2022-12 海洋葬に堆肥葬、土葬。日本人の考えるべきことは

あの葬儀社に、また男が‥

  あの‥‥

受付: いらっしゃいませ。あなたと私の葬儀の架け橋、明日のフューネラルをクリエイトする、玉木葬式企画へようこそ。

男 : 去年、初めて採用したこの思い切った設定、評判がよかったようですね。

受付: おほめ頂いて光栄です。おや?‥あなたは、昨年、ご相談にいらっしゃった方ですね。

男 : 覚えていてくれたのですね。

受付: もちろんです。たとえお客様が「口なし」の状態になられたとしてもお顔は忘れません。本日はどんなご相談ですか?

男 : 僕は自分の葬儀が心配なのです。今回自分の葬儀のリハーサルを一人でやってみました。

受付: リ、リハーサルを?ご自分で?

男 : そうです。線香をたいて北枕で寝てみました。

受付: いかが‥でしたか?

男 : 困ったことに僕はのどが弱くて、枕もとの線香にむせて咳がとまらないのです。静かに通夜と葬儀の間、横たわっていられるかどうか、とても心配です。

受付: 亡くなられてのご就寝中に、はたして咳が出るものでしょうか?


海を愛する人のための海洋葬

受付: ご自身のお葬式の、何が気になるのですか?

男 : 実は、葬式の内容よりも、葬られ方自体が気になるのです。

受付: 葬られ方?ご安心下さい。葬儀終了後、ご遺体は火葬場で焼かれ、その後は霊園や寺、様々な場所に葬られることになります。

男 : その日本でのごく一般的な葬られ方が、いやなのです。

受付: 米国フロリダのエターナル・リーフス社は、人工漁礁に沈めるリーフボールに遺灰をまぜて海底に設置し、海の生物のすみかを作るサービスを始めましたよ。


男 : おぉ、ごついやないですか!海好きには、たまりまへんなぁ。

受付: お客様は、関西のご出身だったのですね?

男 : 動揺すると、なまるのです。

受付: 棺も墓石もない自然の状態ですから、環境にとても優しいといえます。リーフボールには複数人数分の遺灰を入れられますから、家族も共に眠れますし、それぞれのリーフボールには真鍮のメダルが取り付けられて、だれのものか分かるようになっています。

フリーズドライ埋葬

男 : 新たな葬り方ですね。ただ、ぼくは火葬されたくないのです。

受付: それならば、スウェーデンの生物学者スザンヌ・ウィーグさんが発表したフリーズドライ埋葬はいかがでしょうか。

男 : フ、フリーズドライ?まるで粉末みそ汁の製法やありまへんか!

受付: かなり動揺してますね。遺体を液体窒素でマイナス196度に急速冷凍、プロメーターと呼ばれる機械で、遺体を振動で粉々にするのです。ものの数分で微細な粉になります。水分と有害な金属を取り除くと、重量は30%ほどになり、あとはコーンやポテトからつくられた生分解性の容器につめて土に埋めるのです。

男 : スウェーデンでは、そのフリーズドライ埋葬は、もう始まってるのですか?

受付: 現時点では人の遺体はまだ処理されていませんが、ブタを使った試験はすでに行われていて、合法化に向けて検討が始まっています。

遺体を土にかえす堆肥葬(たいひそう)

受付: アメリカでは、遺体を微生物で分解して堆肥(たいひ)を作って土にかえす「堆肥葬」が合法化されました。

男 : 堆肥葬?

受付: 火葬にして遺体を燃やすには200リットルもの燃料が必要なのですが、この「堆肥葬」ならば、それが不要です。

男 : どうやるのですか?

受付: 遺体を約760リットルの木材チップを敷き詰めたモジュール容器に入れ、容器の中を150度ほどに保って酸素を送り込み、遺体の腐敗をスピードアップさせるのです。

男 : 腐敗のスピードアップ!よろしおますなぁ!

受付: またまた動揺してるようですね。細菌や微生物が活動しやすい環境をつくりあげて、最終的に1つの遺体からドラム缶4本分もの堆肥をつくりあげるのです。

男 : 焼却しないのですね?

受付: はい、焼きません。アメリカのハーランド・フォレストという会社とリコンポーズ、さらにリターンホームという会社でも堆肥葬を開始します。すでに420人もの人たちが、将来の自分の堆肥葬のために前金を支払い済みだそうです。


土葬のお墓は迷惑?

受付: あなた様は、なぜそれほどにも埋葬の仕方にこだわるのですか?

