2023-09 たばこ。吸うのは自由でも吸わせちゃいけない、高額納税グッズ

                                                                     





こはドラッグストア

 男: おい、店員!

店員: いらっしゃいませ。あ、あなたはゴルゴ13(サーティーン)の、デューク東郷!

 男: それ以上言わなくてもいい。今の若者たちはどうせ知らない。

店員: タマキタイムズの作者なら、古いヒーローを理解してくれると思いますよ。

 男: ここはドラッグストアだな?

店員: はい、全国に2700店舗を展開する、業界でも最大手のドラッグストアでございます。

 男: この店には、私の欲しいものが見当たらないのだが。

店員: そんなことはございません。お薬からティッシュペーパーまで、何でもそろうのが、ドラッグストアでございます。最近ではスルメやピーナッツまで置いてございます。

 男: さっきから見て回っているのだが、ないぞ。

店員: 何をお探しですか?

 男: このかっこいいしぐさを見れば、何を探しているか、わかるだろう?

店員: ‥しぐさで探しているものを当てろというのですね?うーん、ボラギノールですか?

 男: なんでこのしぐさで、痔の薬を探していることになるのだ?

店員: もうしわけございません。では、ア、アテントですか?

 男: あのな、それは大人用おむつだろ?下半身からはなれろ!

店員: ピロエースですね?

 男: それは水虫の薬だ!このスタイルだ!

店員: おお、口にくわえると、サマになるやつですね?!

 男: ようやく分かってくれたか?

店員: 糸ようじ!

 


健康を推し進める

 男: あのな、私のほしいのは「たばこ」だ!

店員: 申しわけありません。私どものドラッグストアに、たばこは置いてございません。

 男: 最近まで売ってたじゃないか!

店員: 先月で販売から手をひきました。

 男: バカなことをいうな。日本国内でたばこは4兆円も売られているはずだ!

店員: その通りです。ただ、私どもドラッグストアでの売り上げはその2%ほどですが。

 男: それでも年間で200億円にのぼるじゃないか。販売から手を引けば、売り上げが激減するぞ!

店員: 健康になるための薬を売っている会社で、社員にたばこを吸うなといっているのに、お客に売るというのは筋が通らないのです。

 男: しかし、たばこは一定の需要があって、常連客をかかえている「優良商品」だぞ!

店員: おっしゃる通りです。たばこは、ほかのものと一緒に「ついで買い」が期待できる、とてもいい商品です。

 男: 売上高を下げてまで販売をやめようという理由はなんだ?

店員: はい、「健康を推し進めているドラッグストア」というイメージを育てる方が、大切なのです。

 


命を短くする方法

 男: たばこを吸うと、何がいかんのだ?

店員: 心筋梗塞、脳梗塞、ガンになる確率が飛躍的に上がります。皮膚炎も引きおこし、アレルギー性鼻炎とか食物アレルギーも大幅に増やすことが統計で証明されています。

 男: 一度にたくさんしゃべったな。要は命が短くなるということだな?

店員: その通りです。

 男: 多少命が短くなったって、いいじゃないか。命の長さを決めるのは自分だ。

店員: あなたは、ご自身の大切な人に、命が短くなるようなことをさせたいと思いますか?

 男: そりゃ‥思わないよ。

店員: あなたの子が、たばこをくわえて自転車に乗ってたら‥

 男: ‥大人になるまで待てといって、取り上げるだろうな。

店員: 成人式を迎えたら、大人なのだから、どんどんたばこを吸えといいますか?

 男: わざわざ吸わなくてもいいよ。

店員: どうしてたばこを吸ってるのと子どもに聞かれたら、何と答えますか?

 男: 「吸いたいから」だ。

店員: どうして吸いたいのですか?

 男: 「落ち着いて気持ちがよくなるから」だな。

店員: 落ち着いて気持ちがよくなるものを、子どもがどうして吸っちゃいけないのですか?

 男: 「命が短くなるから」に決まってるだろ?

店員: 「命を短くしても」気持ちがよくなりたいのですか?

 男: わかったよ。子どもに売らなきゃいいのだろ!

店員: コンビニでたばこを買うときに、20歳以上であることを証明するのはパネルにタッチさせますよね。あれで、ほんとうに20歳以上かどうかを確かめていると言えるのでしょうか?

