でもトップクラスだ。
少年 :日本は?
怪獣 :日本の低金利は有名だよ。0.1%、すずめの涙さ。
少年 :金利が高ければ、いいの?
怪獣 :だって、銀行に預けたときに、たくさん利子がつく通貨のほうがいいにきまってるじゃない?ぼくは冷蔵庫に蓄えてあった「円」は、銀行で全部トルコ「リラ」に替えたよ。これでぼくの冷蔵庫の中は、どんどんふえていく!
少年 :トルコ・リラ… 危ないんじゃない?
すさまじいインフレが…
怪獣 :あのね、ぼくのもってるお金にケチをつけないでよ!
少年 :君の胸についてるレジスターは、通貨は何なの?
怪獣 :もちろん、日本円だ。何か文句あるか?
少年 :知ってるかい?トルコ・リラはこの1年間に価値が半分以下に下がったよ。
怪獣 :…な、なんだって?
少年 :トルコの通貨は、すごい勢いで価値が下がってる。
怪獣 : 金利が14%と高いから…
少年 :すさまじい勢いで、トルコはインフレになってる。年に14%の利子を得たところで、通貨の価値自体が50%以上さがってるわけだから、その価値の目減りの量は、はんぱじゃない。
怪獣 : どおりで最近「リラ」を食べても、ちっともお腹がふくれなかったわけだ。
少年 :トルコの国民ひとりひとりの給与は変わらないのに、生活するために必要なもの全てが値上がりして、国民の生活が成り立たなくなってる。
怪獣 : 1年で通貨の価値が半分以下ということは、すべて値段が2倍以上になったということか?
少年 :そう、食べ物なんか最もひどい。12月だけで36%も値上がりした。
怪獣 : 1ヶ月で4割も!
少年 :日本では2%だけ消費税を上げるだけで大騒ぎだったよね。トルコ全体が騒然としているのは当然だよね。
怪獣 : えげつないやないか!むちゃくちゃやないか!
少年 :カネゴンは、関西の出身だったのだね?
怪獣 :動揺すると、なまるのだ。
インフレなら「利上げ」がふつう
怪獣 :どうしてそんなにすごいインフレを引き起こしてるの?
少年 :じつは、経済は世界的にインフレに向かってて、イギリス、韓国、ニュージーランドは去年利上げをして、アメリカも3月には利上げ予定をしてるのに、トルコの中央銀行だけは、その逆の「利下げ」を繰り返しているのさ。
怪獣 :ちょっとまって。なんでインフレになると利上げをするの?
少年 :インフレというのは「物価が上がる」ことでしょ?
怪獣 :うんうん、わかるよ。
少年 :どうすれば物価が下がると思う?
怪獣 :お金の価値を上げてやればいいんだよね。
少年 :そのとおり。だから、市中に出回っているお金の量を減らさなきゃならない。
怪獣 :そうか。流通しているお金の量を減らすためには、利上げして、お金を借りにくく動きにくくすべきなわけだね。
少年 :そのとおり。
トルコの奇策
怪獣 :どうして、トルコ政府はそんな真逆のことをしてるの?
少年 :トルコのエルドアン大統領は、金利が下がればお金が借りやすくなってビジネスが回りやすくなって、さらに通貨リラの価値が下がれば、外国の観光客が多く来てくれるし、輸出も増えると信じているのだ。
怪獣 :…海外からの観光客は増えたの?
少年 :確かにブルガリアからの観光客は増えて「爆買い」をしているのだけれど、逆にトルコ国内の「品薄」に拍車をかけているというよ。
怪獣 :「利上げ」すれば、すむことじゃないの?
少年 :もともと高かった金利を、エルドアン大統領がこれ以上は上げたくないんだ。
怪獣 :どうして?
少年 :「利子をとる」こと自体、イスラム教では忌み嫌ってて、来年の大統領選挙で、エルドアン大統領が大きな割合を占めるイスラム教徒の大きな支援を得たい、大統領をこのまま続けたいと思うなら、これ以上、金利を上げるわけにいかないのだよ。
怪獣 :でも、国の経済がめちゃくちゃなんでしょ?
少年 :そう、学者はもちろん、経済団体、労働団体、市民まで大統領に反対し始めた。
日本の企業は
怪獣 :トルコの日本企業はどうしてるの?
少年 :トルコ国内で動く日本企業は、本来リラが安くなれば周辺の国々が製品を買ってくれるから恩恵をうけるはずなんだけれど、光熱費が月ごとに大きく増えているだけでなく、生活が成り立たなくなった従業員たちに4割もの賃上げを求められ、大幅な人件費の上昇にあえいでいるらしい。
怪獣 :大統領はほっといて、トルコの中央銀行や政府は動かないの?
少年 :通貨を守ろうと、トルコの中央銀行は先々月12月だけで5回市場介入をしたよ。
怪獣 :それだけ?
少年 :トルコ国内の最低賃金を5割引き上げるとか、リラで定期預金をした場合に為替の変動が利息を上回って損失がでたら、差額を国が補填するという「リラ建て預金保護」なんて策を打ち出した。
怪獣 :そんなことして、トルコ政府は財政的に大丈夫なの?
少年 : あぶない。極めてあぶない。国民の預金を補填しようと政府がお金をさらに印刷したら「えげつない」インフレが待ってる。そして、いったんリラが売られ始めれば、負のスパイラルで一気にトルコ経済は地に落ちる。
怪獣 :なあ、きみ、何かいい方法はないか?
少年 :…ひとつだけ、ある。
怪獣 :ほ、ほ、ほんとうか?おしえてくれ!トルコ・リラの価値、どうやったら…
少年 :簡単さ。カネゴン、君がトルコのお金を大量に食べるのさ。食べて食べてあの大統領が印刷するよりも速い速度で貨幣を減らせば、トルコのインフレは止まるよ。
文責 玉木英明