男 : それは‥

受付: ご安心下さい。日本では現在99.9%が火葬です。当社の火葬の担当者は、ドミノピザでギガ・ミートを連続100枚焼いた経験をもつ熟練技術者です。ミスなくこんがりと焼き上げる腕はピカイチでございます。

男 : いや、それが困るのです。

受付: どういうことでございますか?

男 : 実は僕はイスラム教徒なのです。イスラム教では、死後の復活のために遺体が必要だと信じられています。火葬してもらっては困るのです。

受付: なるほど。ただ、日本の法律では、土葬もできるはずですよ。

男 : 40年ほど前までは日本でも土葬がかなり多く行われていたのですが、あなたのおっしゃる通り、日本は今ではほとんどが火葬になってしまったために、土葬のできる墓地が全国に9カ所だけになってしまったのです。

受付: たった9カ所だけ?

男 : はい、行政が新たに用意してくれるつもりは全くありません。イスラム教徒も同じように税金を納めているのに、こんなことでないがしろにされるのは実に不本意です。



土葬の墓地が作れない

受付: 土地を自分で買って、そこを土葬用の墓地にできませんか?

男 : はい、実行してみようと思いましたが、うまくいきません。

受付: 市役所の窓口に行って相談されましたか?

男 : 墓地開設にあたっては、市町村の条例で近隣住民から承諾を得てくださいというだけで、役所も、どこでどういう手続きをすればいいのか明確な方法を示してくれないのです。

受付: 「だめだっていう人がたくさんいるから‥」という日本人特有の論議ですね。

男 : そうです。郷に入っては郷に従え、ここは日本だから日本のやり方に従え、という考え方です。

受付: それで、地域の住民は許してくれたのですか?

男 : 「土葬用の墓地を作りたい」とお願いしたら、住民の3分の2の人たちが反対しました。

受付: どうしてですか?

男 : 町の生活水用のため池が近いからとか、遺体をそのまま埋めると水質が汚染されるとか、遺体の埋まっているところのそばでとれた米は風評被害があるとか、そんな牧草で育った牛やブタも売れなくなるというのです。

受付: 根拠が実にあいまいですね。

男 : イスラム教徒の土葬の墓地開設についての反対運動は、大分県や宮城県、鹿児島県、新潟県と全国各地で起きています。

受付: 私たちは、葬られ方に強い「こだわり」があるのでしょうか?

男 : 例えば、あなたの大切な人がインドで亡くなったとしましょう。その遺体は必ずガンジス川に流せと言われたら、あなたはどう思いますか?しゃがんだ姿でかめに入れて必ず土葬にしろと言われたら、どう思いますか?

受付: ‥そうですね。人それぞれ、弔(とむら)い方には「こだわり」があるものですね。


先進国では

受付: 日本以外の国、先進国ではどうなっているのですか?

男 : ドイツのヘッセン州フリードベルク市では、人口3万人のうち10%がトルコから来たイスラム教徒で「外国人諮問委員会」という市内で暮らす外国人で構成された公的機関があって、議会や行政、裁判所などに外国人の要望を提案できるそうです。

受付: それは素晴らしいですね。

男 : 「トルコから来た人たちも納税者だ」と市がイスラム墓地を建設したそうです。

受付: ドイツは、私たちのいいお手本になりそうですね。

男 : 日本とドイツの差はいったい何なのでしょうか。

受付: 日本人は、外国からやって来る人たちを「短期間だけ来る人」と見なしがちですね。

男 : なるほど。外国から来た人たちを「ずっと私たちといっしょにいる人」、「人生を通じて尊重し合う存在」として考えなきゃいけない時だということですね。

受付: そう、特に1980年代から多くの外国の方たちが日本にやって来て、今では290万人ほどが住んでいます。その方たちが骨をうずめるつもりで日本にいて、よかったと思えるような社会にすべきですね。

男 : お墓の問題だけではありません。年金についても「老後は大丈夫か?」と日本人が自分のことばかり気にするのではなく、あまり長い期間お金を積み立ててない外国の人たちでも、しっかりと老後の生活を送れるように政府が考慮してあげるべきですね。でなければ、日本に骨を埋めるつもりで誰もやって来てくれない。

受付: まさに、その通りですね。

男 : 外国から来た人が、日本人と同じように尊重され、生活して年をとり、亡くなり、葬られる。こんな当たり前のことができるような国に日本を変えていかねばなりませんね。

受付: そうですね。ところで、本日のあなた様の葬儀のご相談は‥

男 : 海外の方たちのために、僕が生きている間にもっとできることがありそうです。僕自身の葬儀は、その後で考えることにします。

文責 玉木英明