2021-11 増える日本の小さなお葬式。にぎやかなアジアのお葬式はいかが?
葬儀社にようこそ
男 : あの…
受付 :いらっしゃいませ。明るいお葬式は命の糧。あなたのフューネラルを真心でお作りする、玉木葬式企画でございます。
男 : 今回、思いきった設定ですね。
受付 :ありがとうございます。さて、どなたの、どのようなお葬式を企画しましょうか?
男 : まだ…先だとは思いますが、ぼくは自分の葬式のことが心配なのです。
受付 :あなたご自身のお葬式ですか?
男 : はい、ぼくは寂しがり屋なので、大勢の人に参列してほしいのです。
受付 :おっしゃる通り、最近は少人数でのお葬式が増えてまいりました。公正取引委員会の調査では、8割の葬儀で参列者が減少しています。
男 : どうしてこんなに参列者数が少なくなったのですか?バブルの時代の葬式は、人があふれていたじゃありませんか
受付 :30年ほど前は、お葬式には故人とは直接面識のない人たちが多く列席していたのです。
男 : どういうことですか?
受付 :死んだ方と関係の深い人、交友のあった人の参列はもちろんありましたが、それ以上に 遺族と職場を同じくする人やご近所の人など、義理で参列する人が多かったのです。
男 : なるほど。「お別れ」よりむしろ、残された人の人間関係が影響してたのですね。
受付 :その通りです。ところが10年ほど前からは、家族と親しい友人だけで葬式をしたいという割合が大幅に増えてきました。
男 : どうして、そんなふうに変わってきたのですか?
受付 :長寿の人が増えて、亡くなった人の子供も退職をしている場合が多く、職場の人も義理で来る必要がなくなったのです。
自宅で葬儀をおこなった時代
男 : 自宅では、お葬式はできないのでしょうか?
受付 :一戸建てなら不可能ではありませんが、アパートやマンションにお住まいですと、葬儀の実施は非現実的です。
男 : 何十年か前に、いなかのぼくの実家で行われた葬式が、とてもよかったので…
受付 :ご近所の人たちも、たくさんお手伝いに来てたでしょう?
男 : はい、町内会の人たちが、総出で手伝ってくれていました。
受付 :家の中に祭壇を作ったり花や焼香の台を設けたりするのは、葬儀社にまかせるとしても、町内会の人に「手伝って」いただくこと自体、今では困難な状態です。
男 : なるほど。平日はもちろん土日でも、皆それぞれぬけられない仕事がありますよね。
受付 :さらに、参列者は車で来ます。かなり広い駐車場が自宅のそばに必要です。もちろん家の中にも祭壇やいすを並べるための広いスペースが必要です。
男 : 人生最後に、みんなが「家に」来てくれることが、最高に嬉しい気がするのですが…。
受付 :自宅での葬儀では、家の中を色々な人が歩き回ることになります。しかも、各々がどこの誰か、親族なのか近所の人なのかも、正直わからない状態です。ですから、喪服を着て葬式場に登場する「香典泥棒」にも警戒しなければなりません。
男 : そんな奴がいるのですね?葬式で泥棒するなんて、実にばちあたりですね。
受付 :腕のいい香典泥棒は、涙ながらに故人の話をしながら香典を持ち去ったといいます。
中国や韓国の葬式
男 : ぼくの葬式は、にぎやかにできますか?
受付 :中国式の葬式など、いかがでしょう?
男 : 中国式?
受付 :はい。中国では、いかに大勢の参列者を葬儀に呼んだかで、故人への弔意や尊敬の念を表したと考えます。たくさんの人に集まっていただくために、裸のショーもよく開かれます。
男 : 裸のショー?葬式で?
受付 :多くの参列者を集めるための、有効なオプションでございますよ。
男 : ほ、ほかのオプションは…
受付 :「泣き女」のオプションも、人気があります。
男 : 泣き女?
受付 :はい、日本人はあからさまに感情を外に表すことをしません。葬儀の最中に大声で泣いてくれる「泣き女」は、中国や韓国ではよく登場します。私ども専属のプロの泣き女が葬儀場に響かせる激しい泣き声、慟哭(どうこく)は、皆様にご満足をいただいております。
男 : 少し、こわいような、聞いてみたいような…
受付 :「通夜」に、大勢の人を集めるオプションもございますが。
男 : 通夜に?