 男: まあ、形だけだな。

店員: これからは、大人かどうかを確かめることよりも、煙を肺に吸い込んで健康など保つことはできないということを教育することのほうが、大切なわけですね。

 


「煙がいやなヒト」を守る

 男: 日本の喫煙対策は、進んでいるのか?

店員: タバコ規制枠組み条約をFCTCといって、喫煙に対してそれぞれの国がどれくらい取り組んでいるか点数化しています。

 男: それで、日本はどうなんだ?

店員: 日本は3年ほど前まで先進国の中で最下位のグループでした。2019年9月号のタマキタイムズをご覧下さい。

 男: たばこは嗜好品(しこうひん)だ。大麻やコカインならともかく、自分の意志で大人はたばこを吸えるはずだから、そんなものを点数化すること自体ナンセンスじゃないか。

店員: 問題は、たばこを吸っている人自身ではなくて、その煙が流れてくるところに「吸いたくない人たち」「たばこの臭いが不快である人たち」がいることなのです。

 男: たばこの煙を吸いたくない人を守る法律は、日本でも制定されなかったか?

店員: 2020年4月に、健康増進法の一部が改正・施行されました。

 男: おお、ごく最近のことだな。

店員: はい、ようやく学校や病院、行政機関の庁舎などでの「敷地内禁煙」が義務化されました。

 男: たしかに、喫煙をする私たちも、社会の中でどんどん追いやられ、肩身が狭くなってきた感じがするぞ。

店員: ようやく日本も国民の健康を本気で考えるようになってきたといえます。

 男: 日本で、たばこを吸う人は減ってきたのか?

店員: はい、減りました。たばこを習慣的に吸っている人の割合は2000年には男性の47.4%でしたが、2019年には27.1%に減りました。

 男: おお、20年ほど前、国民の男性の半分がたばこを吸っていたのに、今では4分の1ほどに減ったわけか!

 


たばこが売れなければ

 男: 日本政府は、国民にたばこを吸わせたくないのか?

店員: はい、おもて向きにはそう表現しています。

 男: おもて向きには?

店員: たばこの販売量が減れば、政府は困ったことになります。

 男: どういうことだ?

店員: 日本にはたばこ事業法という法律があって、財務省が販売をとりしきっています。ですから、たばこの売り上げが落ちれば、とたんに国の収入が減ってしまいます。

 男: たばこ事業法って何だ?

店員: たばこを製造して売って税金をとることは「政府だけができる」という法律です。

 男: なるほど。ということは日本は「健康に悪いからたばこをやめろ」といいながら、「国の収入を増やすためにもっとたばこを買え」といいたいわけだな?

店員: その通りです。

 男: えげつないやないのとちゃうか?

店員: お客様は、関西人だったのですね?

 男: 動揺すると、なまるのや。

 


短命で貢献度大の高額納税者

 男: そんな矛盾、解決できるわけないじゃないか!

店員: いや‥実はそうでもないのです。

 男: なんだと?この矛盾を解決できるだと?

店員: お客様、たばこの値段は今いくらですか?

 男: 最近また値上げしたから、メビウスが一箱580円、セブンスターが600円だ。

店員: 高くありませんか?

 男: ああ、とても高い。

店員: 何か変だと思いませんか?

 男: 変だと?

店員: 国民の健康を保つために、国がたばこを吸いにくい環境を作っています。

 男: おう、そのとおりだな。

店員: 当然、たばこは売れなくなってきます。

 男: 税収が減るな。

店員: だからたばこの値段を上げて、数が少なくても高い税金を国が得ればいいのです。

 男: たばこを吸う不健康な人たちをねらって、多くの税金をかけるということだな?

店員: そうです。「短命におわる高額納税者」がいれば、日本も安泰です。

 男: 私は‥どうすればいいのだ?

店員: たばこを吸わない側の仲間にはいりたいなら、どうぞ。

 男: 吸い続けたいなら?

店員: 吸えばいいのです。そして吸って吸って、命を短くして、日本の税収に貢献すればいいのです。ただし‥

 男: ただし?

店員: 他の人に、決して煙をかがせないでくださいね。

 男: 命を短くするのは‥

店員: お客様の自由です。 


文責 玉木英明