受付 :はい、主にフィリピンやシンガポールに住む方たちの、数日間続く葬儀に対応します。
男 : そんなに長い間、遺体の番は誰が…
受付 :マージャン好きの人たちに集まっていただき、連日連夜マージャンをしながら寝ずの番をしてもらうのです。遺族が参加者にご飯やお酒を提供します。お通夜はマージャン好きの方たちにとって、たまらないスポットです。
インドネシアのバリ島では
受付 :インドネシアのバリ島で行われる葬儀にも、私どもは対応いたしております。
男 : おお、あそこはヒンズー教徒が多いのではないですか?
受付 :おおせの通りです。バリ島では、いったん埋葬した遺体を掘り起こして、火葬にします。
男 : ほ…掘り起こして?
受付 :そうです。ウク歴という複雑な周期の暦にそって、村ごとに数人の火葬を一斉に行うのです。
男 : なるほど。合同の葬儀ですね。
受付 :火葬は「バンジャール」と呼ばれる地域共同体の組織が宗教儀礼一切を地元のメンバーで行うのです。
男 : にぎやかなのですか?
受付 :はい、バンジャールにはガムラン音楽や様々なダンスのグループがいて、遺体を入れて運ぶための御輿(みこし)も、村人みんなで、何週間も前から手作業で作ります。
男 : なるほど。大勢の人たちが葬儀にかかわることを誇りにしているわけですね。
こだわりの霊柩車
男 : ぼくは車好きなので、霊柩車にもこだわりたいのですが。
受付 :ご安心ください。私どもでは数々の霊柩車をとりそろえております。
男 : あの、でかい屋根の付いた霊柩車はありますか?
受付 :「宮型」霊柩車ですね。実は、唯一あの霊柩車を製造していた大阪市鶴見区の会社は2017年に倒産してしまいました。
男 : 倒産?
受付 :はい、全国の火葬場が、あの「宮型」霊柩車の入場を規制したのです。
男 : どうして規制を?
受付 :葬儀場から同じルートで火葬場に走るので、一日に何度も目にする派手な霊柩車は住民から嫌われるようになってしまったのです。さらに、社会の洋風化や、さきに申し上げた「感情を派手に外に出さない国民性」から、次第に敬遠されるようになったのでしょうね。
男 : では、ぼくはもう乗れないのですか?
受付 :いえ、あの宮型霊柩車は、モンゴルの首都ウランバートルでは「走る寺」として大歓迎されています。お時間さえいただければ、持ってまいりますよ。
男 : モンゴルといえば、社会主義時代に「寺」が破壊されたり迫害されたとききましたが…?
受付 :はい、ですからあの宮型霊柩車は、仏教のイメージアップに最適なのです。
男 : モンゴルのお葬式は華やかなのですか?
受付 :盛大に死者を弔います。もともと軽トラックで棺を運んでいましたから、この豪華絢爛な宮型霊柩車の登場はセンセーショナルでした。今も予約でいっぱいです。
骨を海や山にまくのは
男 : ぼくの葬式を、どんなふうにすればいいのか、迷うばかりです。
受付 :あなたの信ずる宗教は何ですか。
男 : それが特にない状態で…。正月は神社に行くし、実家には仏壇がありますし、ハロウィーンもクリスマスもお祝いします。
受付 :ごくありがちな日本人ですね。特にこだわらなければ、「散骨」という方法もあります。
男 : ええ?骨をばらまくのですか?法律で許されているのですか?
受付 :現在は、合法とも違法ともいえず、グレーゾーンにあります。個人が節度をもっておこなった散骨については、法律で罰せられた事例はありません。
男 : 火葬したままの骨が捨ててあったら、殺人事件とまちがわれませんか?
受付 :はい、散骨のために、骨は粉砕してパウダー化する必要があります。
天国に行けるなら
男 : 天国に行けるなら、どんなお葬式でもいいなと思うようになってきました。
受付 :私どもで先月導入したばかりの新システムがございます。亡くなった人ご自身が先頭に立って天国へのぼって行くことができます。今、話題最前線のシステムです。
男 : 先頭に立って天国へ?それはいい、ぜひ予約したいですね。
受付 :承知いたしました。では、このカンダタ・システム、今なら予約は無料です。
男 : どこかで聞いたことのある名前ですね…。天国までどうやって行くのですか?
受付 :簡単です。亡くなったら、この糸を登るだけです。
男 : ほう、自分で登るのですか?
受付 :そうです。少し糸は細いですが、天国に通じていますから、迷うことはありません。ただし…
男 : ただし?
受付 :後からのぼってくる人がいても、その方たちへのお声がけは、くれぐれもなさらぬ
ように。
文責 玉木英明